第2話 任務

 スパイの仕事は残酷だ。

 四六時中集中力を働かせて嘘を誠として吐いて仲間を騙していく。だが、潜入した先の仲間という虚とした繋がりも長いこと同じ時間を過ごすと本物の仲間に思えてしまう。そして、自分の身を切り裂く天秤にかけることになる。そこの仲間を取るのか、それとも祖国の仲間を取るのか。本当に残酷な天秤だ。


 この職業はタイミングが大事だ。

 長く潜入すれば心を許してしまいたくなるのも仕方ない。だからこそ、引き際を見極めて引く。もし寝返りたいならばタイミングを見計らって正体を明かす。もしグダグダと活動を続けていれば正体がバレてしまい最悪な未来に転落するしか道はなくなってしまう。

 さて、彼らはどのタイミングで裏切るのか、それとも寝返るのか。


 貸し出された寮の中で俺は能力を使う。


『スパイ化』


 この技はスパイとしての活動を確実にさせる。発動後、対象以外には話を聞かれなくなる。隠密行動が怪しまれなくなるなどご都合主義的能力である。ただし、魔力量の問題で長く使用することはできない。

「こちらコード"オー0オー0ワン1"。無事潜入できたようだな。私は引き続き任務を遂行する。そちらも引き続き任務を遂行せよ。特に「碧の国」のこと、抜かるなよ」

 そこで通信を終えた。


 ここにはスパイが何人も潜んでいる。特級部隊は一流の実力者のみしか受け入れないがために、他国から送られた優秀な実力者、つまりスパイがほとんどを独占してしまっているのだ。


 俺にはスパイとして「蒼の国」の情報を流す任務があったがそれ以上に最も重要なタスクがあった。それは「碧の国」のスパイの観察であった。


 「蒼の国」は他国に多大なる影響を与える大国であるが地理的に祖国とは国をまたいだ関係にあった。

 一方でその国に追随する大国「碧の国」は祖国と隣接している。

 「蒼の国」は最先端の技術力と人力、施設を持つ。祖国では真似できない危険兵器をも持っている。「碧の国」はその兵器のデータさえ手に入れれば真似できてしまえる大国であった。

 潜入中のこの国は隣国ではないためそこまで脅威とは感じていないが、もし隣国「碧の国」が兵器を作り出したら、祖国は恐怖と圧迫に苦しむ事になるだろう。最悪の場合は国を乗っ取られたり滅ぼされたりするかもしれない。

 どうにかして「蒼の国」の兵器がかの国に盗まれないようにしなければならない。俺に与えられた重大任務は「碧の国」のスパイを洗い出して、彼らの盗みを防ぐことなのだ。


 俺は異能力によって誰がスパイかと言うことは分かる。だが、どの国のスパイかまでは分からない。


 長丁場になりそうだ。

 俺は仮面を被ったまま布団の中で眠りについた。

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