第9話 ヒーローポイント
それまで黙って話を聞いていた快兄が口を開いた。
「なんとなくだけど、二人のいる夕太刀って組織の事は分かった。影狼から色んな人を守っているって事だろう?」
「まぁ、酷くざっくり言うとそういう事ですわ。繰り返し何度も言うようですが影狼については詳しくは分かっておりませんの。今までは全国広い場所でバラバラに出現しており、その出現に大した特徴も得られませんでしたわ。」
「今まで?」
快兄の言葉に、大きく頷き言葉を続ける、
「ええ。今でも広い場所で影狼が出ている事に違いはありませんが、変化がありましたの。今年に入り、この街に出現した影狼の出現は10件を超えました。他の地域で影狼が連続して出現した事が全く無かったわけではありませんが、それでも2、3件程度の事。今年に入ってからのこの街での発現数異常ですわ。」
そう説明する霜花さんの目は真剣な色で染まっていた。
「ここからが昨夜、貴方達を引き止めた事に関係致します。昨夜、影狼は御光持ちを狙い易いと説明しましたわね?」
私と快兄は首を縦に触る。
「10件を超えるという数をとっても異常ですが、この全ての出現で影狼は一般人のみを狙っていますの。変わって御光持ちの被害は0です。私達はこの事から今回の連続出現は何者かが意図的に影狼を操り、一般人のみに狙いを絞っているのではないかと考えていたのですが、昨日貴方が狙われました。」
「唯一の例外である俺を怪しんだって事か。」
「怪しんだというのは言葉が悪いですわ。被害に合われた貴方達が直接影狼の出現に関わったとは思っておりません。ですが唯一の御光持ちの被害ですもの、何か手がかりになるのでは無いかとは考えております。」
霜花さんの説明は淀みなく、話を作っているような素ぶりにも見えなかった。
目の前で影狼なんてものを見ているわけだから今更なんだけど私は昨夜からパラレルワールドにでも移動してしまったのではないか?なんて考えも頭に浮かんでくる。
不思議な力を持っていた私が言うのも何なのだが、秘密の組織に能力者に謎の怪物。
目の前で被害に合わなければこんな話を聞かされれば、中二病お疲れさまですと関わり合いにならないようにしていただろう。
でも、信じがたいけれどこれは現実の事なのだ。
「御二方にお聞きします。昨日、普段と何か違う事はありませんでしたか?もしくは影狼に狙われる心あたりなどありませんか?」
霜花さんの言葉に私は考える。
昨日それに繋がるような事はあっただろうか、運が悪い一日ではあったけどそれと思い当たる事もない。
狙われた心あたりでいえば私のこの力が考えられるが、誰かの前で使ったというわけでもなく〔多分使えないのだろうけど〕、誰かに気づかれたとも思えない。
「俺にその心あたりはないな。特にこれといった事もない普通の一日だったし、あんな化け物に心あたりなんてない。」
「私も同じです。特に思い当たる事もありません。」
私達の言葉にそうですのと霜花さんは目を伏せる。何か手がかりが掴めるのではないかという考えが外されて、残念な様子を見せていた。
何かを考える様にこめかみを叩いて霜花さんは口を開く、
「分からないことはしょうがないですわね。ご協力ありがとうございます。」
そう頭を下げる霜花さんに続けその様子を見た雪ちゃんも私達に頭を下げた。
仕方ないさと快兄は頭を横に振り、霜花さんに質問を返した。
「影狼についても夕太刀についても分かったけど、俺の御光についても教えてくれないか?昨日あんなものに襲われるまで、俺にこんな力があるなんて知らなかったんだ。」
快兄の言葉に二人は顔を上げ、雪ちゃんは笑顔をみせながら
「ボクはその場にいなかったけど、快晴お兄さんの力で山ごと影狼をぶっとばしちゃったんでしょう?」
と少し楽しそうに言う。
「あぁ、俺にも正直よく分かってないけどアイツを殴ったと思ったら、山も影狼も姿を消していたんだ。」
「すごいね、快晴お兄さん!山ごと吹き飛ばしちゃうなんて、もの凄く強い力を持ってるんだよ!」
「そうなのか?」
「ええ、山ごと何かを吹き飛ばせるほどの御光はわたくしも見たことがありません。夕太刀の中で一番戦闘に長けたものでも大きな岩を割るくらいがせいぜいでしょう。」
「そうだよ!ボクもそんな話聞いた事なかったし!」
兄は照れくさそうに頬をかきながら、なんだか嬉しそうな様子だ。
自分の中に秘められた力が凄い物だというシチュエーションにはたまらないものもあるのだろう。
でも、快兄やったのは私だからね?
