第3話 流れる星に願いを
自宅に帰り天体観測の用意をする。といっても大したものは持ってない。
レジャーシート、なにか羽織れるもの、そして水筒、くらいだろう。別にガッツリ天体観測をやる訳では無いし、少しでも観る事ができたらいいのだ。
「さて、行くか」
外に出ると少しの冷えと赤みと暗さが入り交じった空が広がる。普段はこの時間帯に外に出ることはほとんど無い。だからこそ、このいつもと違う雰囲気に心がざわついてくる。
「・・・この空気苦手だな」
俺はこの夜に差しかかる空気感が苦手だ。
小さい時はそうでも無かった。むしろワクワクしたくらいだ。だが、いつからかこの感じが苦手になっていた。この空気があると、何かをやらなければならないといった気持ちが襲ってくる。
自転車を漕ぎ、目的の場所に向かう。少し街から外れ、見晴らしのいい場所に着く。昔はよくここで遊んだのを懐かしく思う。
「早く着いたな」
予定よりも早く着いた。流星群はまだ起こらない。水筒からお茶を飲みながら待つ。空を見上げてみると星が点々と光っていた。
そして、ひどく懐かしい気持ちになる。
夜に外に出ていなかったからなのか、それとも上を見上げなくなったからなのか、星が眩しくて仕方なかった。目にはとても小さな光しか映らない。でもそれが目を背けたくなるほどに輝いて見えた。
(いつからだっけ、下を向きはじめたのは?)
ふと、そんなことを思う。
何もやらなくなった。何も頑張らなくなった。毎日をつまらなく思った。世界に色が無いような感覚で過ごしていた。
虚無な日常を過ごし、亡霊のように幻のようにふらふらとしていた。
「・・・自分は虚無なる幻ってか」
嘲るように乾いた笑い声をあげる。そして大きなため息が漏れる。
そんな時、空に一筋の光が流れる。
「流れ星・・・始まったか」
ぼーと空を眺める。巨大な黒い空が広がり、光の筋が流れてくる。
幻想的であり、どこか非日常のようにも思えた。ああ、俺が求めたものはこれだったのかと思えるほどだった。
「いいなぁ」
そんな言葉が漏れ出た。光輝いている空はつまらない日常では無い。自分が求めていたものだからこそ眩く目を背けたくなり、手を伸ばしたかった。
ふと、記憶からある言葉が思い出される。「流れ星はね、お願いすると願い事を叶えてくれるんだって」なんだか懐かしく感じる。
「・・・願い事、か」
流れる星を観続ける。時間だけが過ぎていってしまう。
俺はスッと立ち上がり、手を組んだ。昔の記憶から引っ張り出し、誰かがやっていた願い事のポーズを、真似る。そして、願い事を口に出す。
『世界が面白くなりますように』
そう願った。一瞬だが、流れ星がピカッと一層強い輝きを放ったように思えた。まるでこちらの願い事を了承したかのように。
「て、んなわけないか」
気がつけば星は流れなくなっていた。幻想的と思えた空は黒く染まっており、現実に引き戻されるような感覚に襲われる。流星群が終わったと確信した。
「まぁ、いい気分転換だった。明日は土曜日で休みだし、ゆっくりとしますかね」
俺は荷物をしまい、自転車に乗る。
明日は休日。学校もなし。今日は流星群を見れた。これだけで、十分だと思えた。ほんの少しの現実からの逃避ができたような気分が良かった。
「ああ、今日はよく寝れそうだ」
心からそう思うのだった。
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