第6話

 フィロの言葉に、アジュラトは余裕たっぷりな声音で、にやりと笑ってそう返してから。


 彼女の『心配』を行動で、心配する事なんかないよと、強くアピールするように……。


 ──堂々とした王のような歩みで、扉の奥へと。


恐れを知らない人物のように、進んで行くので……。


 それを見ていた、フィロは。


「わ、わわわ……もうアジュったら……。またそう言う事して。あと、私を置いて行かないでよ!! そうやって、ずかずか手柄を取りに行っちゃ、ダメだってば」と、そうムッとした表情で、フィロはぶつぶつと文句を口から吐き出しながら……。


 彼女の後に続けと、言わんばかりに、同じような堂々とした歩みで。


 ──救いを求める魔族達の声を、この手で止めるべく。重たい金属で閉ざされていた扉の奥へ、進んで行くと……。


 なんとそこは、さっきの場所とは天地の差が出る程の、酷くて悍ましい光景が広がっており……。


 壁という壁に、オブジェのように埋め込まれている、天井まで届くカプセルのような物の中に、数えきれない程の小さき火の悪魔達の亡骸が、まるで燃料のように、みっちりと隙間なく詰め込まれていたので……。


 それを見てしまった、フィロは。


 ──この悪逆非道さに、この施設で働いてる人物達なんか助けなければ良かったと、強く思いながら。 自分より先を歩くアジュラトに、震えた声でこう話かける。


「こんな酷い事、何のためにしてるの? これじゃあまるで……」


「この世の地獄、だよね……ほんと、これが人間がやる事なのかな? 魔族よりも残酷すぎるよ」


「そうだね……。本当にそう思う」


 アジュラトの返答に、フィロはどんどん顔を曇らせて、自分が本当はやりたくないけど、家族の為にやっているこの仕事に、対して。


 ──さらに『サボりたい……いや、むしろ止めてしまいたい』と、強く思いながらも。まだまだ途切れない、助けを求める声の方へ。


 急ぎ足で、どんどん前に進んで行くと……。

 突如、大きく開けた謎の空洞の部屋に、辿り着いて。


さっきの場所とは、また違った不穏で、どこか言いしれぬ恐ろしさのある場所に、普段あまり感情的にならないアジュラトも。


「クソ野郎ども、最低最悪な趣味しやがって……」と、感情をむき出した声で、強く言い放つので。


「アジュ!? 大丈夫? 確かに、ここすごく……イヤな気持ち悪さ、あるよね」

「嗚呼、そうだね……そりゃ気持ち悪くなるさ。だってこの場所の壁、よく見ると良いよ。ほんとこんな事……魔王でも、思いつかないよ」


 そうアジュラトは、言い捨てるように言いながら、壁を静かに指さすので。

 フィロはその方向に、視線を向けると……。


 ──なんと、そこには。先ほどみたカプセルが無数にあり、しかもその中にまだ息のある小さき火の悪魔達が、隙間すらない状態で詰め込まれており。


 そして、お互いがもがき苦しんで、押し合う時に放たれる火が、カプセルの上部についている機械を通して。この国の電気を生み出す為の機関として、使用されている惨状が、あったので……。


「わっ……うそっ……やめて、やめてよお願い。こんなのダメ、こんな残酷な力で、暮らしてるの……?なんで、どうして?」


「ほんと、なんでだろうね? だから……魔族たちに今襲われてるんだよ。ほんと……イヤになるけど、フィロはそんな世界を、変えたいんでしょ?」


「……うん、変えたいよ。だから、私はみんなが幸せになれるように。魔族達を逃がすの……それが、魔族と戦わない、サボり魔娘の夢だから」


 フィロはアジュラトの目をしっかりと見ながら、そう強く、言い放つので。


「そうだね……それが、君の夢だからこそ。この私が何処までも、サポートしてあげるよ!! さあ、二人で今日も、サボり魔王を極めよう!」


 アジュラトは声高らかに、そう答えながら、自身の周りに青白い球体の光りを、沢山出して。


小さき火の悪魔達が、閉じこめられているカプセルのような機械に向けて、次々と放りなげるので……。


 それを見たフィロは、自分も続けと、言わんばかりに。


「了解、今日も二人で、ギルド長に怒られようね」と、元気な声と笑顔で、自分の仕事でもある魔族達を捕まえる、または殺すという仕事を、大胆にサボる為に……。


 ──自分がもてる力を、この一点に、全て託すように……。


 一筋の救済の光りを、この場所で苦しむもの達を逃がす為に、サボり魔娘フィロは……。


 天に向けて、魔王でしか撃つことが出来ない閃光を。


 ──希望を見せる為に、力強く放つのだった……。



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