第15話 山小屋の夜
山小屋は六畳間ほどの広さで最近使われた痕跡があった。
住み着いていたらしい蛇など小動物の干からびかかった死体が裏にすててあったし、ドアは新しく作られているし中も掃除がされていた。たぶんタイシたちの一行だろう。薪の束もいくつかある。至れり尽くせりだ。
小屋から少し離れたところに遺体を埋めたとおもわれる新しい盛り上がりが二つ。死者に感じるものはみんな同じらしく、俺たちは思い思いに手をあわせた。
馬留もある。飼い葉おけもある。トカゲ馬たちをつなぎ、森の下生えを鉈で払ってあつめたものを飼い葉おけにいれ、魔法で水を満たしてやると彼らは満足そうにむしゃむしゃやりはじめた。おかわりまで目で要求されたので、さらに追加。動物でもいるといやなので気配察知を使いながら何かいたらそこは避けた。気配の主は小動物らしい。
「明るいうちに、弓を指南してあげましょうか」
姫にそういわれた。トカゲ馬の背中から荷物を下ろしたらしく、荷物をかついだセイリアがうんうんいいながらちょっと恨みがましい目でこっちを見ている。
「あの」
「盗賊のものまねをしたそうですね。弓のスキル、基本的な知識はないのでしょう」
「では刈った分を飼い葉おけにいれてからおねがいします」
「的を用意しますね」
的は姫のハンカチだった。たぶん王宮からずっともってきたものだろう。きれいな刺繍がしてあってちょっともったいない。
「まだありますから」
弓スキルを擬態で得た場合、できるのは立ち、膝立ち、伏せの基本姿勢と基本の射撃動作。それと直感的な距離感覚と矢の射撃イメージの取得。まず、この範囲だということを姫に確認された。それから、その時の指のかけかたや体重のかけかたについて質問され、よくわかってないことを指摘され、教えられた。つまり、それらの基本動作はどういう理屈で組み立てられているかだ。
「振り返って射るとすればどうしますか。やってみせて」
これはスキルが補助はしてくれない。素人目にも姿勢がくずれているのがわかる。そこに彼女はさっきした話をくりかえし、直すところを示唆してくれる。まず直接言わないのは自分で考えろってことだ。
「後ろの的をうってみて」
後ろにも的として大き目の布がひらひらしていた。ハンカチじゃないな。
矢は過たずその中央にとすっとあたった。鏃はどんぐりにかえてあるので貫通することはない。
「じゃあ、今度は自分で考えて。そこの倒木にこしかけて、窓から身を乗り出した感じで」
数回姿勢を直して今度もあたった。姫はそのあとちょっとした助言を一つしただけだった。
「上手上手。今のコツを覚えておいて。どんなときでもちょっと考えればあてれるうてるようになるから」
セイリアより教え方うまいな。
的にした布を回収して小屋にはいると、セイリアの悲鳴があがった。
「それ、あたしの予備の下着じゃないですか」
このふんどしっぽいほうが? と手の中のものに目をやるとひったくられ、すごい目でにらまれた。姫は涼しい顔。ひどい。
このあと真っ赤になった彼女にやけくそなメイス訓練に付き合わされた。
ぱちっと薪がはじけた。セイリアと姫はトカゲ馬からおろした荷物のしわけをやっている。俺は食べ終わった鍋に水をため、そとに流しに出た。
気配察知を行う。これも熟練度のあるスキルなんだろうな。魔力は使う必要はないが、察知範囲はせまいと思う。
その狭い範囲にちらっとひっかかったものがあった。
来たほうの道だ。鍋をこすって水を音がするように捨てると、気配は遠のいて消えてしまった。
二回もだまされているのだ、三回目があってもおかしくないな。
中にはいった俺は二人が荷物をわけているのに気付いた。
「相談がある。音、消せる? 」
音吸収の魔法のことかな。
「十拍くらいなら」
姫がうなずくので音吸収の魔法を発動する。
「危険だけど、ここから逃げるよ。馬はおいていく」
「口封じですか」
そこで時間がきた。姫はうなずいた。
いろいろ合点がいった。荷物をしわけているのは必要なもので持っていくものを選んでいたんだ。
それでももっていくつもりのものは結構な分量になる。できるだけ身軽にしてできるだけ遠くまでいかないと追いつかれてしまうだろう。
一人で逃げたのでは意味がない。
俺は静かにするよう二人にしぐさで伝えて収納の5をあけた。使ってないやつだ。びっくりする二人のまえで必要なほうをかたっぱしから放り込む。われに返ったセイリアが手伝ってくれた。姫は考え込んでいる。
すてていくつもりの分は収納4をあけてしまう。これで五つあるうち三つ使った。
姫はきいた。
「まだはいる? 」
収納3もあけてしまえ。
彼女は薪の束など、山小屋にあったものと自分たちでせおったいた分を押し込んだ。
「まだ少し明るいから仮眠をとりましょう。今夜は寝られないから」
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