春心 ~恋みのり~





海なんて、嫌いだ。


ベタつく海風も、いつの間にかあちこちに潜り込んでくる砂も、潮の匂いも、沸き立つ波も、砂浜に打ち上げられた海藻も、群れて鳴く海鳥も、全部全部、嫌いだ。


捨て台詞みたいに嫌いなことを並べ立ててみたところで、それでもきっとふたりとも「それで?」って顔をして、当たり前みたいに私のこと誘って、もちろん3人一緒に行くものだと決めてかかっている。

今回だって、そうだ。

だから、


「さすがに来週はやめて」と懇願した。

「せめて2月にしようよ?」と頼み込んだ。

「だったら1週目じゃないとイヤだ」とルカが口を尖らせた。

ミフユだけが「ふたりに合わせますよ」とのんびり笑っていた。

それで予定は決まった。決まってしまった。ああ。





「いいじゃない。だって今日は、海目当てで行くんじゃないんだから。ね?」

たしかにルカが言う通り、本日のメインディッシュは、イチゴ。

そう。1月に行った時に初めて知ったイチゴ狩り。海はおまけだ。分かってる。

「今日は朝ごはん抜いてきました」

いつになくミフユがやる気を見せている。

「っていうか、食べホの前に何か食べてくるとかふつうあり得ないでしょ」

ルカの言葉に頷く代わりに、お腹がぐぅ、と鳴った。聞くなりミフユが吹き出している。その勢いでか、ミフユのお腹からも音がする。ぐるるるる。

何よ、自分だって同じじゃない。軽く睨むと、ミフユはひょいと目を逸らして知らん顔。横でルカがくすっと笑っている。ルカのお腹からだけ、まだ何の音も聞こえてきていない。それとも私が聞いていなかっただけで、やっぱり鳴ってたんだろうか。



眠たくってあくびが出る。

ネットでおすすめされてたとミフユが言うから、一番乗りを目指して早くに家を出てきたのだ。

「一番最初にハウスに入ると、一番大きいイチゴが食べられるんだって」

「そりゃあまあ、当然そうなるだろうけど」

相づちを打ちながらも「大きいってそんなに大事なことなのかなあ」とルカが首を捻っている。「大きい方が甘いとか?」

「うーん。それが分かんないだよね、正直言うと。それでもせっかくだからぼくは大きいのが食べたい。絶対に絶対に大きいのが食べたい」

「ってことは、『イチゴ』って言うだけに狩猟本能?」

「ああそれなのか、なあ?」

「うーん。……いや、やっぱ違うな。大きい方が値段が高いからだよきっと」

「ええっ? そこ?」

「だってほら、果物でも何でも高級品ってどれもやたら大きくって、形がきれいじゃない? イチゴも同じでしょ?」

「ああ。言われてみたら、一粒千円以上もする箱入りの超高級品イチゴ、テレビで見た記憶が」

「ね? だから絶対に大きい方が値段高いはずだよ。スーパーの特売で親が買ってくるイチゴって、どれもやけに小さいもん」

「そういうことかぁ。でも、大きいのっていつもあるのかな? 収穫は毎日してるんだろうから、だとしたら、イチゴって1日でどれだけ大きくなるんだろう?」

「そんなの考えたことなかった。ミフユ、面白いよ、それ」


朝、会ってからずっと、ふたりは臨戦態勢だ。アドレナリンが出まくってるんじゃないかっていう勢いで、電車内でもイチゴについて真剣に語り合っている。反対に私はお腹が空いてるせいかしゃべる気にならない。眠いのと相まって、ふたりの話をぼうっと聞いていたら、急にミフユが顔を覗きこんできた。

「ここまで喋らないのって珍しくないですか? ナツさん、どこか具合でも悪いんですか?」

ぼんやりゆっくりと顔を振って、返事をする代わりにぎーっと歯を剥いた。

「あ、これは”腹ペコ”ってやつだ」

ルカがにやりと笑うなり、

「噛みつかないでよ?」

わざと腕を私の口の前に突き出してきた。噛みつく代わりに倒れ込むようにしてルカの首元に顔を埋め、唇を押し当てる。腹ペコなんだもの。仕方ないよね?

