1章 歩みの森編

第1話 時空神ナナとの一幕

 太陽の日差しが細々と抜け、森の中を薄く照らしている。


 オルタ暦2006ノ年 / 8ノ月 / 3ノ廻 / 風ノ日 、その森は一瞬だけ日光を遮る葉が全てなくなったかのように辺り一帯が光に溢れた。


 もしその場に人がいたら、神が降臨したと勘違いすることであっただろう。しかし、この光の現象はおそらく少数の実力がある者にしか見ることはできない現象であろう。


 そんな中、神に最も近いと言われているこの森の主はこのことを感じ取っていた。


「―――…!オルタ様…さすがに遅すぎますぞ…。しかし…感謝致します。我らが神よ…」


 周りに配下がいる中、1人呟く。その呟きは配下全員に届いていたが、誰もその意図を掴むことのできる者はいない。


「長?突然どうされました?」


 長と呼ばれた人物は先ほどの現象を感じ取ることのできない配下を残念に思いつつも、仕方のないことだと思い、誤魔化した。


「いや…たった今腹痛が治ってな…」


 無理矢理な誤魔化しで大丈夫か?と思ったものの、


「ハッハッハ!主よ!面白いことを言うではないか!」


 その言葉を皮切りにドッと笑いが起き、何事もなかったかのように流された。


「まぁ、バレてもいいんじゃがな…まだその時ではないか。ちょこちょこ見守るとしようかの…」


 今度は誰にも聞かれぬような声で呟いた。









「知らない……森だ?」


 目が覚めると、森の中にいた。ん?あれ?声が…


「んん!あーあー、おー、声が幼い!…って、えぇ!視線も低い!子ども!?」


 15歳くらいから始まるのかなとか思っていたらまさかの赤ちゃん卒業してすぐくらいの体格であった。


「まーしゅぎょーしなきゃだし、いっか!でも上手くしゃべれないね…」


 年齢が思ってたより低い分、それだけの修行時間が増えたと思い、逆に良かったと自分を納得させる。


 そーいえば能力の確認ってどうやるんだろう?と思っていると、頭の中にピコン!と電子音のような音が鳴った。そしてゲームのステータス画面のようなものが浮かび上がると、そこには泣いている神様と十二単のようなものを着た美人さんが映っていた。


「はじめまして。ゆ―――アーク様。私は時空神をやっております。ナナと申します!以後お見知りおきを!」


「あ、はい。こちらこそ、よろしくおねがいしまちゅ!…します!」


 盛大に噛んだ。恥ずかしすぎる。赤面していると、ナナ様も耳を真っ赤にして横を向いている。そんなに笑わなくてもいいじゃん!!


 一方ナナは。


 か…可愛すぎるぅぅぅぅぅう!!!!


 悶絶しているだけであった。


 1分くらい無言のまま時間が過ぎ、立ち直ったアークは能力の確認について聞くことにした。


「神様に聞きたいことあるんですけど、いいですか?」


 オルタ様の方に聞いてみた。


「あぁ、なんでもき―――――」


「はい!なんでも聞いて下さいな!アーク様!」


 食い気味にナナがオルタに被せ遮ってきた。アークはちょっと引きながら、


「能力を確認したいんですが、どうすればいいんですか?」


「あ、ちょっと待ってて下さいね。そちらに向かいます。」


「えっ?それはどーいう―――」


 突然目の前の空間が光り出し、ナナが現れた。


 おぉ!―――でも、神様ってこっちに世界に来ても大丈夫なんだろうか…と思っていると、ナナが喋り出す。


「お待たせしました。アーク様の疑問を全て答えるのは時間がかかるので、効率の良い方法で行います。それとちょっとしたお詫びを込めて私からプレゼントを贈りますね。」


 そういうと、ナナはアークに近づき、両頬に手を添えた。


「アーク様…」


 色っぽい声と表情で顔を近づけてくるナナ。


「え、なにをす―――!?」


 ちゅう。ちゅ。ちゅぱ。くちゅくちゅ。ちゅぱ。―――――


 アークは初めてのキスにかつてないほどの衝撃を受けた。それと同時に知識と力が流れ込んできて、意識を失いそうになるが、必死に保つ。


 ちゅぱっ。


「うふふ。ファーストキス、もらっちゃいましたね?かわりに私のファーストキスをあげたので許して下さいね。」


 何分くらいキスしていただろう。アークは夢のような時間だと感じていた。実際には2分くらいで済むのだが、ナナがこれ幸いと30分もキスし続け、あわよくば自分に夢中にさせようとしていた。


「は、はい。ナナ様、ありがとうございます…///」


 アークはナナの目論見通り、落ちていた。前世では健全すぎたので、恋もまともにしていなかったアークには刺激が強すぎたのだ。


「うふふ。可愛いですね。アーク様、時間がありませんが少しお話しましょうか。」


「え?あ、分かりました。」


 早速依頼か何か来るのかな?と思ったが、そうではないらしい。


「アーク様は今回の生を終えると、魂はこの世界のみ…惑星オルタの輪廻に加わることとなります。―――ですが、アーク様は生涯の中でおそらく神々に匹敵する力を身につけるでしょう。」


 ええええ!僕、そんなに強くなれるのか…??


