7冊目 記憶のソース
「まずい」
そう一言つぶやくと、原田は皿を指で軽く押し返した。
またしても失敗。原田の舌を満足させることはできなかった。
昨日は麻布でも指折りの名店フレンチのシェフが振舞ったらしいが、前菜を一口だけ食べ原田は帰ったらしい。
厨房では皆肩を落とすどころか、むしろイライラしていた。
「あのじいさん舌が肥えすぎなんだよな。」
「本当、金持ちってわかんねえわ。」
確かに私たちはこの日のために相当な時間と労力をかけてきた。
原田は毎日違う有名料理店からシェフを呼び、一年通して毎日違うものを口にしている。
噂によると最近になっていきなり物を食べなくなったという。
料理人界隈ではもうじき死ぬだとか、老化が原因で内臓が受け付けないだとか変な噂立っているが、彼の一食を担当するだけでも狭き門であり名誉なことであるのは確かだ。
それに加えて一食の代金としてはなかなか金払いがよい。だから何と言われようと皆我慢して料理を振舞うのだ。
原田は世界的にも有名な企業の会長で、彼の企業の製品を見たことがない人間など恐らくいない。
元々は小さな計算機を売っていたらしいが現在は電子機器なら何でも扱っており、
グループ会社化してからはとにかくいろいろな業界で成功している。
同僚と厨房の片づけをしながら、ふと、先日原田が小さな小さな定食屋へ一人で入っていったのを思い出した。
架空小説より引用・・・「記憶のソース」
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