6冊目 心の換気扇
近々大型店舗ができると聞いたのはいつだっただろうか。あれからおそらく2か月たったが結局大型店が移転してくることはなかった。
「おい、じいちゃん。お客さんだぞ。」
雄一は店の奥の祖父に向かって呼び掛ける。
「いいんだよ、雄ちゃん。いつもの餌買いに来ただけだからさ。」
近所に住む飯田さんは店の裏にある川で釣りをするのが趣味で、よくミミズを買いに来る。
会計を済ますと飯田さんはにこりと微笑み店を後にした。
雄一の祖父は最近体の調子が悪く寝込みがちである。体調がすぐれない日は雄一が代わりに店番を務めるのだ。
「こんな田舎でライバルと戦うほど暇じゃないってか。まあそれでよかったんだろうな。」
もともと畑山釣り具店は、高度経済世長期にできたリゾート施設の恩恵をあやかるために、自然の多い四国へわざわざ越してきて作った店なのだ。
確かに当時は観光客の量そのものが多く、都会では経験できない豊かな自然の中で身も心も休めたい人たちでいっぱいだったので、レジャーの一環として釣りをする客が多かった。
時には餌の虫が足りず、山でミミズ以外の虫も取って売ったほどだったのだ。
いまはその面影もなく、元気を失いかけている市内のメインストリートから少し離れたところで、細々と営んでいるというわけなのだ。
架空小説より引用・・・「心の換気扇」
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