第5話 オアシスの村

 岩砂漠なので、砂に足をとられる心配もない。岩の間にはサボテンらしいものも時々生えていて、そういうところでは小さな虫を見かけることもある。毒のありそうな外見のものが多いので、もしかしたら食べることができるかもしれないが避けて通った。かわりに水筒の水を飲み、干し肉を噛んで空腹をしのいでいる。

 涼しそうな洞窟はいくつか見かけたが、これも避けた。何かの足跡がついていたり、奥のほうでざわめく気配があったり、大きな骸骨のような外見の鳥が俺が倒れないかじっと見ていたり、ろくなことにならない予感しかしなかった。

 水を補給する魔法があって助かった。もっとも条件が悪くて半分くらいしかでないがそれでも全然違う。干し肉がものすごく塩辛いので塩分が補給できるのもたぶん大いいほうに働いている。でなければ倒れていたかもしれない。

 道は砂に埋もれているがレンガをしきつめていたらしく、痕跡を追うのはむずかしくなかった。足元にレンガがみえなくなったら少しもどって続いてるほうを確かめて歩く。日が傾いてきて、さすがに疲労感がましてきた。生き物はちらほら見かけたが昼間は襲ってきたりしないようだ。

 よさそうな日陰と座れる石があったので、少し長めの休憩をとることにした。念入りに干し肉を噛みながら土の魔法の飛ばすやつの「重量」の単位を確かめようと思ってステータスボードを広げてみると、レベルアップしていた。


 レベル5(2)、力9(13)、敏捷7(15)、知能17(19)、魔力29(17.395/20)、体力13(13)、魔法使い(ミミック/聖戦士/魔法使い)、スキル 元素魔術、軍隊格闘技(擬態、収納、元素魔術)


 擬態したほうのレベルはあがっていないが、ミミックとしてのレベルはあがっている。そして()の中に元素魔術がはいってるじゃないか。

 どういうことだろう。タップしてみると持っている魔法が違った。


 現在保有の魔法

 火 なし 

 水 水操作(100×体積×距離/1拍) 水取得(体積)

 木 毒排出(3~)

 金 なし

 土 なし


 使った魔法だけ覚えている。毒排出は虫らしいのにさされたときに使った。

 レベルアップはたぶん鏡像を倒した後だから、その後使った魔法も覚えるのか。

 足元の小石を拾い上げ、土操作を試してみた。

 

 土 土操作(100×重量×距離/一拍)


 増えた。重さと消費の感じからして重量は水一体積と同じ、だいたい一トンだ。

 水弾に対して石弾とでもよぼう。水弾は離れると威力がてきめんにおちるので


 火 着火(1/面積) 溶断/溶接(2/拍 継続) 灯り(4/日 日数指定) 

 水 鎮火(1/5体積) 水操作(100×体積×距離/1拍) 水取得(体積)

 木 回復促進(2~) 毒排出(3~)

 金 硬度上昇(面積) 衝撃向上(2/日 日数指定)

 土 土操作(100×重量×距離/1拍) 掘削(重量)


 やりかたの分からない儀式魔術や、指を落とさないと試せないもの以外を試してみて覚えることに成功した。掘削の呪文は掘り出せる状態にするだけとかいろいろ発見はあったが。それと、レンガなど人工物には効果がない。また、重量相当の正方形にしか掘り出せないので掘り方に注文があればちまちまおおまかに削ってあとは手作業するしかなさそうだ。

 元素魔法はミミックでも覚えたが、軍隊格闘技を覚えていないのは擬態した相手のスキルをレベルアップ時に一つだけもっていけるということだろうか。選択はできないようだ。

 魔力は消費したが、疲労は消えた。さあ、歩き続けよう。


 日が暮れると冷え込んできた。それでもそこらへん中に生き物の気配がしはじめる。大半は小型の虫で、羽根のないのはいいが小さな羽虫が明りによって来る。

 さされてもうれしくないのではらえるだけはらいながら不愉快な気持ちでとにかく進む。小さいし速度も遅いのでさっさと歩くだけでだいぶよけることができるが、やはりたまにちくりとくる。あとがひどくならなければいいのだけど。

 虫のほかはネズミのような小さな動物が驚いて逃げていくのと、灯りにてらされてもゆうゆうとそんなねずみを飲んでいる蛇を見かけるくらいだ。

 一応鉈を片手に、灯りをくっつけた枯れ枝を別の手にもって、どんどん進む。

 進行方向に黒くこんもりしたものを見つけた。

 オアシスだった。ここはさらに生き物の気配が強い。

 町はこのへんのはずだ。よく見ると、建物の土台跡らしいものがオアシスのまわりに散在している。地図がいつのかわからないが、古いものだったのは間違いないようだ。

 それでも誰かすんでいそうなものだが、と踏み込まずまわりこんでみると。

 あった、町だ。いや、これは村か。

 獣よけらしい柵を巡らせ、獣がいやがるのか赤い魔法の光をいくつもともしたその門は、当然だが閉じていた。

 そんなに遅い時間ではないのに人が出歩く様子はない。ただ、門の内側の櫓の上に、革鎧をきた男が弓を傍らにうつらうつらしているだけだ。

 不寝番だと思うがのんきなものだ。

 声をかけようとしてふとためらった。

 俺ってどう考えても不審者だよな。どこから来たか聞かれて正直に答えて大丈夫かあやしいものだ。呼び出されてほとんど何もしる時間もなくあそこに放り出されたのだ。ここのことだってさっぱりわからない。

 といってもさすがにくたくただ。いちかばちか、見張りに話しかけようと思ったところで彼が起きたことに気づいた。弓を引き絞ってこっちを狙っている。

「誰だおまえ」

 言葉は通じる。見張りの男は居眠りしていたとは思えないほど険しい目でこっちを見ている。返答次第ではためらいもなく矢を放つだろう。

「助けてくれ。みぐるみ剥がれて放り出されたんだ」

 嘘ではない。

「一人でのこのこ旅してたのか」

 不審の目。

「五人一緒だった。全員みぐるみ剥がれてばらばらに放り出されたんだ」

 嘘ではない。

「そいつは災難だったな」

 男はやっと弓をおろした。

「ちょっとまってろ。いれてやる。村長にあんたのことを相談する」

 門があけられた。見張りの男は手ぶらで俺をむかえる気はなかったようだ。弓はおいてきたが、鉈の兄貴分みたいなだんびらを抜き身でかついでいる。

「はいんな」

 中にはいると男は門をしめてかんぬきをかけた。

「来いよ。こっちだ」


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