2冊目 雲の向こうの海岸に

夏は虫が湧くから嫌い。


遥は予備校のベンチで友達を待つついでに自販機でお茶を買った。


外のセミはうるさく、日々のストレスを蒸し返してくるように感じるのだ。


「おまたせ~ごめんごめん!」


急ぎ足で教室から出てきたのは予備校の友達の雪である。


「ほんと、山崎の教え方合わないんだよね~」


かばんにプリントを詰めながら雪は自販機へ向かう。


「結局あれから変えなかったんだ。」


遥は昨日のことが頭から離れず、若干上の空であった。


「うん。親がダメってさ、変更料金もかかるし。」


炭酸飲料のボタンを押しながら雪は言う。


「そうそう、秋二くんどうだった?」


5月ごろから遥は秋二と連絡を取り合う中で、雪と秋二は同じ高校出身である。


三人とも同い年だが秋二は一足早く大学生になった。


「なんかよくわかんない。」


顔を少し曇らせながら答える。


「楽しくなかったの?」と聞くと首を横に振り、「カッコよくなかった?」と聞いても横に振る。


「遥、もしかしてさ、」


雪が何かに気づいたように問いただそうとすると、遥はさっきより目を開き顔を上げて雪の方を向く。


「やっぱり。」


わかってましたよと言わんばかりに何かを察した雪は、ペットボトルのキャップを開ける。






架空小説より引用・・・「雲の向こうの海岸に」








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