リセマラ捨てキャラの俺がどこまでやれるだろう

@HighTaka

王国動乱編

第1話 なんで最初に身体測定なんだ

 これは夢だな。

 俺はそう思った。昼間体を動かしすぎたのかもしれない。あるいは仮想現実ゲームにはいったまま寝落ちしてしまったのかもしれない。

 どこかわからないが体育のためだろうとわかるホール、体育館の真ん中に下着だけで俺は立っていた。目の前には見慣れない体重計と身長計、背筋計、握力計にたぶん肺活量を測定する機械、それと視力検査の準備ができている。

 こつこつと足音をたてて、白衣の女が視界にはいってきた。美人だと思うが、愛想のない顔のせいでときめく要素はない。いや、こういうのがいいって人もいるんだろうな。

「始めます」

 当たり前のように俺は身長、体重そのほかの計測をやっていく。まあまあ平均的だと思う。平均の下のほうだけど。

 白衣の女は何かはがきサイズの紙にかきこんでいる。

「後ろの机から、もっていくものを一つ選んでください」

 気づかなかったが、背後の長机に少し物騒なものが並んでいた。

 華麗な装飾のほどこされた幅広の両刃剣、遊牧民あたりが使いそうな弓、おそらく単発なんだろう古めかしい銃、背丈ほどの長さだが薄く鉄をまいてとげもつけた殺意まるだしの棒、金属バット。

「なんのために選ぶのか、教えてもらえますか」

「気に入らなければ選ばないのも自由です」

 答えてくれない。気に入らなかったので俺は首をふって選ぶことを拒否した。

「では、後ろの机から一つ選んできていってください」

 計測器がなくなって、黒い着流し、革ジャン、チェーンメールというやつか、金属をあんでつくったポンチョがおかれている。下着姿で何かきたかったが、これはどれもちょっと問題だ。首をふった。

「最後に、今からいうものから一つ選んでください」

 戦士、盗賊、僧侶、魔法使い、彼女はその単語を口にした。

「ほかにないのですか」

 聖戦士、暗黒騎士、僧正、召喚師、彼女はさらに別の単語を口にした。

 召喚師にはちょっと気をひかれたが、仮想現実ゲームではたいてい便利すぎないような調整がはいっていたので、やめておこうと思った。

「それで全部ですか? 」

 天術師、精霊術師、龍術師、彼女は流れるように続きを言った。なんだかすごそうだな。四つづついってるのに今回は三つか。

「それでおしまいですか? 」

 ほんの少しだけ、彼女にためらいがあった。

「次が最後です」

「聞かせてください」

 吸血鬼、人狼、トロール、ミミック

「人間じゃないじゃないですか!」

「能力をもつだけで一応人間ですよ。説明してほしいですか」

「お願いします」

 興味本位だが、聞いてみた。

 吸血鬼、生き物から魔力や生命力を奪う。同意があればスキルや能力も奪える。魅了のような能力はないので同意をとりつけるのは努力次第。

 人狼、変身できる。変身後の姿はあらかじめイメージしておいたもので、変身中はレベルに応じた強化とイメージに応じた能力を得る。消耗が激しいので、長時間変身していると我を忘れてそこらにあるものを何でも食べようとするデメリットがある。

 トロール、自己再生力がある。脳幹を破壊されなければ心臓さえ再生できる。身体能力が飛躍的に向上する。有機物なら椅子でもなんでも消化できる。鉱物由来の毒しか効果がなく、食あたりは心配ない。そのかわり常に飢えていて、半日何も食べなかった場合餓死する。

 ミミック、能力値、スキルを含めて擬態できる。擬態対象は人間。鑑定でも擬態したものしか見えないくらい完全で、同じことならできる。レベルがあがると擬態できるものも増えるが、生き物に限られることと、外見はかわらないこと、サイズを変えることはできないので注意が必要。

 どれも人間離れしてるじゃないか。

 じゃあ、どれにしようかな。召喚師にするか、龍術師みたいなちょっと心の中のあんなところがわくわくするようなのにするかな。

「最後の四つ以外は選択できませんよ」

 迷っていると、白衣の女が見かねたようにそう言った。

「次の中から、といったリストをあなたはもっとないのかと言いました。つまりそのリストからは選ばないということになります」

 え、そんなこと聞いてないよ。

「そうでなければ全部いっぺんに言います。あなたの不注意です」

 少し押し問答をして俺はあきらめた。夢の話だし、もういいや。

 ただ、不注意を注意されたのはちょっとかちんときた。ようし、あんまり不注意でないところを見せちゃろうか。

「この選択のあと、何かまだ選択はありますか」

「いえ、これで最後になります。その後は召喚の間にいき、鑑定をうけることになります」

 おお、聞いてよかった。

「と、すると選んだものが鑑定でわかってしまうんですね。召喚の間は、人間の国かなにかのですか」

 白衣の女性はほっとした笑みを浮かべた。

「はい、魔物と戦う戦力としてあなたは呼ばれます」

 やばい。吸血鬼とかトロールとか、討伐される側じゃないか。

「ミミックにします」

 鑑定をだませるから、これ一択だろう。

 白衣の女性はカードに何か書き入れた。

「背中をむけてください」

 背中にぺったりそのカードが貼られた。

「これでおしまいです。そこから出てくださいね。能力の使い方はそのとき自然にわかります」

 指さす方向にはドアがあった。近づくと勝手に開く。

 空いたドアはただの枠にみえた。

「あの、なんか服ください。さすがに下着では」

 頼んだ瞬間、Tシャツとジーンズ姿になっていた。

「さあ」

 枠をくぐりながら考えた。この人はいわゆる神様なんだろうか。それともただのおかしな人?

 磨き上げられ、モザイクにくまれた冷たい床の薄暗いホールにぽつんと俺はたっていた。

「今日はこれで最後です」

 誰かの声が聞こえた。

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