第2話 真似する相手を間違えた

 がっちがちの甲冑姿であのやばい棒を背負った男、黒いローブにとんがり帽子姿の女、革鎧で短めの剣を後ろ腰にした少年、弓を手にこれもローブ姿の長身の男、俺だけなんかういている。ただ、腰にさがった金のつまった袋はみんな一つなのに俺は三つだ。

「ようこそ皆様。唐突に呼び出されて戸惑っておられると思いますが」

 歓迎の言葉を述べるのは仰々しい帽子に衣装のザ・教皇という感じの老人。その左右には彼ほど派手ではないが似たような衣装をきた男女がならび、広間の外周沿いには鉾槍をもった胸甲きらめく兵士がいる。その腰に時代劇で見るような拳銃がさしてあるので文明の程度は戦国時代くらいかなと思う。

 教皇の言葉を要約すると、俺たちはいろいろな世界からこの王国を救うために呼び出されたらしい。

「同意した覚えはないぞ」

 いかにも戦士な男が抗議した。うん、これはただの人さらいだよね。

「人は死に同意して死ぬわけではありません」

 教皇はにこにこ笑ってそう答える。

「つまり、そういうことです」

「あたしたち、死んじゃったの? 」

「はい。この召喚儀式は勇者の資格を持つ死者を呼び出すものです」

 みんなだまりこんでしまった。

 教皇は嘘をいってるかもしれないが今はなんの証もない。

「それではおひとりづつおいでください。鑑定を行います」

 ミミックの能力はこの時点で自然に理解していた。五秒相手の全身を見て念じるだけ。とりあえず一番強そうに見える戦士な男を五秒じっと見て念じてみた。

 視界が一瞬ゆらいだのは変身したからだろうか。ただ、外見がかわってはいないのは確からしく、だれも俺を見て驚かない。

 教皇とはそこまでで、いかにも司祭な男が俺たちを先導してホールの横の通路から電球のようなもののともった廊下へと案内された。

「ここは進んでいるなぁ」

 革鎧の少年が感心した。

「これ、魔法の光だよね。俺んとこじゃ、こんなにあかるくずっと維持なんかできないよ」

 本当にいろいろなところから呼び集めたらしい。

 鑑定はお約束のような感じのギミックを使っていた。

 たくさんの手がふれたのだろう、石英かなにかをはめた板ふたつに両手をのせ、足元にも同じように用意された板に両足をのせるだけ。なんだか体脂肪をはかっているようだ。結果が背後の壁に投影される。小さな部屋に、操作するいかにも魔法使いな若い男もいるので、一人づつ入ったので他の人の結果はわからない。最初があの戦士な男で、最後が俺だ。

 投影された内容はいかにもゲームなものだった。

 レベル、力、敏捷、知能、魔力、体力 職能、そしてスキル。

 俺のはミミックで複写したのであの男と同じはずだ。

 レベル1、力11、敏捷8、知能9、魔力5、体力12、聖戦士、スキル 棒術、神聖魔術。

 あいつふつうの戦士じゃなかったのか。そしてこの数値がどれくらいなのかわからない。わからないが確かなことが一つある。

 計測していた魔法使いが小さく舌打ちしたのだ。

「あんだけ犠牲にして結局一人か」

 無意識のつぶやきだと思う。彼は自分の独り言に気づいていなかった。

 そして文字のにじんだ手のひら大の革のきれっぱしを俺におしつけた。

「これはあんたのステータスボードだ。自分のはほんのちょっとの魔力でいつでも見れる。大事にしな」

 俺はたっぷり五秒彼を見た。いらついたようにおしつけてくるのをやっと受け取るい。とっとともってけよ愚図、そう思っているのがまるわかりだった。

 とりあえずわかったことは、真似する相手をどうやら間違えたらしいということだ。でも、誰があたりかはわからない。

 それから俺たちは装備、持ち金を全部預けるように言われた。

「もっと良いものが用意しているので、いまのものはいったんお預かりします。お金も十分な支援を約束します。預かり証も出します」

 そんなこといわれても信用できないと戦士な男が食い下がる。

「これより王城に転送いたしますが、転送ゲートの欠点として金属類がだめなもので」

 本当か嘘かわからないが、追いはぎだとしたらずいぶん紳士的な追いはぎだ。代わりにくれる服も上等。ただ、俺のはそもそも平服なのでそのまま。

 転送ゲートは二階まで吹き抜けの部屋の壁一面の真ん中にあいていた。

 くぼんだ中にどうやって封じているのか霧がふわふわしている。中を照らす光にそまって青い。

「この中にはいるのです。先に参って手本を見せましょう」

 案内の司祭はくぼみにはいってうなずいた。その姿がふわっと掻き消える。すごいなこれ。

「次はあなたです。色がときどきかわりますが行き先は同じですから」

 もう一人の女の司祭がさあ、という。

 戦士な男は黄色い霧に消えた。革鎧の少年は青い霧に、ローブの女性は白い霧、そして俺の時の霧の色は赤い霧だった。

 移動の感覚はなく、さあっと霧がはれると。明るい日の光があたりに降り注いだ。

 どうみても王城じゃないぞ、ここ。

 一言でいえば遺跡、それもだいぶくずれた遺跡だ。そして緑はまったくない。人の気配もない。岩砂漠だ。

 持ち物はTシャツとジーンズときれっぱしみたいなステータスボードだけ。

 嘘つき、ここにいない女司祭に俺は文句を言った。

 霧の色で行き先見分けてるじゃないか。王城にいったのは最初にはいった司祭と同じ色のあの少年だけだ。

 他の四人はばらばらに捨てられた。みぐるみ剥がれて。

 くそ。

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