第2話 疑惑

 この日を境に、陽太の状況は一変することになる。


 女性が救急車に乗せられるのを見届けたあと、学校へ行った陽太。

 すると、陽太は、なぜか周りにいる生徒達から胡乱うろんげな目を向けられた。


 みんながスマホを見て、陽太を見て、ひそひそと話している。

 その様子に、陽太は、嫌な予感を覚え、自身もスマホを出して、いつも利用しているSNSのアプリを開いてみた。


 自分のアカウントを調べると、


『一ヶ月でこんなに助けるっておかしくない?』


 という文が目に飛び込んできた。他にも、


『絶対おかしい』

『なんか変だろ』

『ありえない』


 などなどの、陽太への反応の数々。

 それらを読み進めていくと、


『これまでのって、自分で相手を危険な目に合わせて、自分で助けてたんじゃね?』


 という書き込みを発見した。


 それを見た陽太は、駅で聞いた、『……いくらなんでも助け過ぎじゃね?』という耳に残った言葉を思い出し、


「……もしかして、俺、助けすぎて、自作自演で人助けしてるって思われてるのか?」


 生徒達とSNS内の反応の意味に気づいた。


「そ、そんなんじゃないって……!」


 陽太が戸惑い、どうしようかと考えているうちにチャイムが鳴り、SHR、授業と始まったが、みんなから自分へ向けられる冷たい視線が痛くて、陽太は、一限目が終わると学校を早退した。


 陽太は、家へ帰る間や帰ってからもSNSをチェックしていたが、書かれる内容は、自作自演の人助けという憶測にみんなが賛同するものばかりになってゆき、夜には、


『詐欺師』

『お巡りさん、はよ』

『自首しろ』


 と、昨日までの褒め言葉が嘘のように、陽太を責める書き込みだらけになっていた。



 ◇◆◇◆



 陽太の自作自演の人助け疑惑が出てから二日後。

 陽太は、疑惑発生以降、学校へも行かず部屋に引きこもっていた。

 その間、陽太は、


「本当に助けてたんだっての!」


 スマホを見て、ずっと同じことを愚痴っていた。


 もういっそのこと、と思い、陽太は、『自分がここ一ヶ月くらいの間、連続で人助けができていたのは、予知夢を見ていたからなんだ』、と正直にSNSに書いた。だが、


『はいはい』

『アホですか?』

『俺も見たよ。明日晴れ』


 誰も信じてはくれなかった。


「クソッ!」


 イラつきから、陽太がベッドの上にスマホを投げた。


「何で誰も信じてくれないんだよ……」


 しかし、すぐに泣きそうな表情で頭を抱えた。

 情緒不安定だ。


「あんなに人助けしたのにさ……」


 陽太がこれまでの人助けの内容を思い出す。


 強風で木が倒れ、下敷きになりそうだった人を助けた。


 駐輪場の自転車がドミノみたく倒れて、壁と自転車に挟まれそうになった人を助けた。


 飛んできた野球の硬球が頭に当たりそうだった人を助けた。


 坂道を後ろ向きに下っていく、サイドブレーキのかかりが甘かった無人のトラックに乗り、ブレーキを踏んだ。


 そして、暴走車から助け、階段で助け……


「……んん?」


 そこまで思い出し、陽太は首をひねった。


「……俺の人助けって、犯人いない」


 ということに気づいたからだった。

 どれも犯人のいない事故、もしくは犯人の捕まっていない事故だった。


「ということは……」


 陽太が思考を巡らせる。


 これまで助けた人を見つけ出して、俺の自作自演じゃないと証言を頼むこともできるが、不信感を募らせてる人は、耳を貸さないだろう。


 ならば、決定的な証拠を見せればいい。

 つまり、


「犯人がいる事件で、犯人を捕まえて解決すれば、俺が自作自演で人助けをしてるんじゃないって証明になる」


 陽太は、現状の打開策を見つけたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る