第25話 電話

再度快兄の携帯に連絡を入れるもやはり繋がらない。


影狼という脅威がある中で、私は何故快兄をコンビニになど向かわせてしまったのだろう、という後悔をその身に覚えながら、霜花さんに連絡を入れる。


「もしもし、秋晴さん?どうなさいました?」


「・・・快兄が帰ってこないんです。」


私のその言葉に驚いたように霜花さんは声を大きくした。


「なんですって?訓練からは一度帰っているはずですわよね?」


「コンビニに向かってからもう二時間帰って来ていないんです。最初は立ち読みか何かで遅くなっていると思ったんですけど・・・。連絡を入れても返事も帰ってきません。」


「・・・なるほど。コンビニで二時間は長すぎますわね。少しお待ち下さい。GPSで位置を教えてもらえるよう本部に聞いてみます。」


そう言って、霜花さんは一旦電話を切る。


後悔と不安に包まれながら私は快兄の部屋に向かった。


もしかして、携帯を置いていってしまっているのではないかと、少しだけ考えたのだ。


悪いと思いながら快兄の部屋を調べるが、携帯はない。


着信を入れても部屋の中で反応が無い所を見るとやはり忘れていってしまい、気づいていないという訳ではなさそうだ。


リビングに戻る私に霜花さんから折り返しの着信が入る。


「秋晴さん?快晴さんの居場所が分かりましたわ。」


「本当ですか!?」


「ええ。快晴さんは今、綿雪の家にいるようですわ。」


「・・・雪ちゃんの家?」


「わたくしも安心しましたわ。何故コンビニに向かった快晴さんが綿雪と一緒にいるかはわかりませんが、綿雪と共にいるなら影狼の襲撃というわけではないでしょう。恐らく、バッタリ出会って、綿雪のワガママに振り回されているだけでしょう。」


快兄が雪ちゃんの家に?


疑問は多く残るが、一先ず影狼に襲われてはいないようで、私は胸を撫で下ろす。


「・・・そうですか、影狼ではないのなら良いんです。ありがとうございました。」


「いえいえ。こんな状況ですから帰りが遅くなれば心配になるのは当たり前ですわ。わたくしからも綿雪には不用意に連れ回さない様に注意しておきますので。」


「・・・はい。ありがとうございます」


そういって霜花さんからの電話を切ると私は続けて雪ちゃんへと電話を繋げる。


長いコール音の後に雪ちゃんは電話に出た。


「はい?秋晴お姉さん?」


「雪ちゃん、快兄はいまそこにいるの?」


私の言葉を聞いても雪ちゃんの態度は至って普通のまま。


「あー、うんいるよ?それがどうかした?」


「家を出てってから連絡が取れなくて心配してたの。快兄がいるなら変わってもらえないかな?」


私の言葉に少しだけ考えるように黙る。


「どうしたの?何か快兄にあった?」


「・・・いや。大丈夫だよ。ちょっとまってて。」


そういうと、雪ちゃんは携帯を繋げたままパタパタとスリッパの音を響かせてどこかへ向かっている様だ。


扉が開くような音がした後に、秋晴お姉さんだよ。と、快兄に告げる声が小さく聞こえた。


「・・・も、し、もし、秋晴、どう、した?」


「どうしたじゃないよ!!コンビニにいって二時間も帰ってこないし、心配だったんだよ!?連絡入れても反応も無いし!!」


安堵から声を大きくする私。


そんな私対して快兄は


「・・・わ、るい。わ、るい。」


と気にも止めていない様におざなりに謝るだけ。


けれど、どこかぎこちない様子の快兄の言葉に何か普段とは違うおかしさを感じた。


「わるいって、快兄・・・。影狼に狙われてるかもしれない状況でワガママいった私が悪いんだけど、連絡くらいは返して欲しいよ。」


それに対しても快兄は


「・・・わ、るい。わ、るい。」


と返すだけ。やはり快兄に何かあったのでは?


「快兄、なんか様子がおかしいけど何かあった?」


その私の問いかけには、快兄が返事をする事なく受けたのは雪ちゃんだった。


「あーー、秋晴お姉さん?快晴お兄さんはだいぶ疲れているみたいなんだ。コンビニの途中で偶然会ってね。調子が悪そうだったから、ボクの家まで来てもらったんだ。」


私はその言葉に違和感を覚える。


雪ちゃんの家の場所は知らないけれど、コンビニからの距離を考えるならば私達の家の方が近いのではないか?とも思えるし、コンビニに向かう前の快兄は至って普通だった。


それに、雪ちゃんの言う通り体調が悪くなり彼女の家に向かったとしても、私の為のスイーツを買い出しにいったのだから、快兄なら私に連絡くらいは入れる筈だ。


「・・・雪ちゃんの家はどこにあるの?」


「ボクの家?ボクの家はアジトの近くだよ。まぁ駅前だね!」


「・・・そんなに遠くに?体調の悪い快兄を電車に乗せて、わざわざそちらにいくなら私達の家に来た方が良かったんじゃない?」


「あー、二人の母親とボクが顔を合わせると良くないかなって思ったんだ。」


「・・・そう。分かったわ。快兄を保護してくれてありがとう。今から迎えにいくから、住所を教えてくれる?」


「いいよ!いいよ!夜も遅いし、わざわざ来てくれなくても。それに快晴お兄さんもボクの家に泊まるっていってるし!」


「・・・本当?」


「うん。快晴お兄さんに聞いてみてよ!」


と快兄に電話が取り次がれる。


「快兄?体調悪いの?」


「あ、あ。」


「雪ちゃんの家にお邪魔してるみたいだけど、私迎えにいこうか?」


「い、や。い、い。とまっ、ていく。」


やはり快兄の喋り方はぎこちない。


「ねぇ、本当に大丈夫なの?喋り方もなんか可笑しいし、病院行かなくても良い?」


先程と同じようにその質問に快兄が答える事なく、電話口からは雪ちゃんの声が聞こえる。


「快晴お兄さんは本当に疲れてるみたいで、さっきまで少し寝ていたから様子がおかしいのかも知れないよ。とにかく、快晴お兄さん今日はボクの家で預かるから!影狼の心配はしなくて良いからね!」


そう言うと雪ちゃんは私の返事を待たずに一方的に電話を切ってしまう。


何度か掛け直すが雪ちゃんは電話に出てはくれなかった。

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本当は私です!!〜無能力者の兄が最強能力者だと勘違いされました〜 @doratam

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