第7話 隷属とミミック
しばられていない。小屋に閉じ込められているだけだ。ならばまずは状態を確認しよう。
まず、首にさがった木札を見る。
タリン
魔法使い、使える魔法 着火、溶接、灯り、鎮火、水操作、水取得、回復促進、成長促進(儀式)、四肢回復(指)、毒排出、硬度上昇、衝撃向上、融解、土操作、掘削、腐敗・還元(儀式)
所有者 ウィードハーバーのカイル・ヤ・ツォレルンハルド
擬態した職能と魔法しか書かれていない。どうやって調べたのかわからないし、文字は焼き付けたようで書いたものではなさそうだ。名前のところは別の名前がはいっていた痕跡がある。たぶん、俺の本名だ。
収納をあけて自分のステータスボードを確かめるとこうなっていた。
レベル5(2)、力9(13)、敏捷7(15)、知能17(19)、魔力29(17/20)、体力13(13)、魔法使い(ミミック/聖戦士/魔法使い)、スキル 元素魔術、軍隊格闘技(擬態、収納、元素魔術)
特記事項 隷属中(特記なし)
隷属しているのは擬態した魔法使いで、俺自身の自由意思は残っているということだと思う。これ、別のやつに擬態したらどうなるのだろう。
あけたついでに小屋の中をみまわし、何か使えそうなものがないかざっと見てみた。
まあ、ろくなものはない。さびた鎌や木槌、ノコギリなど道具類を拾っていれておくだけになった。脱獄でもしないといけなくなったら役に立つだろう。
朝飯なのだろうか、かびたパンと水さしがおいてある。空腹だが干し肉はまだとっておこう。毒排出もあるし、ままよとパンを食べた。
あれ、うまいぞこれ。
もしかしてチーズのようにカビさせることでうまくなるパンなんてのがあるんだろうか。水はうすく塩味があるしなまぬるくて今一つだったが、悪くない食事だ。
小屋からだされると、馬車がまっていた。いや、馬車といっていいのかな? 牽いているのはどうみても小型恐竜だ。二足歩行なので人力車のような感じ。じっさい、体につけた馬具でひっぱるが引手のようなものを前足でもっており、御者の指示をうけるとこれであやつるようだ。草食らしく、口の端からはみ出した飼い葉をもしゃもしゃかんでいる。
てっきり檻に監禁されるかと思ったが、馬車の後部座席に乗せられた。固いベンチで、蝶番が見えたので荷物の多いときには倒して後ろの荷物室を広げて使うのだろう。口ひげ男と初めてみる若い男、動きやすそうな生なりの上下に青いベストをひっかけた小ずるそうな顔のやつがふかふかの前の座席にすわり、護衛のゴールが御者とならんで座る。御者は村の者らしく、粗い布のゆったりした服装にターバンをまいていた。ターバンといっても、俺の知るこったやつではなく帽子がわりに適当にまきましたって感じだが。
運ばれるのは俺だけじゃなかった。
同じように首から木の板をさげた女が二人、俺の横にすわらされ、同じ命令を受ける。
おとなしくしていろ、無駄口をきくな、襲撃があったら戦え。
隷属させて安全と判断しているのか、女二人のうち、大柄で年齢も三十少し前くらいのほうは粗雑な剣を、若くてまだ二十歳前くらいの育ちのよさそうなほうは短い弓をもっていた。二人とも言葉に従っているものの時々殺意のこもった目を口ひげ男に向けるし、時々通りかかる村人には軽蔑をあらわにしていた。
村人は俺の知ってる世界でいえば中東あたりにいる人たちに似ている。この口ひげ男の奴隷商人もだ。護衛のゴールはアジア系の風貌だが肌は漆黒ですべすべしている。剣の女は赤茶けた肌に漆黒の直毛、大きな目、すっと通った鼻筋。細い顎。強そうだが、野蛮な感じはしない。弓の女は肌は真っ白だが、少し毛深くって金いろの産毛に金色の髪で光のさしぐあいでは全身金色に見える。彼女も目は大きく、顔は小顔でほりは深すぎず浅すぎず。美女といっていい。
召喚されたときに見かけた司祭たちと同じ人種のようだ。
どういう経緯であの村にたどりつき、捕らえられたのかはわからないが、旅のはじめは女二人だけってことはなかったと思う。
その謎はすぐに解けた。
村を出るとき、隊商と思われる一行が出発準備をしているのを見かけたのだ。彼女たちが救いを求めるように彼らを見たのも、隊商の連中が彼女らに笑って手をふるのも見えた。
どうやら、同行していた彼らに売られたらしい。
だまされたってとこでは御同様だが、ここの事情を知らない俺とは状況が違うだろうに。
会話は禁止されているので彼女たちから話は聞けない。情報が少しでもほしいので、外を見るふりをしながら前席の二人の会話に注意を傾け続けた。
小さなオアシスには主がいた。どこからやってきたのか、狐ににた肉食獣。大きさからすると野犬に近い。そいつは昼間は砂にもぐり、夜はものかげに息をひそめて小動物や虫、鳥が水を飲みに来るのをまっていた。腹が減っていれば捕食し、そうでなければほうっておく。
だが、彼にとって運の悪いことにそこで野営することにした人間たちがいた。俺たちだ。そして人間は腹をすかせていた。
なので彼はさばかれてトカゲ馬の糞をかわかした燃料を燃やした炎でやかれている。
奴隷のうち年かさの女が料理ができるので食事の支度をし、俺が火をつけた。オアシスの主を殺してさばいたのは護衛のゴールだ。
「あすの昼頃にはハニの都につく」
何度も会話にでてきた目的地だ。どんなところかわからないが、近くの別の大きな町に立ち寄らず、少し遠回りしてでも向かっているのだから金のないやつには人権のないようなところだろう。金があっても自衛できなければ同じはずだ。
ハニの都は都市国家らしい。彼らが迂回した町は辺境伯領とよばれていた。どこかの大きい国の出先領土のようだ。神農帝国とか聖杯王国とかそんな名前もでてきたからどっちかのだろう。
奴隷状態を脱するのが最初で、次にどこの国で生きるすべをさがすか。
あの教皇は帰るところはもうないようなことを言っていたが、嘘の可能性もある。余裕ができればそっちも確かめたい。
まず、奴隷状態から抜け出すのだけど、どこで試すかだ。
今だろうな。
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