第5話

通路の奥にある、生まれてこの方一度も見たこともない文字が、扉に大きく書かれた……。


 どうみても、この施設の最重要な場所だと言わんばかりの場所から、魔族達の怒号……いや、違う助けを求めるような声が、聞こえてくるので。


フィロは『どうして……助けて、なの?』と、襲いに来ている筈の魔族達が、口々に言う『救いを求める言葉』に、心がざわざわと乱れ……。


 ──そう言えば、この施設の人物達も。

何処か不思議な対応をしていた事を、ふと思い出して……。


 思わず、


(もしかして、私……。今ものすごいことに、巻き込まれてる?)と、心の中だけで呟いてから。


重たい金属の扉で何重にもロックされている、その扉に左手をかざして。歌うように、こう彼女は叫ぶ。


「ロベリアを散らすようように、輝け憤怒の光り」と、そう強く言い放って……。


 指先からレーザー光線のような青白い光りを放ち、大人が一人ぐらい入れるサイズの穴を、そこにあければ……。


「っ……すごっ……流石、私の愛しき人だっ……ていう冗談は置いといて、ごめんねフィロ……随分と、待たせてしまったね」と、笑って言うアジュラトが、いつの間にかフィロの背後に居たので。


「えっ……あっ……いつの間に来たの? もう、びっくりさせないでよ!!」


「あははは、ついついフィロが可愛くてねっ……っていう話は、ここまでにして。フィロはこの扉の中に、今から入るつもりだよね?」


「うん、そうだけど? 何か問題でもある感じ……?」


突然まじめな顔をしてそう聞いてくるアジュラトとに、フィロは『やっぱり、ここは駄目な場所だったか……』と、自己反省しながら、不安げに言い返せば。


「いや、一ミリもないよ。むしろ……この扉を開けてくれて、ありがとうかな。流石に私でも、これはね開けれないかなって、思ってたからさ?」


「へぇっ……そうなのっ……て、こんな話をしてる場合じゃないよ、この奥から聞こえる魔族達の声を、止めに行かないと!! じゃないと、みんな不幸だよ」


「嗚呼そうだね、このままではみんな不幸だよ。だから、二人で止めに行こう。この私が居れば、君の夢のような戯れ言だって……。現世に、連れてきてあげれるからさ」


 アジュラトはそう答えながら、フィロが開けた穴へ、我先に入って行くので……。


 この穴を開けた本人でもあるフィロは、血相を変えたような顔を見せて。


「ま、待ってよアジュ……!! わ、私より先に行っちゃダメ!! まだ、熱々かも知れないから!!」


「……フィロったら、心配性だな。でも、そんな君が可愛いよ。ありがとう」



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