第18話 貴方の姿を見つめてる
訓練を終えて家に帰ってきた私達だが、そこいつもの我が家とは違って見えた。
自分の家に監視カメラがあると分かっていて、リラックス出来る訳が無い。
カメラを見つけて処分したり、挙動不審な態度をとって私がカメラに気づいている事が雪ちゃんにばれてしまったら彼女はどんな行動にでるだろうか?
私に対してだけ危害が加わるならばまだいい。
けれどあの心の内だ。
快兄に対してどんな行動に出るのか予測もつかない。
今はこのまま過ごすしかない。
そう思うと自宅だというのに酷く気が重くなる。
帰りの道中で雪ちゃんに対する態度を改めろと快兄に散々注意したが、
「あぁ、気を付けるようにするよ。」
だけの一言。
絶対に気にしてない。
私がこんな思いをしているのに、快兄はかわいい妹分が出来たと喜んでいるのかも知れない。
快兄には妹分じゃなくて、非の打ち所がない私というかわいいすぎる妹がいるのだから、ホイホイと年下に手を出すのは本当にやめていただきたい。
訓練が始まってからと言うもの、ママがいない場合は私がご飯の準備をしている。
本当に申し訳ない事だけど、快兄は毎日無駄な訓練に汗をながしているのだから、少しでも償いになればと、家事全般は私が行うようにしていた。
快兄には先にシャワーを浴びるように促して、その間に力をつかって家の中を透視する。
透視は昔から使っていたお気に入りだったりする。
誰にもバレる事もないし使い道だっていっぱいあった。
お昼の弁当の中身をこっそり覗いたり、良くない事だけど、たまにお菓子の当たりをいただいたりするのだ。
使い慣れるまではとんでもないところまで透視してしまい、見たくもないものを見て頭を痛めたが、今ではそんな事はない。
自由自在なのだ。
範囲だってこの家の中くらいならば思い通り。
まさかガリガリ君の当たり棒を引きたいが為に作ったこの力がこんな事に使うようになるだなんて、小学生の私は想像もしていなかっただろう。
時間をかけて一部屋ずつ家の中の監視カメラを探していく。
リビングのテレビの裏。玄関の扉の真上。快兄の部屋のクローゼット。快兄のベッド脇。快兄の勉強机の上。脱衣所。洗面所。浴室。
あの小娘どれだけ仕込んでいったんだ!
トイレに無かったのだけは救いだけど、快兄の部屋以外に合ったものは私が生活する上でも使う場所ばかりで、雪ちゃんは私の姿に興味など無いだろうが、それでも気持ち悪さに背筋がぞっとした。
不安と共に気が重くなっていく。
「おー、今日はカレーかぁ。」
雪ちゃんにも私にも入浴を覗かれていた快兄に何かに気づいたような素振りはない。
私の能力は勿論、雪ちゃんの仕込んだ監視カメラは浴室のランプに隠れている。
気づく訳もないだろう。
私も雪ちゃんの心を読んでいなかったら気づいていない。
ごめんね快兄。伝える事も出来なくて。
でも、お風呂の中で両手ひろげて、『はーーっ!』とやってる姿は私も見たくなかったよ。
そんな色んな意味であられもない姿を見られた快兄は、幸せそうな顔をしながらカレーを口にしている。
監視カメラなどなければ、幸せないつもの我が家の風景なのに。
「なんか今日のカレー上手いな。秋晴いつもと何か違う?」
「うん、レシピみてたらインスタントコーヒー入れるとコクが出るって書いてあったから試してみたの。」
「へぇ。カレーにコーヒーって合わなさそうだけど隠し味にはいいんだなぁ。」
いつもと同じ家族の食事風景。
だけどこれを雪ちゃんが見て、聞いている。
気持ち悪くてしょうがなかった。
事態を早く解決に向かわせなければ。
影狼のことさえ解決してしまえば、夕太刀の力を借りる必要もなくなって、雪ちゃんに訓練を付けてもらう必要もない。
距離が出来れば、雪ちゃんの動きも落ち着くのではないか。
この時の私はそんな甘い考えをしていた。
それが間違いだと気づくのはそう遠いことではなかった。
☆
監視されながら生活をはじめて一週間が経った。
訓練につきそう雪ちゃんは変わった素振りを見せず、私が監視カメラに気づいているとは思っていないようだ。
あれから霜花さんが顔を出すこともなく、一度連絡をとって見たけれど
