16:王位継承で戦争!? やらせるものかっ!

 順調、順調! 目標の「プロになってお金持ちになる!」のうちの一つは達成!


 転生してから三ヶ月ほどでプロになってしまった。

 あのまま前世で生きていたら、音楽大学に入って猛練習し、狭き門であるプロの楽団に入らなければ、プロにはなれなかっただろう。推定五年以上。


 まさか、転生したこの世界がイージーモードだった?

 そうは言っても、前世で培ってきたものがあったからっていうのもあると思うけど。


「あとはお金持ちになる、か」

「まだお金持ちじゃないの?」


 隣で本を読んでいたリリーが、こちらに顔を向けた。


「今はやっと貴族になれたっていうレベルだけど、お姉ちゃんは貴族のトップになりたいの」

「トップ……大公爵さま?」

「そう。お姉ちゃんがこの前吹っ飛ばした、大公爵の地位にね」


 貴族の中の地位が高くなれば、おのずと宮廷音楽家としての給料は増える。


「あっ、そうだ。リリー用に新しいサックスを作ってもらったから、明日にでも取りに行くね」

「できたの!? やったぁ!!」


 膝の上に本を置いて、バンザイで喜びを表すリリー。

 先月に『サックス増産計画』を始めた時から、サックス第二号は絶対にリリーに吹いてもらうと決めていた。


「えへへ、楽しみにしててね〜」


 私はほぼ妹のリリーに、ぶっ通しで吹き続けて疲れた心身をしょっちゅう癒してもらっている。

 ほら、今の笑顔とかかわいすぎる!






 一方その頃、こんなのほほんとしている場合ではないことが起こっていた。

 アールテム王国の隣であるトゥムル王国から、圧をかけられていたのだ。


 国王の権力がなくお飾り状態であるのは、隣国にはとっくに知られていた。しかも病気になったということで、より権力はなくなっていた。


「アールテム王国の王位継承権は、我の息子にある」


 ついにそう言われてしまったのである。

 トゥムル王国国王の妃は、政略結婚で嫁がせた元アールテム王国の王女。息子がアールテム王国の血を引いていることを言いがかりにして、継承権を主張したのだ。


「嫌な予感がするねぇ」


 未だに暇つぶしで機織りをする手を止めて、ベルはため息をついた。


「これ……戦争とかになる感じ?」

「私の経験上、そうなるかもしれないねぇ」

「もしそうなったら、うちの国、完全不利じゃない?」

「うーむ……」


 もし戦争に負けてしまったら、宮廷音楽家である私は誰のために働かなければいいのか分からなくなる。

 国王に選んでもらってプロになった以上、それだけは避けたい。


「話し合いなしでは戦争にならないと思うから……」


 その話し合いの場に、私もいさせてもらうことはできないだろうか。

 あ、そうだ。


「いいこと思いついた。国王に提案してみる」

「なんだい? 何を提案するのかい?」

「『音楽』で戦争を避ける方法!」


 へへっ、我ながらすごいことを思いついた!

 私は思いついたことを忘れないよう、手帳を取り出してメモをとった。






 次の日、国王と皇太子のためにソロでサックスを演奏した。


「陛下、後ほどお話がございます」

「ほう、私に?」


 皇太子が退室すると、国王は玉座に座り直し、私は楽器を床に置いた。


「うわさで、隣国がうちの王位継承権を主張していると聞いたのですが」


 単刀直入に話を切り出す。


「ああ。応じなければ力づくでも取るという手紙がきてしまい……。話し合って解決したいものだが、どうしたらよいものか」

「力づくってことは……戦争で、ですかね」

「そうだろうな」


 前世で習った世界史の授業で、『◯◯継承戦争』とかで戦争しまくった時代があったような。

 やっぱり戦争は避けられない……?


「あの、さすがに会談なしでは戦争にはなりませんよね?」

「おそらく。王位継承は、必ず会談を通すようにしているからな」

「それならうちに招いて、宮廷音楽家わたしたちが招待演奏をいたしましょう」

「それはぜひやってもらいたいが……それが戦争をしないで解決できるものになるのか?」

「必ずや、やってみせます」


 こんな大口をたたくのは、もちろん自信があるからである。

 私は楽器を持ち上げると、「失礼しました」と言って部屋を出た。





 ついでに騎士団寮に寄ることにした。

 貴族になったことにより、かなり行動範囲が広くなったと感じる。騎士も国王に仕える仕事だ。


 ただの思いつきで行動するのが私の性だが、今まで前世で部長の座を逃したこと以外は、何とかうまくいっている。

 今の行動も、ただの思いつきである。


「あれ、あの見た目は……プレノート家のグローリア様?」


 寮の警護をする騎士たちが、こちらを指さしている。

 いつの間にか騎士団の人たちにも知られてる! うれししみ〜!


「こんにちは。グローリア・プレノートです。団長さんはいらっしゃいますか」

「どんなご用で?」


 あ、やべっ。えっと、じゃあ……。


「国王陛下から伝言を承りまして、直接伝えてほしいとのことで」

「分かった」


 よし、とっさに思いついたことだけど何とかなった!


 新人っぽい騎士に団長室へと案内された。


「プレノート家のグローリア様がいらっしゃいました」

「通せ」


 腹の底から出していそうな、深い声が聞こえた。

 もちろん初対面ではない。


「急に参りましたことをお許しくださいませ」

「ベルからの縁だ。そんなんで怒ったりはしないぞ」


 この間の新築祝いパーティーに招いたうちの一人である。


「俺に何の用だ?」

「もしかしたら聞いているかもしれませんが、トゥムル王国のことで」

「もちろん聞いている。我々騎士団が出動することになりそうだからな」


 そりゃあそうだよね。


「今、話し合いで解決しようとしているですが、アールテムにトゥムル国王を招いて会談したいらしくて」

「そうしたら我々は警備だな」

「もしものために、戦争並の武器を用意しておいた方が……」


 私の言葉を聞いて、怪訝けげんそうな表情になる団長。


「そんなに緊迫しているのか?」

「手紙で、『力づくでも取る』と脅されたらしいです」

「なるほど……念には念を入れた方がよさそうだな」


 よし、これで『私でもダメだった時の対処法』の保険が作れた!

 トゥムル国王は気性が荒いうわさだからね、何してくるか分かんないし。


「えっと……何か企んでいるのか?」

「へぇっ!?」

「手紙でもいいところを、わざわざここに来て伝えるほどのことだからな」


 えっ、バレてる!?

 分かりやすくニンマリとほほ笑む団長だが、目が笑っていない。何を考えているのかは分からない。


「ふん……でも面白そうだな」


 時間差でやっと目も笑った団長に、心臓がバクバクしていた私はホッとしたのだった。

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