5冊目 あの星をゴールへ

「たっちゃんはいい子だね~」


幼いころ祖母に言われた言葉を思い出した。


バイクの乗り方は一度先輩に教えてもらっただけである。


大きな旭日旗をなびかせ、ほぼ違法改造の結果爆音が鳴るバイクにまたがり、太い国道を仲間と共に走り抜ける。


いや、本当に彼らは仲間のだろうか。


寂しさを埋め合っていると知らず知らずのうちに集まっていたのだ。


最近は人間が増えすぎて全員の名前を完璧に言える自信がない。


達也の後ろに乗る竜一もまた、その一人である。


竜一はどこからとってきたのかわからない工事現場のポールを振り回している。


案の定いつもの交差点を信号無視して侵入したところでパトカーが待ち受けている。


見つかる度に仲間はバラバラになり、またどこかの道で再開するのだ。


「おい達也!前見ろ!」


竜一の声であわててハンドルを切るが、間に合わなかった。


視界が高速でぶれていくのが最後の記憶だった。




目が覚めると見慣れた天井だった。


病院である。


集団部屋なのにどこか寒い。


枕元の時計は8時を指している。


またこの展開だとうんざりしながら立とうとすると、足に激痛が走った。


痛みの方向に目をやると、白くて太い足がベットに横たわっている。


これもいつもの展開である。


恐らく今度こそ歩くことはできないだろう。


モヤモヤで一杯に慣れた重い頭を枕に沈めると、看護師が入ってきた。


これもまた見慣れた顔である。






架空小説より引用・・・「あの星をゴールへ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る