第19話 いつかみた姿

やはりというか、予想していた通り私たちは影狼の脅威を残したまま、遊びに行くこととなった。


私の前を進む雪ちゃんは、お出かけが出来た事が嬉しのか、目をキラキラさせながら快兄にしがみついている。


雪ちゃんが握る手とは逆の腕で大きなクマを抱える快兄はだいぶ歩きずらそうにしながらも、久々の息抜きに楽しそうな様子。


流石に私サイズのくまのぬいぐるみを片手で抱えるのは辛いようで額からは大きな汗を流している。


手伝いませんからね、快兄?


これで、何もなければ私も楽しめるのだけど、そんな心持にはなれず二人とは対照的に私の足取りは重かった。


「なぁ、雪ちゃん何処に行くつもりなんだ?」


そんな快兄の問いに上目になって雪ちゃんは答える。


「うーん、ボク快晴お兄さんと出かけられるだけで嬉しいから、あんまり考えてなかったなぁ。快晴お兄さんは何処か行きたいところある?」


「そうだなぁ。久々の息抜きだけど夜も近いしそんな長くは遊べないからな。

ってなるとカラオケなんかは厳しいだろうし、ゲーセンでも行くか?」


「ゲーセンってゲームセンター?ボク行ったことないかも。行こう行こう!!」


「まぁ今はわざわざゲーセンに行かない子も多いのかもなぁ。雪ちゃんがいいならそうしようか?秋晴もそれでいいか?」


くるりと私に振り替える。


ここで私が拒否しても先ほどと同じ様な事が起こるだけだろう。


私はそれに同意するしかなかった。


「うん、私は何処でもいいよ。でもご飯の準備もしなくちゃいけないし、あんまり遅くならないようにしないとね。」


「あぁ、そうだな。付き合わせて悪いけど、どうせだから秋晴も楽しもうぜ。」


私の元気がない様子に気づいていたのか快兄はさりげなく私を気遣ってくれる。


その優しさはありがたいのだけど、そのせいで雪ちゃんがこの状態になっている事を考えれば大手を振って喜べるものじゃない。


「じゃあ、早くゲームセンターに行こうよ。」


雪ちゃんがぐいぐいと快兄の手を引っ張り、先へ先へと促す。


その後を微笑ましく見ながら付いていく快兄に私もしょうがなくついていくのだった。


久々に足を踏み入れたゲームセンターに人はまばらだ。


ゲームセンター離れと言う話をテレビで見たけれど本当の事のようある。


私も最後に遊びに来たのは中学の卒業式の後プリクラをとったのが最後で、それ以来となるのだから、私と同じような人が多いのかもしれない。


雪ちゃんは、はじめて入るその店内を楽しそうに眺めている。


客は少ないとはいえ、店内には大型の筐体のゲームが所狭しとならんでいるのだから、初見ならばいろいろと目を引かれるのだろう。


「快晴お兄さん、なんだか凄い所だね!!」


そう言いながら快兄を見上げる雪ちゃんは容姿と相まって非常に可愛らしい。


これで快兄に対する執着が無ければ私も素直にその姿を見られるのだけど。


「ああ、雪ちゃんは初めてだって言っていたもんな。」


「うん!!何だか色々あって何から遊べばいいか迷っちゃうね!快晴お兄さんはいつもどんなゲームをしているの?」


「そうだなぁ。友達と来るときは格ゲーだったりかなぁ。でも雪ちゃんは初めてなんだし格ゲーは難しいかもな。音ゲーなんかが自分で体感できて楽しいんじゃないかな。」


「音ゲー??」


「あぁ、ほらあそこでやっているみたいな奴だよ。」


快兄が指さした先では、テクノの調の音楽に合わせて必死で両手を動かす若い男の姿。


よくわからいけれど、とても難しそうな曲を演奏しているみたいだ。


「あれ??なんかすごく難しそうに見えるけどボクあんなの出来るかなぁ?」


視線の先の姿を見て雪ちゃんは自信なさげにそう呟いた。


「いや、あの人がやっているのはすごく難しい曲だしな。けど、ああいう風に音楽に合わせてリズムを合わせるゲームが音ゲーって言うんだ。それにあの筐体だけじゃなくて他にも色々あるし、きっと雪ちゃんも知っている様な曲もあるさ。」