「ぎゃー! このヴァンパイアめ!」

ルカがくすぐったそうに身をよじりながら笑う。ミフユが慌てて「シーッ」と口元で人差し指を立てる。

そんなのお構いなしに、ルカは私をぶら下げたままミフユの首元に手を伸ばすものだから、さして揺れてもいない電車の中、全員で倒れそうになった。ドアに手を突きつつミフユが必死で踏ん張って、何とか3人分の重みを支え切る。ミフユは額に冷や汗を浮かべているけれど、ルカと私は笑いを堪えるのに必死だ。

ああ。今のでもっとお腹が空いてきた。


駅前からは観光農園行きの無料送迎バスが20分間隔で出ている。私たちはそれには乗らないことに決めていた。乗ると、いくつもある農園の中のひとつに自動的に割り振られて送ってもらえるそうだけど、それは嫌だとミフユが主張したからだ。

ミフユ曰く「行きたい農園がある」のだそうだ。だから私たちは”徒歩約20分”とチラシに書かれた道のりを、3人でてくてくと歩いていく。腹ペコで。

「どこに行くんでも全然構わないけど、そんなに農園によって味とか何とか違うものなのかねえ?」

なんだか田舎のおばあちゃんの世間話みたいなノリのルカ。

「そんなのぼくだって知らない。ただ、『18番がおすすめです』って書いてたひとが何人かいたから、ここに行くって決めたんだ」

地図を確認しながら、ミフユが18番推しのコメントを見せてくれる。18番というのは、チラシ上で目当ての観光農園に割り振られた番号だ。

「ああほんとだ。凄い。『毎年行ってる』って書いてるひともいる」

「でも、理由は書いてないけど」

「そうだね。分かればもっと良かったんだけど、でも、3人でイチゴ狩りデビューするんだから、選べるならいいこと書いてる所にぼくは行きたかったんだ」

デビュー、か。ミフユってば面白いことを言う。

と思ったら、前方に大きなハウスが何棟か並んでいるのが見えてきた。

「多分、あそこだ」

ミフユの声が弾んだ。




ハウスの入り口はまだ開いていなかった。人の気配はするものの、誰の姿も見えない。

「すみませーん」

3人で何度か繰り返してようやく、奥の作業場みたいな所から割烹着姿のおばさんが現れた。

「ごめんなさい、お待たせしちゃったね」

慌ただしくハウスの入り口を開けてくれる。


中は、春だった。

入るなり、甘い香りが鼻腔を満たした。

「あ、これは」

ミフユの目が丸々と見開かれている。横でルカが口を大きく開けて深呼吸している。

「お腹、空いたぁ」

つい、口にしてしまった私の言葉におばさんは笑いながら、

「はい。これ使って」

ハウスの中、入り口脇に山積みになったプラスチック製の白いトレーを3つ取って、料金と引き換えに手渡した。

「この穴の部分は練乳入れ。ここに置いておくから足りなければ好きに足していいからね」

説明しながら、大きなボトルから練乳をとろりと注ぐ。

「ヘタはここに入れて、溜まったらゴミ箱はここ」

他にもいくつかの説明をぱぱぱっと済ませると、

「自慢のイチゴだから、いっぱい食べてってね」

時間になったら戻ってくるからと言い残して、おばさんは足早にハウスを出ていった。


「貸し切りなんだけど」

ルカが戸惑ったような顔をしている。

「むっちゃ大きいんだけど」

うねをチラ見したミフユの顔が、嬉しいのを通り越していっそ無表情みたいになっている。

「……食べたいんだけど」

私の言葉にふたりとも、

「そうだよ!!」

半分叫ぶようにして、近くのイチゴを手早く摘み取った。

「あ、ダメだよ! そんな適当に選んじゃ」

「……どういうこと?」

ぴたりと手を止めたルカが、口だけ動かす。

「だって、せっかくだもん。とびっきりの1粒を探して食べようよ? ミフユが言った通り、これから食べる1粒は、イチゴ狩りデビューの正真正銘初めての1粒なんだから。そうでなくたって、こんなにお腹空いてたら絶対美味しく感じるに決まってるのに、それを雑に選んだイチゴでデビュー飾っちゃうだなんて、あんまりもったいなくない?」