「なんの取り柄もない平凡以下の僕が本当に強くなれますかね…?」


「ええ、私はあなたの魂をずっと見続けていました。生まれ変わっても生まれ変わってもずっと能力が低く病弱な体で生まれるあなた。それでも毎回毎回あなたは逆境を乗り越えようとしてきました。今生では能力に恵まれていますので、きっと強くなれますよ?うふふ…」


 時空神様はずっと見守ってくれていたのか…それにしても僕は前世でも軟弱だったんだね…悲し。


「話を戻しますね。アーク様は、力を手に入れこの世界に多大な貢献をした場合、神に至ることが可能です。―――――私のようにね。」


「え!?ナナ様は元人間なんですか!?」


「はい、正確には元エルフなのですが…当時の勇者が無能だったので私がほぼ1人で魔王を討伐して人族の国家の膿を出し続けていたら、気づいたらこうなってましたね…」


 遠い目をしながら過去の話を嫌そうに口にした。


「実は、私のように人間から神に至ったのは今は私しかいないのです。なので、いろんな話を神界でしたいので…もし良かったら神になって下さいね?もしなってくれるのなら…キスだけじゃないお礼も―――しますよ?」


 耳元でそんなことを言われたアークは昇天しかけた意識をなんとか取り戻した。


「は、はい!ナナ様のために、頑張ります!待ってて下さいね!」


 アークは顔を真っ赤にし、目を直視できず、チラチラ見ながら精一杯に答えた。


 ナナは悶絶した。いままでずっと想い続けてきた奥手な子が自分の―――エッチなお礼を期待しているという事実に興奮を覚えた。


 ここでナナは時間が無いと悟り、伝えなければいけないことを伝えることにした。


「アーク様。私から、2つほどお願いがあります。」


「はい、なんでしょうか、?」


「まず1つ目は、私と話すときは敬語はやめて普段通りに話して下さい。あとナナとお呼び下さい。その…時空神ではあるものの、私は気に入った人には敬語を禁じるというか、あまりして欲しくはないと言いますか、あの、つまり普段通りでお願いします!」


 かなりの早口で顔を赤くしながらお願いしてきた。友人がいない子が勇気を出して声をかけたみたいで可愛い、とアークは思った。


「わ、わかりま―――わかったよ、ナナ。」


 アークは照れながらもナナの名前を呼び捨てで呼んでみた。なんだかリア充というものを体験した気分になった。それはナナも一緒だが。


「は、はい!ありがとうございます…!あ!、2つ目ですね、それは、今生では、たくさんの方と恋愛し、結婚してほしいのです。」


「え!な、なんで…?」


「あなたはこの世界、惑星オルタでは歴史に名を残すほどの偉業を成すでしょう。そうした場合、子孫をたくさん残さなければいけません。それに、惑星オルタの文化は一夫多妻制です。前世ではあり得ないことだったのでしょうが、慣れて下さいね。それに、おそらくすぐ恋人はできますよ。」


「わ、分かりました。僕は今まで彼女とかいたことないので分かりませんが、頑張ります!」


 そんな時、オルタが声をかけてきた。


「おーい、ナナやーい。そろそろ終わったかい?そろそろ戻らないと隠しきれないから戻ってこーい。」


 神には神気と呼ばれるものが常に体に纏っており、神気を垂れ流しにしてしまう。それが地上界に流れてしまうと、様々な災害が出てしまうのだ。


「分かりましたよ。アーク様、そろそろお別れです。ずっと見ていますからね…。」


「うん、分かった。…最後にさ、ハグしてもいい?」


 アークはこの時、初めて会ったときの仕返しをしてやろうと考えた。


「…!は、はい!どうぞ!」


 ナナは両手を広げてアークを受け止めようと待っている。

 そこへ小走りで近づくと、ナナを抱きしめるとともに、軽いキスをした。


 ちゅ。


 ナナは思ってもいなかった不意打ちに、今まで味わったことのない歓喜と興奮により、失神した。


「ふにゅうぅぅ…」バタッ。


「え!ナナ!大丈夫ッ!!!」


 そんな様子をみて、オルタは呟いた。


「アーク君…恐ろしい子…!!」


 おろおろしているアークを見て楽しみながら、オルタはナナを回収した。


「じゃあ、アーク君。ナナが迷惑かけたね。じゃ、ほんとに地上界でいっぱい子孫を残すんだよ!頼んだよ!ナナとエッチする練習だと思ってさ!あはははは!!じゃあねえ!!」ブチッ。


 あの神様、最後に爆弾投下してきやがった…!担当の神様変えてほしい…!!


 そう切に願ったが、これはどうしようもないことである。

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