40:騎士団の人たちと作戦会議をしよう!
「グローリア! ざっと志願兵をかき集めてみたが……十万も集まったぞ!」
ちょうど騎士団長に用があったので、騎士団寮の周りをうろうろしていると、どこからか帰ってきた団長に声をかけられたのだ。
「じゅ、じゅうまんっ!?」
このアールテム王国の人口は、トゥムル王国を併合したことにより三十万人ほどいる。まさか、国民の三分の一が!?
「ありがとうございますっ!」
私はまだ抜けない前世からのくせで、騎士団長に直角のおじぎをする。
「みんな、トリスタン公爵に不満を持っているようだ。そりゃあそうだ、あんなに重税をかけられてはな」
「そうですよね、あんな自分勝手、許せません」
「何はともあれ、中に入れ」
団長に連れられて、私と団長は『騎士団長室』に入った。中には他にも、副団長を始めとした役職持ちの騎士たちが五人ほど待ってくれていた。
女性はこの私、一人だけ。なんか超居づらいんですけどぉ……。
「全員集まったな。さて、作戦会議とするか」
団長の言葉で、その場の空気が一気に張り詰めたものになる。
「まず、いつトリスタンを狙い、国王陛下を取り戻すのかだな」
「その前に、宣戦布告は出しますか?」
副団長が手を挙げて発言する。
「いや、出さない方がよかろう。事前に宣戦すると、向こうもしっかり準備してくるだろうからな」
「確実に勝ちを狙っていく感じですかね」
「そうだ、カッコつけずにな」
私も相槌(あいづち)を打って頑張って話についていこうとする。
「トリスタンを狙うのと陛下をお助けするのは、同じ日がよろしいでしょうか」
「トゥムル王国を滅ぼした時と同じだ。できるならば同時進行の方がよい。志願兵がここまで集まったのなら、同じ日にできなくはないだろう」
……らしい。さすがに十万の兵を、一気に王城に攻めこませるのはよくないよなぁ。
「二手に分かれるということですね。そうなると、うちの音楽隊はどちらにつく方がよろしいですか?」
こちらは二つに分かれるほど人数がいない。分かれてしまったら音量不足で意味なしだろう。
「トリスタンの方にしてくれ。陛下の救出は、最低限の兵だけで行うことにする。こっそりな」
なるほど、そうだよね。「陛下を返してもらうぞー!」って言っちゃったら、何してくるか分からないし。
「陛下への軍の指揮は、副団長に任せる。兵は一万ほどでいいか?」
「一万……! 十分でございます」
い、一万で最低限!
うん、十万も集まったから、それくらい行かせてもいいかも。
「遊撃隊長、お前は陛下軍に」
「承知しました」
私たちは本軍と陛下軍の二つに分かれて、それぞれでどのように攻めこむかを話し合うことにした。
「いつ軍を王城に到着させるのがよろしいでしょうか?」
またピリピリした空気の中、作戦会議が再開した。
今までの話を聞いてる限りは、相手に気づかれないようにするのがミソな気がするけど。
「夜明け前、暗いうちには王城を包囲するようにしよう。夜が明けたら作戦開始だ」
「「「はい!」」」
気迫のあるぴったりそろった返事にビビりながらも、私も遅れて返事をする。
「そしてグローリアには、朝を告げる鳥ならぬ、戦の開始を告げるどデカいものを吹いてほしい」
「ファンファーレですかね?」
「いや……そう言われても俺には分からないが、トリスタンが飛び起きるようなものをな」
「かしこまりました」
うん、ファンファーレのことだね。これは金管楽器たちに頑張ってもらおう。
「これが王城の周辺の地図だ。ここが今いる寮だな」
私もそれを見ながら軍の動きを頭に入れようとするが、ところどころ専門用語が出てきて、頭の中に『?』が浮かぶ。
「俺が指示を出したら、それに呼応するように吹いてもらうことはできるか?」
できなくはないけど……。今のって、前世の吹奏楽部の演奏会でやってたやつじゃん。
イントロクイズとかやってたよなぁ。司会が「ここでお待ちかね、イントロクイズー!」って言ったら、部員のみんなで「イェーイ‼︎」っていうあれ。
その時にドラムの人がテキトーに、シンバルとかスネアドラムとかを連続で叩(たた)くと、それっぽくなるんだったよね。
「俺が主に使う指示が八種類あるから、それごとに変えてくれると助かる」
は、八種類⁉︎ しかも指示に使うんじゃ、どれも特徴的で分かりやすいやつにしなくちゃじゃん!
「できるか?」
この緊張した空気では、もちろん断ることはできない。
やるしかないね……。
「はい、何とかやって見せます」
今まで何気ない顔で作戦会議にいたものの、急に重要な仕事を振られて冷や汗が止まらない。
作戦を話し合い始めてからおよそ一時間後、あらかたまとまって会議は終わった。
「……それにしても十万って、恐ろしすぎる」
九万の本軍の後衛につくことになった私は、目の前に広がるであろう人垣に身震いする。
自分が「マジふざんけんなだからトリスタン倒そー!」って言っただけなのに。十万人って……!
「よし、とりあえず三パターン目、完成っと」
私のテーブルには八枚の五線譜が並べられている。今、八種類のファンファーレを作曲しているところだ。
手書きで三枚目の楽譜を書き終わった。
「次はこんな感じかな」
頭の中に浮かんだメロディを、サックスで吹いて音程を確認する。それをもとに楽譜に書き起こすのだ。
「入っていーい?」
すると、ドアの向こうからノックとともにリリーの声がした。中に入れさせるとリリーは楽譜をのぞきこむ。
「できたー?」
「いやぁ、まだ三つしかできてないよ。今四つ目作ってるところ」
私のベッドに座ったリリーは、何やら鼻歌を歌い始める。
記憶の中を漁っても聞き覚えのないメロディだった。
「リリー、今のって何の歌?」
「リリーが作った歌!」
すごい! しかもけっこう良さげなメロディだし。
「ねぇ、五個目のファンファーレに使っていい?」
「リリーの? いいよ! あのね、他にもあるんだよ」
「ホント!? リリー、一緒に考えてくれるかな?」
「うん!」
助かったぁ……! さすがに一人で一気に八種類はキツいし。
やっぱりリリーは才能があるよね。
私は「もう一度歌って」とお願いし、リリーの歌を耳コピしていくのだった。
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