「……もしかしてナツさん、それ言うためだけにエネルギー貯めてて今までほとんど喋らなかったとか?」

「……バカ」

お腹空き過ぎてるのに、ミフユったら力が抜けるようなこと言わないでよ、全く。



イチゴはどれも瑞々みずみずしく光っていて、宝石のようにうるわしい。こんなにきれいな果物だったかな、って見惚れてしまうくらい、緑の葉の間からイチゴの赤がきらきらときらめいている。ふたりを止めておいて言うのもなんだけど、とにかくどれでもいいから今すぐ口に入れたくなるくらい美味しそうだ。イチゴの香りにくらくらと酔いそうになりながらも、誘惑に負けずに最高の1粒を探す。


あった。これだ。これに決めた。

正統派美人のきれいな円錐形で、見たことないくらい大きくって、まんべんなく赤くなっていて、果汁が満ち満ちているのが外から見てもはっきりと分かるくらいぴんっと張っていて、何よりびっくりするくらい甘くて爽やかでほのかに懐かしい香りがする。

イチゴ。イチゴ。とっておきのイチゴ。



ふたりはと見れば、お気に入りを見つけたのか、手にしたイチゴをうっとりと眺めているルカと、まだ探しているミフユ。

「食べてもいい?」

顔色をうかがうようにして声をかけると、「待って!」ミフユの声が飛んできた。

「あとちょっとだけ」

ルカが苦笑いしながら

「早くしてよ。じゃないとナツが怒り出すかもよ?」

「怒らないけど、でも、噛みつくかも」

「あー、分かりました。これ。これにしますから!」

葉の間からそれは丁寧にイチゴを1粒摘み取ると、ミフユは

「お待たせしました。いいですよ?」

と言って、大口を開けた。

「じゃあ、」

「はい、では」

「「「いただきます!!」」」


そこから先は、無言だった。

言葉なんて出てこなかった。出てきたのは甘い笑顔と甘い吐息だけだった。

あまりの幸せについ目を閉じれば、甘い甘い、赤。

ぱっと目を開けて、2粒目。

ああ、いざなうような甘く切ない香り。うっとりとして目が泳ぎ出す。

目を見開いて、3粒目。

口の中を満たす甘さが、体中にまで柔らかく広がっていく。

そうしてようやく言葉が零れ出した。

「おいしい」


「うん。こんなの初めて」

「ぼくも」

「いつも食べてるのと全然違う」


食べる手が止まらない。

大きくて赤いのを選んで、どんどん口に放り込む。

市販の1パック分くらいは駆け足で通過。無我夢中。

2パック目はスキップ。3人ご機嫌で感想を伝え合う。

3パック目はウォーキング。写真を撮り合って、ゆっくり楽しむ。

4パック目以降は、どんどんゆっくりになって、止まって、休んで、また動く、の繰り返し。マイペースで進んで、


「もう、食べられない」

「私も」

「ぼくはあとちょっと」


体中がイチゴ色に染まったんじゃないかと思うくらい、食べた。

しばらくはイチゴを食べなくていいやって思うくらい、食べた。

今、ハグしたら、イチゴの匂いしかしない自信があるくらい、食べた。

