第16話 狼は爪を研ぐ 2
誰かが私たちを狙っているとしてそれはどんな理由なんだろう?私の力が関係しているのか?
私が人前で力を使ったのはあの『約束』をしたお姉さんの前が最後だ。
力が理由なのだとしたら、その存在を知っているお姉さんが犯人なのか?
今更?子供の私ならばもっと容易に襲えたはずだ。
それにあのお姉さんが犯人なのだとしたら、私の力を封印するような力をもっているのだ、こんな回りくどいことをする必要があるのか?
考えても考えても答えは出ない。
影狼と出会ってから、答えの出ないことばかりを考えている気がする。
「確かに状況だけを考えれば俺たちが狙われたことは間違いなさそうだな。」
快兄が霜花さん言葉に答える。
「ええ。理由は分かりませんがそう考えるのが正しいでしょう。」
「霜花、そこまでわかってるなら、快晴お兄さんたちは本部で保護してもらったほうが良いんじゃないの?何時出るかもわからない影狼にずっと警戒しながら過ごせって言うの?」
「わたくしも本部に申し上げましたわ。けれど承諾は得られませんでした・・・。」
「なんでだよ!?理由は分からないとはいえ、どう考えても決定的な、影狼が出た時間って証拠もあるのに!」
「わたくしも機密だと、教えてもらえなかったのですわ。」
「どうなってるんだよ本部は!?」
私も雪ちゃんの言葉と同じく夕太刀の本部とやらに不信感を募らせていた。
快兄の身を守るために身を寄せたけれど、何を考えているの?
アジトを用意してくれるぐらいだから、気には掛けられていると思っていたけれどそうでも無いのだろうか。
「わたくしが思うに本部はあなた達を囮と考えているのでは無いかと思いますわ。」
「囮だって!?」
「ええあくまでわたくしの想像ですが、本部にも呼ばず保護もしない。あえて、快晴さん達を矢面に立たせて影狼をおびき寄せて事態を解決に導こうと思っているものがいるのではないかと思っております。」
「・・・そりゃ確か本部に保護されちゃったら相手も動きずらくなるのかもしれないけどさぁ。」
その会話に快兄が割り込む。
「ちょっと待ってくれ。それはあくまで霜花さんの想像で本当の理由じゃないんだろう?」
「ええ、そうですが?」
「ならここからはその事は話さなくても大丈夫だ。俺たちはこのアジトも力についての指導も今は夕太刀の支えで何とかしてもらっている。下手に本部を疑うようにはなりたくない。」
快兄の言葉に霜花さんは考えるように黙り込むと、暫くして口を開いた、
「・・・そうかもしれませんわんね。ごめんなさい変な憶測を語ってしまって。けれどそう考えられる状況だということだけは理解しておいて下さいませ。」
快兄は大きくうなずいた。
「霜花さんが俺たちの為に色々と考えてくれていることは分かっているんだ。けれど、どちらにせよ本部にいけないならその事よりもこれからの事を相談したいんだ。」
霜花さんも快兄に頷き返す。
「秋晴もごめんな。気になるだろうだけど、ここは俺の意見を聞いてくれないか?」
ここにいる誰よりも本部に近いのは霜花さんだ。
彼女の憶測を聞くことで何か分かる事もあるだろう。
けれど私を見る快兄は、譲る様子にも見えず私は渋々了承した。
「確かに気にならないといえば嘘になるけど、しょうがないね。快兄が言っている事も分かるし。けど霜花さんもし何か分かったことがあれば必ず教えて下さい。」
霜花さんは、約束いたしますわ。と私の目を真剣な表情で見つめそう返してくれた。
「まぁボクも快晴お兄さんがそういうなら、この話はここでやめておくよ。けど、それならどうする?快晴お兄さん達には何の対策もせず過ごしてもらうしかないの?」
「いえ、本部も多少は考えているようですわ。」
これを、と私たちの前に小さく黒い機械を取り出した。
「これは何ですか?」
「本部から渡されたGPSですわ。流石に貴方たちが無関係とは思っていないようで、いつでも場所を把握できるようにする為にと持たされました。」
「そんな物渡すならボクも持っている携帯渡せばいいのに!」
「一応本部からの配慮ですわ。夕太刀から支給される携帯ではどんな連絡を取っているかなども直ぐに調べる事もできますので。お二方はあくまで協力者。プライベートの詮索をしないと伝えたいようですわね。」
「えっ!?ボクそんなの知らないんだけど。」
少し呆れたように霜花さんは息を吐き、雪ちゃんの顔を見る。
「綿雪、この話は携帯を支給される時に必ずされますわよ?GPSの時もそうでしたがあなた聞き流していたでしょう?」
「・・・そんな事ないよ?」
はぁ、と頭を揉む仕草を見せる。
「まぁ綿雪の事はいいですわ。というわけであなた達にはこれを持って生活していただきたいのです。プライベートを知られたくないとは思いますが、身を守る為だと思って了承して頂けませんか?」
確かに不信感は募る本部とやらに私達の所在地を知られる事に抵抗はあるけど、それよりもいつ現れるかわからない影狼の事を考えれば、この提案は受けるしかないだろう。
快兄もそれは同じようで、
「分かった。これは持ち歩く様にしよう。だけど、秋晴は女の子だ。影狼への対策以外の事に使わない事は約束して欲しい。」
そうだ。可愛い私が本部に居るであろう、オヤジ達に監視されるのだ。そのオヤジ達が私を見て、どんな卑猥な妄想をしているのかなんて、想像もしたくない。汚らわしい!
「その懸念も分かりますわ。十分、本部には伝えておきますわ。」
その言葉に私と快兄はそのGPSをしまう。
その様子をみてありがとうございます。と再度霜花さんは頭を下げた。
「一先ず、これで昨日から知り得た情報と対策は以上ですわ。
まだ、夕太刀に所属もしていないお二方に負担をかけるのは申し訳ないのですが、どうかご協力お願いしますわ。」
「あぁ、俺たち達も霜花さんと雪ちゃんにはお世話になっているからな。それに事態を解決させたいのは一緒だ。強力していかなきゃダメなのは分かってるさ。」
「私も位置を知られてる事に抵抗はあるけれど、必要な事だと理解しています。霜花さんこれからもお願いします。」
立ち上がった兄と霜花さんが手を握る姿を見ながら私がそういえば、雪ちゃんは
「ボクだって、快晴お兄さんを守るんだから!ずっと付いているんだから!」
と快兄の腰に飛び付いた。空いた手で雪ちゃん頭をいつも通り撫でる。
綺麗なお姉さんと握手を交わしながら少女に抱きつかれる快兄の姿は、深夜アニメでこんなカットを見たことあるなぁと、私は呆れてしまった。
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