「影狼はあれ以来現れていません。まだお話できることが無いのです。」
と電話越しに申し訳なさそうに謝っていた。
夕太刀も目に見える動きが無く困っているのかもしれない。
私たちが生活している上でも雪ちゃんの事以外で変わった事は無く、普段と変わらない日々を過ごしていた。
「快晴お兄さん今日帰りに少しだけ寄り道していかない?」
雪ちゃんは快兄の腕に抱きつきながら甘えている。
「うーん。霜花さんもいないし、変に動き回るのは良くないと思うぞ。この一週間影狼が現れなかって言っても、前も気を抜いた時に現れたわけだし。」
良かった、快兄は乗り気ではないようだ。
ここで喜んで遊びに行くようなら危機感が無さすぎる。
「えーー、大丈夫だと思うけどなぁ。GPSもあるし。それにこのまま生活してなんの動きもないままだと解決もしないんじゃない?」
「まぁ、それはそうかもしれないけどなぁ。」
「不安なら霜花には連絡を入れておいてもいいし。ボクも今日は一番大きなクマを持ってきているからね!」
と部屋の片隅を指さした。
そこには以前雪ちゃんが言っていたように、私と同じくらいのサイズのクマのぬいぐるみが、でんと置いてある。
確かに大きいし強そうではある。
以前のミドルサイズのクマでさえ、傷を与えることはできなかったものの大きな影狼を吹き飛ばす力はもっていたのだ。
これならば、並大抵の影狼ならば簡単に倒してしまえるのかも知れないと思えた。
それは快兄も同じようで
「うーん、そこまで準備してくれている無下には出来ないかなぁ。」
と遊びに行くことに前向きになっているようだ。
いや、快兄そこは譲っちゃダメだよ!
「二人とも本気で遊びにいくつもり?事態が動かなくちゃ解決しないって話も理解できない訳じゃないけど、自分から影狼をおびき寄せるようなことはおかしいよ!」
私は声を大きくしながらそう言うが、
「不安なら秋晴お姉さんは付いてこなくても良いよ。お姉さんは御光を持っていないから一人でも襲われないかもしれないしね。」
雪ちゃんには伝わらないようで、彼女は冷たい瞳で私に言葉を返した。
雪ちゃんからすればそうなのかも知れない。
私がいなくなれば二人っきりでデート出来るのだから付いて来ないならばそのほうがありがたいのだろう。
分かっていたことだけれど、雪ちゃんを説得することは無理そうで、助けを求めるように快兄を見れば
「いや、流石に秋晴を一人には出来ない。秋晴が付いてこないなら遊びに行くのは辞めておこう。」
と雪ちゃんの言葉を良しとはしなかった。
信じてたよ快兄!!
雪ちゃんは快兄が私の味方をするとは思っていなかったのかもしれない。
私を味方する言葉を聞いた彼女は
「なんで??快晴おにいさん、なんで??」
と快兄に詰め寄る。
「なんで??ボクよりこの女のほうが大事なの?ボクの言葉は聞いてくれないの?
ボクと遊びにいくのは嫌?この女がいるせいなの?ねぇ、なんでなの!?」
いつもと様子の違う雪ちゃんに快兄は驚いている様子だ。
快兄も雪ちゃんが危険かもしれないとようやく気付いたか?
けれど私のそんな淡い期待は儚く消え、
「雪ちゃんちょっと落ち着いてくれ!どっちが大事とかじゃないんだ。ただ何も解決していないのに遊びに行くなら全員じゃないと危険だと思ったんだよ。君が大事じゃないなんて言うわけないじゃないか。」
と快兄は雪ちゃんの視線まで腰を下ろしその瞳を見つめながら頭をなでた。
すこしの間頭を撫でられたまま反応しなかった雪ちゃんは
「ごめんな。ゆきちゃんも気晴らしをしてくれようと折角クマまで持ってきてくれたんだもんな。もう少し雪ちゃんの気持ちも考えるべきだったよ。」
と頭を下げる快兄を見て、
「ううん。ボクこそごめんなさい。なんだか凄くさみしくなっちゃって」
と首筋に抱き着いた。
そんな雪ちゃんを抱きしめ返す快兄。
私は何度か見たその姿を視界に入れながら、これは済し崩しで遊びに行くことになるな、とため息をこぼすのだった。
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