お昼ごはんのことなんて考えられないくらい、食べた。

食べた食べた、食べた。

それでもまだ10分、残ってる。


「動けない」

「私も」

「ぼくもそろそろギブ」


それでも甘酸っぱい香りに満ちたハウスは、ずっと貸し切りのまま。

このまま端っこにでもレジャーシートを敷いて、寝転んで昼寝したいくらいだ。

そうしたらきっと、とっても甘くて優しい夢が見られそうな気がする。

そう思った、目の前に。

甘くて優しい夢みたいなとびっきりのイチゴが隠れんぼしていた。


思わずそっと手に取った。

イチゴ。イチゴ。大きなイチゴ。

ハート型のイチゴ。


「見てよ?」

思わず声が小さくなる。3人だけの内緒話をするように。夢なら冷めないように。

ふたりが「え?」「何ですか?」とすぐに側に寄って来た。

「これ」

差し出した赤いハート型に、ふたりとも「わぁ」と小さくため息を漏らした。

「かわいい」

「うん」

「多分、2個くっついた形なんだろうけど、でも、なんか凄くない?」

「うん」

「これ。食べる前に、3人で写真、撮ろうよ?」

ミフユの言葉に、私たちは大きく頷いた。


ハート型のイチゴに寄り添うように、3人で撮った。イチゴを持ったひとりが3人の真ん中に立った写真を、それぞれ1枚ずつ。仲良く3枚撮り終えた所で、ちょうど時間だ。

ハート型のイチゴは、私、ルカ、ミフユの順に、3人で一口ずつ齧って食べた。

最後に食べたそのイチゴは、その日食べた中でもとびっきり、甘かった。


「逆立ちしても、今はもう何も食べられません。ごちそうさまでした。とってもとっても美味しかったです」

3人でおばさんにあいさつした。

5分ほど遅れて戻ってきたおばさんは、「よかった」と笑いながら見送ってくれた。

お土産用のイチゴを私だけ1パック買ってから、ハウスを後にした。




「あー。ほんと来てよかったねえ」

ルカの声が満足げに響く。

「こんなに美味しいなんて思ってなかったな」

これは私の正直な気持ち。特別イチゴ好きなわけでもない私が、これだけたくさん食べたのも初めてなら、食べたいと思ったのも初めてだった。それくらい、美味しかった。

「どれ食べても甘かったから、練乳なんてほとんど使わなかったし」

ルカの言葉に、ああ、そう言えば私も、と今頃になって気付く。

「しばらくはイチゴは食べないと思いますけど、でも、また来たいと思うくらい美味しかったです」

「ほんとに、ねえ」

相づちを打ちながら、ルカがしみじみと言った。

「予想してたよりももっともっといいって、やっぱり幸せだねえ」

そうか。言われてみればそうかもしれない。確かに『幸せ』って、いい方に予想を裏切られた時に、特に強く感じる所があるのかもしれない。

幸せを確認するように、買ったイチゴを覗く。

イチゴはパックの中でお行儀よく並んでいて、ハウスの中で見たのよりもずいぶんと上品そうなおすまし顔に見えた。それでもやっぱりとても幸せそうに見えるのは、文句なしに赤がきれいだからかもしれない。

