第8話 奴隷商人になる

 隷属状態が擬態しているほうについているなら、擬態を変えればいい。

 候補は二人あるが、迷う余地はなかった。

 護衛のゴールは優れた戦士だろう。だが、価値のある能力をもっているのは奴隷商人の口ひげ男だ。彼の使用人は主人の劣化版だろうし、御者も擬態する意義があまりない。奴隷の二人は隷属がもれなくついてくるだけ。

 ご主人様は火のそばにすわって明日の段取りについて使用人と話をしている。

 五秒間じっくり眺めて擬態をおこなった。

「ああ、タリン、水袋をいっぱいにしておいてくれ。水汲みではないぞ、ここの水は鉄分が強くてもっていきたくない」

 ちょうどいいオーダーがご主人様から出た。

 体が勝手に動くことはない。うまくいったようだ。だが、いまはまだふりを続けよう。

 馬車の後ろの荷物室に水袋がある。重くなるので、召喚した水をつめるのはその場でだ。誰の目にもふれない隙ができた。

 収納からステータスボードを出してみてみる。


 レベル9(2)、力 15(13)、敏捷11(15)、知能10(19)、魔力 21(18/20)、体力31(13)、奴隷商人(ミミック/聖戦士/魔法使い)、スキル テイム(人間)、徒手格闘術、簡易鑑定 (擬態、収納、元素魔術)


 引き続き首の木板を確かめる。内容は変わっていない。これで行動を起こすまでばれる心配はない。

 水袋に水を満たしながら気になる二つのスキルを確認する。


テイム(人間) 人心を把握し、自分に従わせるための魔法。心の闇より働きかけるため翳魔法とも呼ばれる。もともと好意的な人物には効果が大きく、敵対的な人物には効果があまりでない。ただし、睡眠中など無防備なときには最大限の効果をおよぼす。


現在保有の魔法 ※睡眠時は無効の補正

 隷属化(主人となる者への好意※+1/費やす日数の5倍)

 属性記録(0.1 隷属化の後、所有者等の記録を指定した場所に行う)

 命名・譲渡(2 隷属化した相手の名前を変えたり、所有者を変更する)

 隷属化解除(5+主人への好意 主人が誰か知っている必要がある)

 集団心理操作 (喜怒哀楽といった単純な感情を群衆に引き起こす試み 3)

 隷属強化(隷属化した一人と強固なつながりを作る。相手の位置がわかる。相手と言葉を使わず距離無視で会話ができる。成功後好意上昇 30-主人への好意) 


簡易鑑定 人やもののあらましを知ることができる。

現在保有の魔法 ※鑑定は魔力を必要としないが偽装を見抜くこともない。

 人物鑑定 名前、職能、保有する魔法の名前がわかる。

 アイテム鑑定 術者の知識にあるものなら思い出すことができる。ない場合、類似のものを思い出せる。まったく知らない場合は無効。


 使いにくいものが多い。

 戻って水の補充を報告。さて、これからどうするか。

 ただ逃げるだけで逃げ切れるとは思えない。眠ってる間に全員隷属化してしまうか、でも消費とかかる時間を考えると一人二時間は魔法をかけつづけないといけない。不自然すぎるし、一服盛りでもしないと目覚めて抵抗されかねない。

 それに、あの女性たちはどうしたものか。このまま奴隷市場に連れて行かせるのも後味が悪い。

 ずるいけど、彼女たちを解放して好きにさせよう。制圧されそうになったら援護。ゴールさえなんとかできたら、彼女らが負ける理由はなさそうだ。

 機会は寝静まってから。不寝番にたたされることがあれば一番のチャンスだ。

 そしてチャンスはきた。

 最初の不寝番はご主人様だった。明日の商売について使用人の彼と話すことがあるから、らしい。

「寝る前にいっておく。女どもにちょっかいかけるなよ。商品なんだからな」

 そう宣言する。そうはいっても女性二人は不安げだ。特に護衛のゴールはだいぶ飲んでいる。

「大丈夫大丈夫」

 一番だめなやつだ。

 幸いというか、彼はすぐに大きないびきをかいて寝てしまった。

 俺も行動開始はもっと更けてからにしたいので仮眠をとることした。

 ゆりおこされた時にはぐっすり眠っていたらしい。

「すまんな、商品のお前にさせるつもりはなかったんだが」

 困り果てた顔の御主人様。

「ご用をうかがいます」

「悪いがゴールが起きないので次の不寝番をしてくれ。この砂時計が落ちきったらゴールのやつをたたき起こせ」

 大きな砂時計がどんと置かれる。

 なんか、無茶いわれてないだろうか。起こせなかったからかわりに起こせって。

 小さい焚火に時々燃料を少しづつたしながら、俺は砂時計の砂が落ちるのを見ていた。

 静かだ。

 その間に簡易鑑定をかけてみる。見えてればできるので結構便利だ。

 奴隷の二人はこんな感じだ。


 セイリア

 メイスファイター 魔法 硬度上昇 簡易鑑定 状態 隷属中 睡眠中


 アキ

 狩人 魔法 鷹の目 状態 隷属中 睡眠中


 状態も出るんだな。


 他の全員が睡眠中なのを確かめて、俺は奴隷二人の近くにいった。

 彼女たちは身を寄せ合って毛布にくるまっている。そっと触れない程度に手をのばし、隷属化解除と心の中で唱えた。好意はマイナスだったらしく、ほとんど魔力を使ってない気がする。


 ぱっとセイリア、年かさのほうが目を開けた。静かに、という仕草は共通だろうか。意味は理解してくれたようだ。

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