第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる
15:国王推薦の化け物ミュージシャン、現る
「うわぁ……まさに貴族の家っていう感じ……!」
今日は新築祝いに、パーティーを開催する。
国王の治療費としてもらった金貨百枚とはまた別に、国王のポケットマネーで家を建てかえてもらったのだ。
もともとは前にプレノート家が住んでいたところに建て直そうということだったが、私のお願いで場所はここのままになった。
せっかくここの地区の人と仲良くなったばかりで、離れたくなかったのだ。
「お姉ちゃん、どう?」
おめかしをしたリリーが、ちょこちょこと走ってきた。
フリフリのレースがふんだんにあしらわれたドレスで、えり元には赤いリボンが結ばれていた。
赤髪はサラサラにとかされ、白いリボンでツインテールに結ってある。リリー全体に『かわいい』が詰めこまれていた。
「リリー、めっちゃかわいい! 私はどう?」
「お姉ちゃんもかわいいし、かっこいい!」
最近はスーツばかり着て、パンツスタイルに慣れていたので、かしこまった服装でスカートをはくのは久しぶりである。
ていうか、結構露出多めな気が……。
肩・胸元・袖の部分がレース生地なのだ。推定Fカップの豊かな胸が明らかに強調されている。
「姉ちゃん、際どい格好してるねー! セクシー!」
かしこまった場に一番似合わなさそうな男がいた。運び屋筋肉マッチョのルークである。
「ちょっと、それセクハラですよ」
「へ? セク……ハラ?」
「あっ」
そうだった。今世ではそういうものはないんだった。
「そういうことを言われて嫌な思いをする人もいるので、気をつけてくださいね」
「お、おう」
最近三食をおなかいっぱい、栄養満点で食べられるようになってから、ベルの肌ツヤがよくなった。そのおかげか、久しぶりの(久しぶりであろう)ドレスがしっくりきている。
「もう私も老いてしまったからドレスは着られないと思ったけれど、思いの外大丈夫だったねぇ。もう少し貧相な見た目になると思ったわ」
「とてもお似合いですよ」
今日からプレノート邸に使用人として雇われた、ベルと話しているこの女性。
すでに打ち解けてる感じがするけど、ベルが平民になる前から使用人やってたのかな?
「当主様、はじめまして。ジェンナと申します。以後お見知りおきを」
私のところに来ると、メイド服のすそをつまんでお辞儀をする。
当主様とか言われると、なんかムズムズする……。
「私のことはどうぞ名前で呼んでください」
どんな立場になろうと、相手から了承を得ない限りは敬語を使っていくつもりだ。
ベルの長い人生で仲良くなった人たちを数十人招待して、初めてのパーティーは成功をおさめた。
ああ、めっちゃ緊張したぁ……。
コンコンコン
ノックの音に目が覚めると、寝室にジェンナが入ってきた。前世はスマホの目覚ましで、今は陽の光で起きているので、誰かに起こしてもらうなど、嫌な予感しかしない。
「グローリア様、おはようございます」
「えっ、寝坊した!?」
「大丈夫ですよ、モーニングコールです」
なんだぁ……そっか、貴族って起こしてくれる人がいるんだ。ビビった……。
「もうすぐ朝食の準備が整いますので、着替えてお待ちください」
そう言って出ていくジェンナ。
歳としてはたぶん三十代くらいだと思うけど……って、前世の親の年齢とそう変わらなくない?
まぁ、今まで私とベルとリリーで分担してきた家事をやってくれるのはすごい助かるし、足なんて向けて寝られないよ!
今日は宮廷音楽家としての初仕事。他の宮廷音楽家の人たちと顔合わせをする。
二日連続で緊張するイベント続きだが、頑張るしかない。
冷水で顔を洗い両頬を
私は王城の『王の広間』の外で待機していた。この中には宮廷音楽家の全員が集められている。
「これから、新しく宮廷音楽家として招く人を紹介する」
中から国王の通る声が聞こえると、『王の広間』の扉が開いた。
唾を飲みこんで、王に手招きされながら広間へと入っていく。
「男……いや、女か」
「何あの髪の色?」
「だいぶ若いね」
コソコソ話してるつもりだろうけど、聞こえてますよー。
背負っていたサックスのケースを静かに下ろした。
「先日、私の病を治してくれた、グローリア・プレノートだ」
「はじめまして。グローリアです」
前世からの癖でおじぎをしてしまうが、それどころの話ではない。
「こ、この人が!」
「楽器を吹いて病気やケガを治す、あの人か!」
見た目が男なのか女なのか区別がつかないとか、ピンクの髪色とか、それよりもこの人こそが国王の命の恩人なのだと……!
「おとといまで、噴水広場で毎日サックスを演奏していました。これからみなさんとお仕事できるのが楽しみです。よろしくお願いいたします」
またも癖で深くおじぎをすると、ワッと拍手が起こった。
「ちょっと、サックスって何? 今ここでやってみてよ」
一番前の列にいる女の人が、いきなり無茶ぶりをふっかけてきたのだ。
「分かりました。それではごあいさつの代わりに」
ストリートミュージシャンとして演奏していたから、こういう無茶ぶりはお決まり展開! よく言われたし。
サックスを組み立てると、私は少し緊張ぎみに『先輩』たちに向かって言った。
「それではお聞きください。人気でよくリクエストされる『まどろみのむこうに』を演奏します」
あのプレノート家が貴族に戻り、しかも宮廷音楽家の一人に選ばれたと聞いて、他の貴族には衝撃が走った。
数年前に、当時は宮廷音楽家だったプレノート家の音痴当主が解雇され、貴族の地位を剥奪されたというのに。こんなに早く戻ってくるとは。
全ては国王の大病を治したという、プレノート家の娘であった。
「でも、プレノート家の娘さんってまだちっちゃかったわよね?」
「そうよ、七歳か八歳くらいよね」
まさか、転生して家の前に倒れていた、サックスのケースを背負う少女だとは想像できないだろう。
国王に「気に入った」と言わせたその人が、今、目の前にいる。
見たこともない楽器がお目見えし、グローリアという少女はそれを奏で始めた。
澄みきったきれいな音が響いたかと思うと、少し雑音を混ぜて甘い音も出していた。微妙に変わる音色が曲名の『まどろみ』とマッチしている。
「……ただ者じゃないわね」
演奏開始数秒で、無茶ぶりをしかけた女の人が腕を組んでうなずいた。
「これがうわさのサックスの音色か」
「宮廷音楽家でも、ここまで引きこまれる演奏はなかなかできない」
その場にいた国王も含めた全員が、ピンク髪のグローリアの演奏のとりこになっていた。
相手がプロだろうと、いつもの平常心で。今日から私もプロなんだから。
そう思いながら、私は一曲吹ききった。
「「「ブラボーーーー!!」」」
みんなが一斉にスタンディングオベーションをし、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「すごい!」
「天才が生まれたな!」
「文句なし!」
「ぜひとも一緒に演奏しよう!」
しばらく拍手が鳴り止まず、国王が手を
その後、トランペットを吹く人から即興バトルをしかけられ、私はまたも浴びるほどの賞賛を受けることになった。
「ただ前世の部活で、青春かけて練習しただけなのになぁ」
当たり前のことをしただけなのに、と困惑するしかなかった。
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