第2話 ほんの少しだけ違う今日

その夜は懐かしい夢を見た。


昔、小さい時によく両親に、見晴らしのいいところに連れていってもらって星の観測をした。

上を見上げればポツポツと星が浮かんでいてとても綺麗だった。その時は星座を教えて貰ってもよく分からなくて、でも、とにかく夢中だったんだ。

そんな中で、特に好きだったのは流星群。たまに夜空に流れる光に目を奪われたんだ。

初めての流星群で『流れ星に願い事をする』ってことを知ったんだ。力いっぱい叫んで星に願いを伝える、これで願い事が叶うって教えてもらった。

あれ?これは誰に教わったんだっけ?確か星のように輝いていた気がする。だけど思い出せない。


そんな思い出せないもどかしい気持ちのまま、夢の終わりが来た。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


今日は、ほんの少しだけ気分がいい。何故だろ、今日は天気がいいからだろうか?懐かしい夢を見たせいだろうか?

まぁ、それでも学校に行きたくないって気持ちは変わらない。憂鬱なのはいつも通りだ。


「はぁ、起きるか…」


憂鬱さは変わらない、それでもなんだか今日はのりきれそうな気がする。

学校にはいつもよりも数分早く着いた。いつもは遅刻ギリギリラインで登校しているが今日は余裕があった。

自分の席に着き、携帯をいじる。


「あれ?今日、牡丹早いじゃん」

「気分だよ、気分。響華早いから、朝練だな」

「あっはは〜、当たり〜」


ダラっとした様子で響華はこちらに声をかけてくる。

彼女は遅刻の常習犯ではあるのだが、部活動だけは真面目に行っている。だからこそ彼女が教室には既にいるならそれは朝練だとすぐに分かる。


やる気は出ない、つまらないことは変わらない、平凡であることは覆らない。それでも今日はいつもよりも楽に乗り越えることが出来た。


「ねぇ、牡丹」

「…どうした?」


普段だったら軽い挨拶をして帰るだけだが、珍しいことに響華から話しかけられた。


「今日さ、なにかいいことでもあった?」

「へ?」

「いやさ、今日なんだか元気だな〜って思ってさ」

「そんなにか」


正直自覚はない。気持ちが楽なのは認める、しかし外から見てわかるほどだとは思わなかった。


「いやいや、何となくだよ?いつもよりもキラキラ?してるって思っただけ」


キラキラか、面白い表現だと思った。

今の自分は少しでも輝いていると考えると少し、嬉しく感じてしまう。

でも、その理由を探ってみる。「いいこと」を考えてみる。


「で、いいことあった?」


一つだけ心当たりがあった、ただの思いつきで、暇つぶしのように思っていた。だが、俺は予想以上にそれを楽しみにしていたようだ。


「今日、流星群を観に行くんだ」


だから俺は、あえて、普段しないような、いい笑顔で言ってやった。

響華は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑って答えた。


「そっか、楽しんできてね」

「ああ!」


俺はそのまま教室を出ていく。ほんの少しだけ足早に。

その背中を見ながら彼女は呟く。


「あはは、いいねぇー、楽しそうだ。ビックリしちゃったよ。」


彼女は羨んだ顔を浮かべる。そして、自身の部活動の道具を見て、ほぅと軽い息を漏らす。


「・・・私もキラキラできるのかなー、なんてね」


彼女は荷物を持ち、そのまま教室を後にした。

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