第13話 勇者との邂逅

 目があいた。どれくらい眠っていたのか、今どこにいるのか、一瞬わからなかったが、じっと俺を見下ろしている二人の女の顔でわれにかえった。

 飛竜はどうなった。退治できたのか。

 体が少しも痛くないことに気づいて、彼女たちの人外を見る目に何がおきたかわかった。

「その、何を見たの? 」

「折れてまがった手がまっすぐになって傷口がふさがったり、真っ青だった顔色の血色がよくなったり、その程度だよ」

 セイリアのせりふは棒読みのようだった。

「召喚した勇者のことは聞いてましたが、目の当たりにするとなかなか気持ち悪いものですね」

 姫もひどい。つまりドン引きというわけだ。

 レベルアップで魔力も体力も全快するみたいだと思っていたが、骨折もめきめきなおるのか。

 

 ステータスボードを確かめる。


 レベル12(5)、力 16(13)、敏捷10(15)、知能8(19)、魔力 33(51/51)、体力39(31/31)、メイスファイター(ミミック/聖戦士/魔法使い/奴隷商人)、スキル 打撃武器、柔術、元素魔術(限定)、簡易鑑定 (擬態、収納、元素魔術、テイム(人間)、簡易鑑定、打撃武器)


 二つもレベルアップしている。それと、魔法扱いでないスキルがはじめてミミックのほうについた。

 飛竜はどうなったのかと思うと、巨体をセイリアのメイスであちこち壊されてよこたわっていた。翼の骨はおられ、頭は血まみれ、口からも大量の吐血。

「飛ぶために骨が中空になっててな。案外簡単にくだけた」

 たぶん、言うほどもろいものじゃない。衝撃をうまくあたえる技術があるからこそできたことなんだろう。

「これ、どうするの」

「飛竜の肉には毒がある。ちゃんと処理すればかなり美味い肉になるが、そんな時間はないな」

 王宮で食事にでも出たことがあるのだろうか。姫は残念そうにそういう。

「おいていくしかあるまい」

 だが、俺たちはすっかり忘れていた。追跡がついているかもしれないということを。

 馬蹄の響きが耳にとどいたときにはもう遅かった。六人くらいの騎馬がもうそこまでせまっていたし、反対側には迷彩服をきた鳥打ち帽の男が弓を手に立ち上がった。

 さっと簡易鑑定をする。あちらもやってるだろう。


 鳥打ち帽の男はちょっとかわった職能だ


 ジョナサン・スミス

  レンジャー 魔法 簡易鑑定、水取得、音吸収、音拡大、鷹の目


 名前からして召喚者らしいが、レンジャーは選択になかった。

 やってきたほう


 タイシ・シモマツ

  聖戦士 魔法 全能力上昇、回復促進、肉体補修、浄化、聖剣召喚、聖弓召喚

 カスミ・キリハラ

  盗賊 魔法 簡易鑑定、音吸収

 マリアン・コルネリ

  魔法使い 魔法 金属操作、着火、水取得、回復促進、衝撃上昇

 コーエン・ヨン

  スピアファイター 魔法 金属研磨、接着

 ハリネズミ

  狩人 魔法 鷹の目

 モグラ

  狩人 魔法 鮮度保持

 

 リーダーらしいタイシという男は俺と同年配に見えた。持っている魔法もとんでもない感じのものだらけだ。最初に擬態したのも聖戦士だったが、こんなにもってるなら当たり枠だったと思う。

 次に擬態するとしたら、興味をそそられるしレンジャーかな。といっても、簡易鑑定かけなおされると面倒なので把握したと相手が思ってからにしよう。

 それより、この状況をどうするかだ。

「大勢で何かご用でしょうか」

 セイリアがリーダー面で対応することにしたようだ。確かに偽装で姫はいまは狩人だ。戦士のほうがいい。

「飛竜をみかけたのでね。これはあなたがたが倒したのか」

「そうともいえるし、そうともいいきれないな。私たちを襲ってる途中で急に墜落したのだ。病気でもしていたのではないか」

「それでメイスファイター二人でもなんとか倒せたと、」

「空にいたままでは手も足もでないよ」

「確かにな。こいつには我々もてこずって、二度も逃げられた」

「立派な職能の方々がそろって何事かと思えばこれを退治するためであったか」

「そうだ。それにしても我々を避けていったのに災難だったね」

「見知らぬ集団がいれば避けるのは当然だろう」

 そりゃそうだな、とタイシは笑った。でも、目が笑ってないので怖いぞ。

「一応、聖杯王国の者として尋ねるが、どこにいこうとしていたんだ」

 六人は俺たちを半包囲する構えをとっている。正直、剣を抜くことになったらこれは詰んでると思う。もしそうなったら、一番危険なタイシの眉間に銃弾相当の石弾をぶちこもう。それで死んでくれたらやっと勝ち目がうっすら見える。

「山の向こうだ。この狩人の娘さんを家に送り届けるのが今の仕事だ」

「娘さん、どういうことだい? 」

 本人はさわやかな笑顔のつもりなんだろうな、って顔でタイシは姫にきいた。

「結婚するはずだったんです。でも、うちの父と義父になるはずだった人で喧嘩になっちゃって。父は殺されました。それで結婚は白紙。あたしは護衛に来てもらってたこの人たちと帰るところなんです」

 姫もすらすらよく言うよな。

「あっちの家の人間がハニでごろつき雇ってるかもしれないからね、峠を越えることにしたのさ」

 そしてセイリアも流れるように嘘を補う。

「そうか。なかなか大変だね。どうだろう、峠を越えるまで護衛させてくれないか」

「お礼にさしあげるものがありませんよ」

「なあに」

 タイシはにこにこした。

「この飛竜をもらうよ。そろそろ美味い肉がたべたかったんだ」

 こいつ、わりとちょろかったりしないか。いや、目があいかわらずだ。違うな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る