そういうと快兄は雪ちゃんの手を引く。


最近できなかったゲーセンでの遊びにテンションが上がっているのかも知れない。


快兄が雪ちゃんを案内した先は和太鼓をモチーフにした昔からあるゲーム機。


「なんだかこれはさっき男の人がやっていたのとはだいぶ違うね。」


「ああ、これはこのバチを使って太鼓を叩くゲームなんだ。さっきの奴はボタンをタッチするゲームだからだいぶ違うかもな。」


そういって筐体につながっているバチを雪ちゃんに手渡した。


それから選曲を終え二人はゲームをプレイし始めた。


二人の後ろ姿を私が見ていると、通りかかる別のお客さんも足を止めその姿を眺める。


ゴスロリ姿の少女に高身長の男だ。


珍しいだろうし、気になるのも分かる。


そう思えば今になって気づいてしまった。


このゲームセンターは私の通う学校からそう遠くはない。


同じ学校の子に見られたらどうしよう。


「朝日さん、昨日ゲーセンいたよね?ゴスロリの女の子連れて。黙って欲しかったらわかるよね?」


そんな風に私にいやらしい脅しを仕掛けてくる輩が出てこないとも限らない。


連日告白されている程可愛い私なのだ。


卑劣な手を使って、この身を狙う者もいるに違いない。 


汚らわしい!!


周りを見渡せば同じ制服の者はいない。


けれど気を抜くわけにはいかない。


自分の身を守るために一層気を引き締めていかなければ。


「始めてやってみたけどこのゲーム面白かったよ!!快晴お兄さん!」


一通りプレイを終えた二人がこちらに近寄ってくる。


お互いの腕を取り合いながらこちらに近づいてくるその姿を周りにいたギャラリーは白い目で見ているが、快兄も雪ちゃんも気づいても気にしてもいない様子。


あぁ、私もこの一団に見られるのかと思えばその場を去ってしまいたくもなるけど、そうするわけにもいかない。


「おう秋晴見てたか?雪ちゃんなかなかうまっただろ?」


「うん、始めてなのに雪ちゃん凄かったね!」


そう彼女を褒めれば、珍しく私にも笑顔を見せてくれた。


その後も二人は色々な音楽ゲーム機に手を付けていく。


楽しそうに遊ぶ姿は、微笑ましいものがあるが、もう私は騙されたりしない。


家に監視カメラまで仕掛けるコイツに心を許す事など出来る訳がないのだ。


後ろで二人の姿を見ていた私に快兄が近づいてくる。


「秋晴は見ているだけでいいのか?それだけじゃつまらないだろう?」


ただ付き添っているだけの私が気にかかるようだ。


確かにどうせなら私も気晴らしをするのもいいのかもしれない。


いちゃいちゃとくっつく二人の姿はもう見飽きてしまった。


「うん、ありがとう快兄。そうだね、せっかくだから私も久々にUFOキャッチャーでもやってみようかな。」


そう返事を返す私の言葉に快兄は笑顔を浮かべた。


「UFOキャッチャーか。俺はいいけど本当にいいのかぁ?秋晴は下手だからなぁ。子供の頃全然取れなくて俺に泣きついてきたじゃないか。快兄とってぇ、快兄とってぇ、ってさ。少しは上手になったのか?」


「それは子供の頃の話でしょう!?今なら快兄に頼らなくても一つくらいなら取れます!」


私は少しだけ恥ずかしくなりその場から離れるように、

UFOキャッチャーの元へ向かう。


後ろからは、

「お手並みご拝見。」


と楽しそうな快兄の言葉。


見てろよ!昔の私とは違うんだから!と意気込んで、キャラクター者の人形を狙った私だったが、結果は散々なものとなった。


素晴らしい貯金箱だ。みるみるうちに財布からお金がなっていく。


肩を落とし快兄の元に向かえばそんな私の頭をポンと撫でて、まぁ待ってろよ一言残し、私が苦い思いをしたそのUFOキャッチャーへ向かう。


「ほれ、なかなか簡単だったぞ?秋晴はやっぱり下手くそだな。次からUFOキャッチャーで欲しいものあったら俺に言えよ。」


と手の上に私が取れなかった人形をのせてくる。


自分がとれなかった悔しさもあった。


けれど快兄のその姿はいつかみた子供の頃と同じで私は心のなかが少し暖かくなるのを感じた。

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