第4話 白い夢の中

気がついたら白い空間にいた。なんて書き出しが小説ではよくあると思う。この言葉を聞いただけで夢の中と想像するのは容易いだろう。


「・・・どこなんだよ、ここは」


なので、少し冷静になってテンプレートみたいな言葉を発してみる。

いや、冷静になっていない。よく分かっていない。夢と識別はできる。しかし、よく考えて見てほしい。夢から覚める方法を知っているだろうか。

俺は知らない。認識はできるが自力では覚めることは出来ない。夢とはそんなものだ。そして明晰夢なんてものもあるのだが、夢のコントロールなんて難しいものだ。俺はやれない。

そうつまり、俺は何も出来ないということだ。


「寝るか」


夢の中で寝るとかよく分からないと思うが、まぁ時間を潰したいだけだ。だってやることがない、超暇、てかいつ起きるか分からない。あれ?結構最悪じゃね。


『なんだかテンション高めだね、大丈夫?』


何だか声が聞こえる。俺の夢に登場人物がいたようだ。しかし、聞き覚えのない声である。そして、一人の時はだいたいこんな感じだ。


『そうだっけ?いつも虚無だー、とかつまらないーとかぼやいてんじゃん』


あれは、ちょっと病んでたっていうか、今が現実離れしている状況だから舞い上がってるって感じだ。


『へー、楽しい?』


ちょっと楽しい。周りに何も無い空間で、邪魔するものもない感じがいい。


「で、あなたは誰ですかね?」

『おや、気づいてた?てか、あんまり驚かないんだね』

「驚いても仕方ないでしょ、正直ここが現実とは思えないし」

『なはは〜、そっかそっか。そうだよね』


謎の声の人物は楽しそうに笑い声をあげた。


『ほれ、これでどう?』


その声とともに目の前に1人の女性が現れた。綺麗な銀色の髪に長いまつ毛に大きな目、衣服は白いワンピースのようなものを纏っている。何より彼女は、キラキラと輝いている。


「眩しい」

『最初の感想がそれかー』


割と輝いているのだ。それにキラキラしたものは苦手だ。羨ましいと感じる。


『でも、君らしい』


いい笑顔でそう言われてしまった。俺らしい、か。

結局、自分らしさというものは自分自身ではよく分からないものだ。人から「君らしい」と言われはじめて気がつくものだ。目の前の彼女が、俺のことをどれだけ知っているのか分からない。だが、その言葉はとても心に響いた。


『さて、ふざけた話はこのくらいにして、本題に入ろうか』

「・・・本題」

『そっ、本題。ざっくり言うと、君に危険なことが起こるかも、ってことだよ』

「ざっくりしすぎなのでは?」

『どうなるかは君次第だから忠告だけ』


随分と適当な忠告だ。この言葉を受け取るなら俺の行動しだいで危険が回避できるということ、だが、その危険の内容も回避の仕方も分からないときたもんだ。やばくね?


『なはは〜、そんなに身構えないでよ。安心しなよ、君なら大丈夫だよ』

「なんで?」

『君は強く心から願ったから』

「・・・星に?」


この問いを聞いて彼女はニコリと笑った。だが、肯定も否定も言葉にはしなかった。


『ああ、そろそろ時間だね、目が覚める』


そういうと彼女の体は少しずつ薄くなっていく。だが、その眩しさは薄くはならない。


『聞きたいこともあると思う。でも残念、しばらくは会えないかな』

「そりゃ、残念だ」

『なはは〜、本当にそう思ってる?まぁ、いいや。さて、別れの言葉といこうかな』


彼女は拳を握り前に突き出し、俺の胸に当てる。エールを貰えるみたいだ。


『輝け!』


彼女がはなったのは、この一言だった。頑張れとか、負けるなとか、バイバイとか、そんな在り来りな言葉ではなかった。俺の胸に深く突き刺さる言葉だった。


「このっ!!」


その時、俺はどんな顔をしていただろうか。きっと変な顔をしていたに違いない。

心が荒ぶる。今ならなんでもやれる気がするなんて、根拠の無い自信が湧いてくる。

くそっ、効果絶大じゃないか。


「ありがとう」


彼女は手を振っていた。そして薄くなっていく。

俺の視界も段々と曇っていく。ああ、目が覚めるんだと分かる。不思議な夢だったと思う。また、いつか会えるのかと考えてしまう。

しかし、待てよ。よく考えたら俺、彼女の名前を知らない。ああ、やらかしたなぁ〜。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


目覚ましの音と共に目が覚める。カーテンを開くと朝日が差し込んでくる。気持ちのいい朝だ。

ベッドから起き上がり軽く伸びをして身体を整える。

朝食を食べ、身支度をする。なんだかスッキリしていて調子がいい。


「よし、行ってきます」


元気に家を出る。その足取りは学校へと向かう。曜日は金曜日を記している。

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