11冊目 月光

月はいつも冷たい顔をしている。


人間を信じた顔を見せてくれたことがない。


僕がチューターの先生に叱られた時も模試でいい点を取った時も、月はいつも冷たい顔をしていて、お前のことなど知らないという様にその冷たい顔からきれいな光を指すのだ。


ああ、月へ行きたい。もう点数も隣のライバルも気にすることのない静かで清らかな月へ行きたい。


塾からの帰り道白い光に照らされながら自転車をこぐ。


それでも月は冷たい顔のままだ。


君はいつになったら笑ってくれるんだろうか。


満月の日も三日月の日も君は冷たく寂しい顔をしている。


どんなに細くなっても君は寂しい存在なんだ。


しかしそんな君も一人でいたい時があるのだろう?


新月の日は顔をそっぽへ向けてしまうではないか。


人間に見られないように泣いているんだね。


わかるよその気持ち。僕も泣き顔を人に見せるのは気が進まない。


泣きたいとき、僕は縦笛を吹くんだ。


温かい音色は凍えた心を少しだけ溶かしてくれる。


心の冷気が笛から抜けていくのがよくわかる。


愚痴や悲しみは音色に変わる。


音色を聞いてくれるのは野良猫と虫だけ。


でもそれでいいんだ。


一人じゃないだけましなんだ。






架空小説より引用・・・「月光」

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