こんなに美しくて幸せな赤は、初めてだ。




「後は、腹ごなしに海に行く、と」

のんびり歩きながら、ルカが言う。

「今日も風が強くなくってよかったですねえ」

ミフユが私の顔を覗き込んで笑う。

「サングラス、持ってきたよ?」

ポケットからこの前のサングラスを取り出してかけてみせた。

「似合ってますよ」

そう言いながら、ミフユもポケットから赤いのを出してかけている。

「あ、イチゴ色だ」

サングラスをかけたミフユを見て、ルカが嬉しそうに笑った。

「ほんとだ。なんかズルい」

これでイチゴの形してたらもっとズルかったねー、って言いながら、かばんから取り出した青いサングラスを、ルカはカチューシャ代わりに頭の上に乗せた。



ようやく駅まで戻ってきて、ここから先は海へと向かう道だ。

お腹が重い分だけ、この前よりもとろとろ歩いている。

風がない分、体中にまだイチゴの匂いがぼんやり残っている気がする。

「グミ、あるかなあ」

ルカの声が甘酸っぱく聞こえるのも、きっとイチゴの残り香のせいだろう。

「あるよ、きっと」

そう言って、ミフユが自分の顔からサングラスを外して、ルカの顔にかけた。

「サングラスがふたつって、ヘンだなあ」

自分でかけておきながら、ルカの顔を見てミフユが可笑しそうに笑ってる。でも、見るとやっぱり可笑しくて、私も釣られ笑い。

「ほんと。目が4つあるみたい」

「こっち向いて。写真撮るから」

「わ、そんなの撮らないでよ。ミフユったら、たちが悪い」

それでも知らん顔してスマホで写真を撮るミフユを笑って見ながら、私はルカの耳元に顔を寄せた。

「え?」

ルカが振り返る。

サングラスのせいで、表情は見えない。

「先、行ってて」

今度はミフユにも聞こえるように大きく言うと、ふたりに背を向け、駅に向かって走り出した。





そのままひとりで飛び乗った電車の中。お客さんが少ないのをいいことに、ひとりでボックスシートを占領する。

窓の横に買ってきたイチゴパックを置く。甘い甘い香り。その手前で頬杖をついて、窓ガラスにもたれかかる。頬に触れるガラスが冷たい。


動き出す、電車。

かたたん、かたたん、たたたん、たたたん。

少しずつスピードが上がっていって、そうしているうちに景色が変わる。駅の周りの立て込んだ町並みが少しずつ消えていき、代わりにくすんだ緑とその奥に、海。ぺったりと広がる海。

車窓の外に広がるこの海を、飛び乗った駅よりもう少し始発側に引き戻したあたり。そのあたりにふたりがいるはずだ。

今頃、ふたりは何をしているだろう。ふたりで何をしているのだろう。


グミは見つけられただろうか。グミ。冬の海に潜るグミ。

あるといいな、と思う。きっとあるだろう、と思う。あるはずだ、と願う。

グミ。グミ。私たちのグミ。海の中の、グミ。

グミよりももっともっと色鮮やかに真っ赤なイチゴを目の前に、私はお腹も胸もいっぱいだ。今はもう、これ以上は何ひとつ入らない。

だから、これはお土産。

だれに買った訳でもない、甘いお土産。



「食べ過ぎてお腹、痛くなってきちゃったから、駅のトイレに行ってくる。だから海、ふたりで先に行ってて」



ルカの耳元で囁いた言葉。

ほんとはお腹なんか痛くない。痛いのは多分、胸、だ。

痛くて、甘くて、ちょっぴり酸っぱい。

それがちょっと悔しくて、でも、ちょっとだけ嬉しくて、私は静かに目を瞑る。

まぶたの下で、イチゴはさらに甘く芳香を放つ。

Very Very Strawberry。

赤い電車の中で、イチゴの赤がひときわ光り輝いて見える。






家に帰ってイチゴを眺めていたら、閃くものがあった。

慌てて絵筆を取る。

スケッチブックに勢いよく書き散らす。

横で香り立つイチゴを深呼吸で味わいながら、描き続ける。ただひたすらに、無心で描く。気持ちが止まらない。ただひたすらに、赴く気持ちのままに絵筆を走らせる。


日付が変わる前。

あの夏の海の絵をようやく仕上げることができた。

出来上がった絵を机の前の壁にピンで留めて飾る。手前にはウニスタンドと、シーグラスをひとつ、並べて置いた。

壁に飾った絵は、水彩だ。黒と赤だけで描いた。

こんなに時間が経ってから、あの時、思いもつかなかったこんな色で仕上げることになるとは思ってもいなかった。でも、何でだろう。今はこれがいちばん、しっくりきている。

しばらくじっと眺めてから、イチゴを1粒、口にした。


明日はミフユがリクエストのピアノを弾いてくれる約束だ。

『Little Girl Blue』

その時に。そうだ、作ったままで置きっ放しだったウニスタンドを渡そう。

どうか笑って受け取ってくれますように。


Very Very Strawberry。

私は、私の赤を見つけた。

他の赤は、今はもう、見ない。

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