第8話

「小野さん、今日はもう閉店なので」

「はいそれでは」


 落ち着いた様子のマスター、いやルシファーの言葉に甘え逃走。自宅のアパートの部屋の鍵を開け電気をつけるとウエイトレス姿のアヤミちゃんがいた。

「またドアを通り抜けたの?」

「かくまってえ」少女は床にへたりこんだまま涙目で訴えた。


「国税局地域外課の人、名前を名乗らなかったでしょ。でもあれが鬼退治で有名なハリー坂田。あんなめちゃくちゃ恐い人に狙われたら怖くて学校も通えない」


「なんでアヤミちゃんが狙われるの?」

「あたしの魂の値段が青森のリンゴ2個分だから。つまり連行されるんだけど、それを回避するにはひとつ方法が」

「代案があるならそれをやってみたら」


「小野さんの魂を奪い取り代わりに差し出す、だけどいいの?」

「どどどうやって」

「エッチしたら魂を吸い取れるってママが言ってたけど、ダメよね。諦めて連れて行かれます。さよなら」

「いや、他の平和的な解決策を考えてみようよ」


 インターホンが鳴った。

「どちらさまですか」

「名前言わなきゃダメか。そこにいる娘っ子に用があるんだが」


 国税局地域外課のハリー坂田。映画とイメージが違うけど鬼退治のレジェンド感がめちゃくちゃ恐い。


「連れて行ってどうするんですか」

「競売にかける。人間の娘じゃないことは小野さんも分かっているはずだ。油断してると魂を吸い取られるぞ」


「2人の間に子供が産まれたらその子を差し出します」

 苦し紛れのでまかせを言ってしまった。ハリー坂田はしばらく沈黙。

「その旨を娘っ子に一筆書かせてドアの下の隙間から差し出せ」


 アヤミちゃんにメモ帳とボールペンを渡し、一筆書かせた。それをドアの下に差し入れるとハリー坂田が抜き取った。

「これを競売にかける」

 ドアの向こうの気配が消えた。

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