41:いざかかれ! アールテム革命戦争勃発!
その日は遅めに昼食を食べ、すぐに床に入った。
「ついに、これから寝て起きたら始まるんだよね」
「うん、お姉ちゃん。寝れないよ」
「お腹いっぱいだからすぐに寝れると思うよ。お姉ちゃんが隣でトントンするから」
日は傾いているが、あと二時間は上ったままだろう。
私はカーテンを閉め、ベッドのそばにイスを置いて、そこでリリーが寝るのを待っていた。
「いつもはジェンナさんなのに、何で今日はお姉ちゃんなの?」
リリーを寝かしつけるのも、使用人の仕事の一つである。だが今日は何となくそうしたかったのである。
「私たちが貴族になる前まではお姉ちゃんがやってたでしょ? 今日は久しぶりにやりたかった。明日は大事なことがあるからね」
「うん、いつもはちょっとさみしいけど、今日はお姉ちゃんがいるからさみしくない」
私がリリーの胸を優しくトントンとし始めると、たった数分で寝息が聞こえるようになった。
よかった、ちゃんと寝てくれた。
音を立てないようそーっと部屋を出ると、私も寝る支度を始める。
寝られたのは日が沈むころだった。
「グローリア様、おはようございます」
起きたのは真夜中、満月が一番高く上っている時だった。
ジェンナにだけ遅くまで起きててもらい、私とリリーを起こしてもらうことにしたのだ。
「あと少しで朝食ができあがるので、着替えてお待ちください」
「こんな時間までありがとうございます」
私はまだ開ききっていない目をこする。冷たい水で顔を洗い、ピシャリと両ほほを
ふぅ、一気に目が覚めた!
私はあの格好に着替える。
「おぉ……イカつい格好」
音楽隊のみんなのために注文して作ってもらった、軍服である。白を基調に、縁取りはアールテムの象徴の青色、ところどころに金色の
あとはいつもの、白いカチューシャに銀色のループ型のピアス、お守りの音符型のペンダント。
自分で見てもカッコかわいいとしか言えない。
「これを着てれば、『あの人だけみすぼらしい格好』とかないもんね」
これは私が殺されそうになったパーティーでの反省だ。音楽隊が演奏した時、管弦楽団と同じように、それぞれが衣装を用意することにした。
やはり平民や農民は、貴族より粗末な格好になってしまったのである。それをばっちり他国の人に言われてしまったのだから、あまりにも不覚だったと反省している。
「これで私たちの一体感が増すだろうし」
私はよれたすそをピシッと伸ばして、ろうそくの明かりが点々とする廊下を歩いていった。
みんな同じ服を着たアールテム音楽隊は、バリトンサックス奏者のケイトの邸宅に集まっている。
「全員集まってるね」
人数を数え、とりあえずホッとする私。
「ここで三十分くらい練習して、昨日言ったところに移動します」
満月が傾き、月光が窓から差しこんできている。
真夜中だが防音装備の邸宅のため、外には一切音もれはしない。(この国の建築技術どうなってんだ……?)
十分くらい自由に吹かせたあと、八つのファンファーレを一つずつみんなで合奏していった。
ちなみに八つのうち三つは、リリーとの合作である。
「昨日も言ったとおり、ここはもっと歯切れよく吹いてください」
私はトランペットとトロンボーンの人に指摘をする。
一応音楽隊だからね。曲の完成度が高いほど、『成功』に大きく近づくから。
「こんな感じでいいでしょう。それでは移動してください」
白い軍服を着た団体が、それぞれ楽器を持ってぞろぞろと出ていく。気づかれないよう静かに、楽器をどこかにぶつけないように。
王城の近くに着いた時には、すでに王城の包囲は始まっていた。
「あっ、グローリア様!」
ひそめ声で騎士団の一人に声をかけられる。
「今、前衛が定位置に着きました。そこにいる人たちに続いて並んでください」
「了解です」
私は今言われたことを隊員に伝えると、人差し指を口に当てて険しい顔をする。
すぐにしゃべりたくなる女性たちや私より年下の子どもたちを、緊迫した空気で黙らせる。
夜明けまであと二十分。私は固唾をのみ、緊張で心臓がバクバクしながらその時を待った。
夜明け前。アールテム王国の王城を、武装したアールテムの国民が取り囲んでいた。平民や農民ついには奴隷まで、皆がただ王城だけを見てじっと待っている。
だが、他の国ともこの国の過去とも違うことといえば、後ろの方にキラキラと輝く集団がいることだ。
よく見ると楽器のようである。それらは普段ならば屋内で貴族がたしなむような、オーケストラで使われる楽器が大半だ。
なぜこんなものが軍隊の中にいるのか。
楽器を持つ集団の中央にいるピンク色の髪をした女が、サッと右手を挙げた。すると、大きく存在感を放つ楽器が姿を現した。
スーザフォンという、チューバの仲間の楽器だ。何といってもその特徴は、演奏者の頭の上に巨大なまるいベル(音が出るところ)があることだ。いつの間にかまた新しい楽器が生まれている。
うわさによれば、その楽器隊はかなりの爆音を出すらしい。いったい何をするのだろうか。
地平線が紫色に、オレンジ色に染まってきた。ピンク髪の女が後ろを向き、この軍の大将である騎士団長と指示を出し合う。
時は来た。
太陽が地平線から顔を出したその瞬間、早朝の冷たい空気に一つの声が響く。
「かかれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
その声を聞いた私はマウスピースをくわえながら、指揮をする時のように右手を構え、隊員に合図を出した。
ファンファーレの爆音が、冷たい空気を一掃した。
「オォォォォォォォォッッッッ!!」
雄叫びを上げながら王城の門を破っていく。
何で王城の周りとか敷地内に警備がいないんだって? どうやらカルラ―王国では、満月の夜に外に出ていると悪霊に取り
慌てて王城から出てきた警備たちだが、数人対大勢ではさすがに一人一人が強くても数にはかなわない。大量の兵士に無残にも踏みつぶされていく。
だんだんと明るくなりゆく空には、雄叫びと金属音と管楽器の音と太鼓の音が、それぞれ独立してこだましていた。
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