第17話 ドロドロ
説明を終えた霜花さんは、今日は時間があるようで、珍しく快兄の訓練の様子を見ていくようだった。
影狼に快兄が力を使ったと勘違いされて昨日の今日である、何か変化があるのでは無いか?と思っているのかもしれない。
ごめんなさい、快兄に変化ありません。
主人公みたいな態度はどんどん大きくなってるけど。
「快晴さん、どうですの?何か変化はございまして?」
快兄は首を横に振りながら霜花さんへ答える。
「いや、やっぱり自分の中の力は分からないな。雪ちゃんが手伝ってくれている時は、丹田に熱を感じる事が出来るんだけど。」
誰かに触られてたら、そりゃ多少温かくなるだろ。などとは私以外の3人は考えないようで、
「そうですか、昨日力が使えた事で何か変わるかと思いましたのに、少し残念ですわね。」
「そんな、何事も簡単にはいかないって事なのかもしれないな。少しづつ頑張っていくよ。」
と笑う快兄のお腹を撫で回す雪ちゃん。
その顔はうっとりしていて、いささかその容姿には不釣り合いな物。
今日ならば霜花さんも居るし、夕太刀から預かったGPSもらある。
昨日の今日で影狼も出てこないんじゃないのか。
そう考えた私は、朝思っていた様に雪ちゃんに読心術を試みる事にした。
頭も痛くなるし、正直何を考えているのか知るのも怖い。
けれど、このまま放っておくよりかは多少でも何を考えているのか把握しておいた方が良い様に思えた。
力を溜め、空を飛ぶためのそれと同じように、雪ちゃんの全身を力で包んで、彼女の声を聞く様に集中する。
頭の痛みと共に彼女の言葉が頭に響く。
『あぁーー。快晴お兄さんいい匂いだよぉ。何でこんないい匂いするの?ボクの為のフェロモンでも出してるの?
ちょっと!霜花の事見すぎだよ!!彼女であるボクの事放って置いて他の女の事見るなんて快晴お兄さんはしょうがないなぁ。
悪いのは快晴お兄さんじゃないもんね?誘惑しようとする雌豚が悪いんだもんね。人の彼氏に色目使うなんて霜花見損なったよ。今は影狼の事があるから、我慢してやるけど、後で覚えておきなよ?』
相変わらずのそのドロドロした内心に私は頭痛をやわらげる様こめかみを揉む。
愛し合う二人とは以前読心していた時も言っていたが、彼女の中ではいつ間にか二人はお付き合いを始めているらしい。
釘を刺したのにも関わらず止まらない快兄のスキンシップのせいだろう。
自分からだけではなく、相手からも触れてくるのだ。
歯止めなど効くわけがない。
『それにしても、やっぱり昨日の快晴お兄さん格好良かったなぁ。ボクの為に危険な目に合うのも厭わないなんてボクの事愛してるからだよね?愛してなきゃあんな事出来ないもんね?ボクも愛してるよ。快晴お兄さんの為ならどんな事も出来ちゃうからね。・・・さっきから、秋晴お姉さんずっとこっち見てるけど何だろう?いつもならスマホ弄ったりしてるのに。』
ヤバい。いつもと様子が違い過ぎたかな?
でもここで急に態度を変えてもおかしい気がするし、雪ちゃんが私に心を読まれてるなんて思わないだろう。
このまま続行する。
『昨日からボク達の事邪魔してくるしさぁ。快晴お兄さんがボクに取られた見たいで寂しいのかな?嫌だね小姑は。自分を愛してくれる人が居ないからって邪魔しないでほしいよ。早くお兄さんと二人きりで過ごしたいよ。ボクがずーっと面倒みて上げるからね?あんな小姑に付きまとわれたら快晴お兄さんも嫌でしょ?二人っきりが良いよね?