それにしても夕太刀という組織はそんなに力を持った御光使いがいないのだろうか?
岩を割るくらいなら、大した力を込めずとも出来ると思えた。
海を割るよりは簡単だろうし。
とは言っても、岩を割るなんて事できても普通に過ごす上で全く意味ないし、力の発散にもならないないからやろうとも思わないけど。
照れた様子を見せる快兄に微笑ましい顔を少しだけ見せた霜花さんは、真面目な表情に作り変え言葉を続けた。
「快晴さん、力が強いという事は悪い事ではありませんが、制御できなければそれだけ危ないという事でもあますの。昨日使った力は自由に使えそうですの?」
その言葉に照れくさそうな表情を消し、首を横に振って快兄は自分の手を見つめながらいう。
「昨日どうやって、あの力が使えたの分からないんだ。あれから自分の中で何か変わった様子もない。霜花さんに言われて改めて気づいたよ。自分の中にある力が自分で操作出来ない。暴発して、街中で山を消し飛ばしたのとおなじ事が起きればとんでもない被害も出るだろう。これは凄く怖いな・・・。霜花さん、この力は制御出来るようになるのか?」
そう言う快兄の言葉は昨日に引き続きなかなかの主人公っぷりを見せていた。
自分の力に苦悩する主人公。なかなかの主人公ムーブです。
ヒーローポイントポイント20点。
100点溜めたら何かご褒美をあげよう。
真剣な姿を見せる快兄に反して私は馬鹿みたいな事を考えてしまった。
真剣に考えても暴発する力なんて快兄にはないから大丈夫なんだけど。
快兄が私の身代わりにこんな場にいるのは申し訳なく思う気持ちも勿論あるけど、なんだか少し可笑しく感じってしまう。
「ええ、きちんと訓練すれば自由に使えるようになるとは思いますわ。わたくし達もみんなそうして御光を使いこなしておりますので。」
「うん!ボクもすっごく練習したんだよ。快晴お兄さんも出来るようになるはずだから頑張ろうよ!」
「ありがとう雪ちゃん、俺も頑張らなきゃな。」
「そこで、力の指導したいという事もありますし、いまだに狙われた原因が分かっていない事もあります。夕太刀に所属しろとまではいいませんが、快晴さん。しばらく私達の保護下に入っていただけませんか?」
その言葉は私としても今はありがたく感じられた。
快兄に訓練に意味なんてないからそれは置いておいて、保護下に入ることには賛成だ。
恐らく快兄ではなく私が狙われたのだろうけど、本当の所は分からないまま。快兄に何が無いとも言い切れないし。
まだ、霜花さん達の事を信じきる事が出来るわけではないけど偶発的に影狼に襲われるよりも対処はしやすい。
快兄も私と同じ考えなのか、
「俺はこの力を使いこなせるようになりたい。夕太刀が教えてくれるならそれに頼ろうと思う。」
と霜花さんと雪ちゃんの顔を見る。
「そういってもらえて嬉しいですわ。秋晴さんも御光を持っていないとはいえ、快晴さんの双子の兄弟。狙われる可能性が残っております。あなたの事もわたくし達がしっかりお守りますので安心して下さいませ。」
そう言った霜花さんと快兄はつよく握手を交わした。
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