』
私の中で何かがプツリと切れる音がした。
こいつ、心の中だと思って好き放題言ってくれてんじゃねぇか。
寂しい?そりゃ将来、快兄が結婚したらそうなるかもしれない。けどお前みたなゴスロリ、姉なんかにしてたまるか!
それに、愛してくれる人がいない?この私が!?
超絶可愛くて、スタイルも良くて、お淑やかで、性格も良い私だぞ!?引く手数多だぞ!!
今月だけで私が何回告白されてると思ってるんだ!
・・・、・・・。いや、落ち着け、落ち着け私。汚い言葉なんて心の中でも思っちゃダメ。可愛い私が汚れちゃう。
深呼吸よ、深呼吸。そう、落ち着けばあんな、快兄のお眼鏡に叶わない、ゴスロリ娘の言葉なんて気にならない筈よ。
その間にも彼女の言葉は頭に響く。
『昨日の夜だって、二人きりで過ごせる所を邪魔してくるしさ。快晴お兄さんだって、あの小姑の邪魔が無かったら二人でベットに入りたかったよね?ボク達彼氏と彼女だもん、おかしい事なんて無いしね。あぁー、本当快晴お兄さんの妹じゃなけりゃぐちゃぐちゃにしてやりたいよ。いや、しないよ?快晴お兄さん悲しんじゃうもんね。だからしないよ?あぁ、でもそうしてボクが支えて上げるってのも悪くないなぁ。いや、でも悲しむ顔は見たくないしなぁ。いいや、あんな奴は。早く二人で暮らす様にすればいいだけだもんね?』
どんどんとエスカレートしていく、その思考。
快兄に怪文書を送ってきた女達もこんな風だったのかも知れない。
今は頭の中で考えてるだけだけれど、いつ行動に移すか分からない。
思ったよりも、不味い事になっている。
『今日もお泊りしたいけど、出来ないかなあ?寂しいなぁ。でも今日からは快晴お兄さんの顔が家でも観れるかね。少しはボクも我慢できるよ。』
私はその声に思わず、ソファから体を立ち上がらせてしまった。
そして、それと共に読心術は解けた。
どうやら、私の心が動揺し過ぎた事で力が不安定になったようだ。
かけ直そうとしてみるが、上手くいかない。
まだ動揺が続いているのか、力を使い過ぎたのかなのかは分からないけれど、今日はもう一度かけ直せそうになかった。
急にソファから立ち上がった私を皆訝しんだ目で見るが対して気にしてはいない様で、これ幸いと私は誤魔化すようにトイレへと向かった。
トイレの鍵を閉め、頭の中を整理する。
まだ読心術の影響かズキズキと頭の中は痛むけれど、さっき聞こえた声を放っては置けない。
雪ちゃんは『快兄の顔が家でも観れる』と言っていた。
GPSの事なら本部だけが把握する事だろうし、そもそも場所が分かるだけでそんな機能は無いだろう。
と思えば答えは一つ、アイツ私の家にカメラ仕掛けやがった。
一体いつ?彼女が一人で家の中を動き回っていたようには思えない。
私がお風呂に入っていた時?
いや、両親の部屋に私の部屋もある、快兄でも雪ちゃんが家の中を自由に探索するのは許さないだろう。
それにお風呂上がりの二人はお風呂に入る前と同じ様子でイチャイチャしながらテレビを見ていた。
あの様子の雪ちゃんが、快兄とスキンシップを取れるタイミングでその場を離れるとも思えない。
・・・御光か。クマを使ったのか。
私達に気づかれ無い様にクマを操るなんて余裕で出来ただろう。
トイレに行く時、私がお風呂に入っている時、寝ている時。どこのタイミングでも出来た筈だ。
やってくれた。彼女の心の中を読んだとバレる訳にもいないから、すぐにカメラを探して外す訳にも行かない。
今は雪ちゃんが快兄を監視するのを許容するしか無い。
あのクソ女が。
私は汚い言葉吐く自分を止める事が出来なかった。
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