第4話 そして彼女は語る

快兄の視線に気付いてるのか、気付いていないのか、女は腕を組み胸を押し上げ、快兄を見つめ返す。


「よく分からない力で、山ごと化け物を吹き飛ばしたと?貴方はそうおっしゃるのですか?」


「だからさっき、そう伝えただろう!?お前はアレが何か知っているのか?アイツは俺を狙ったのか?何か知っているなら教えてくれよ!」


私を庇いながら、女に詰め寄る兄に


「なるほど、なるほど。貴方が聞きたい事も分かりますわ。様子を見るに恐らく、嘘はついていないように見えますし、良いでしょう。わたくしも聞きたい事もありますし、詳しくご説明したいのだけれど、ここで長話も良くないでしょうし。場所を移しませんこと?」


と目を細め、口許は隠されているため分からないが微笑んでいる様子で快兄に言葉を返す。


これは、着いて行って良いものなのだろうか。


どう考えても怪しい。格好も言葉遣いも一般人のそれではない。


化け物が現れた場所に都合よく現れ、更に都合よく兄が〔私が〕化け物を吹き飛ばす瞬間を目撃している。


情報が欲しいのも確かだけど、この女があの化け物を嗾けた《けしかけた》可能性も充分にある。


背伸びをして兄の耳に小声で


「快兄、どうする?どう考えても怪しいし、このまま着いて行くのはマズイ気がするけど。」


と告げると、快兄も少しだけ悩んだ様子を見せたが、


「確かにめちゃくちゃ怪しいと俺も思う。でも、もしこいつが何かを知っているなら、おれはそれを知りたい。俺のこの『力』が何なのかも分からない、あの化け物も。

何も分からないままじゃ良くないと思うんだ。」


と拳を握りながら言う目を閉じてそう言う快兄は、もう完璧に物語の主人公に成りきっている様に見えた。


気持ちは分からないでもない。


突然襲いかかる化け物に目覚めた力、そこに現れた謎の女。何処かで見聞きしたことがあるファンタジー要素ばかりだもん。


こう、なんと言えばよいか分からないが、雰囲気に呑まれちゃうのも分からないでもないし、私が悪いのは承知の上なんだけど、そこまで入り込むとちょっとキツイよ快兄・・・。


「でも。この人が味方って訳でもないんだよ?あの化け物をこの人が操ってたかもしれないし、危険すぎるよ!」


「秋晴。不安が勝つならここから先は俺だけでも大丈夫だ。あんな事があったばかりだし、出来れば側にいたいけど、俺は・・・知りたいんだ。」


何故か、空を見つめながら語る快兄。


どうやら譲ってはくれないみたいだ。


不安は大いに残るが、快兄を一人で行かせるわけにもいかない。


実際の所、快兄に特別な『力』などないし、もしこの女があの化け物を嗾しかけたのだとしたら、快兄に抵抗など出来ないであろう。


「・・・分かった。それなら、私も付いて行く。快兄一人じゃ不安だし、一人で帰るのも怖い。それに、あれが何なのかは私も気になるし。」


「ごめんな、俺のわがままに付き合わせて。何かあれば俺が絶対にお前を守るから。」


と私の頭を撫でながら言う快兄に女が近づき


「話はつきまして?」


「あぁ。知りたい事が多すぎる。でも、もし秋晴に危害を加えようとするのなら、俺の『力』でお前を止める」


「ええ、結構でしてよ。わたくしは貴方達に危害を加える気などありませんもの。」


「そうであると願うよ。それで、場所を移すと言っていたけど何処に行くんだ?」


「そうですわね。人目につくのもよろしくありませんし、わたくしの車の中でお話ししましょう。着いていらして。」


と踵を返し、先へ進む女。確かにあまり人の目にはつきたくない。こんな痴女忍者と一緒にいる所を誰かに見られたくない。けれど、車か。完全に相手のテリトリーに入ることになる。本当に大丈夫なのだろうか?


「行こう、秋晴。何かあれば俺が守るから。」


と私の手を引き、先へと進む快兄。は足を止める様子もない。私が守らなきゃ。変に勘違いをさせたのは私だ。快兄だけは私が守る。




暫く女の後をついて行くと、[快兄はお尻を凝視していた。汚らわしい!]


「見えましたわ。あの車です。」


道の脇に一台の車が停まっている。

遠目に見ても重厚な佇まいで、銀色輝くその車はまごうことなく大型のトラックであった。


後ろに大きなコンテナを乗せ、近づけば首を持ち上げなければ目に収められない、それはまごうことなき大型のトラックである。


え、この車!?

金髪縦ロールでお嬢様口調だったら、ここは爺やとかが待ってるリムジンとかじゃないの!?


いやいや、訳わかんない格好してるし、そこまで期待はしてなかったけど、トラックはないでしょ!


快兄の顔を覗けば、驚いているような、期待を外されてショックを受けているような、なんとも言えない困り顔でその車を見上げている。


私が見えていないだけで、トラックの陰に隠れて別の車があるんじゃないだろうかという考えは、颯爽と鍵を開きトラックに乗り込む痴女忍者に打ち消された。


「どうぞ、お乗りになって。」


トラックに不釣り合いなお嬢様言葉で即された私達は、顔を見合わせて頷き、トラックに乗り込む。


私が思っていたより、トラックの中は広く、そして内装は煌びやかに輝いていた。


頭上にはシャンデリアのような灯りがつけられ、シートは黒の皮張り、シフトレバーの周りなどは落ち着いた木目のカバーで覆われ、全体的にシックな様相をしている。


お嬢様の邸宅のような内装だが、ここはトラックの中だ。

あまりにも不釣り合い過ぎて落ち着かない。


いやトラックの助手席に乗る事がはじめてなので、こういうものなのかも知れないけど。


女をチラリと見れば、目を細めながら


「いい内装をしているでしょう?わたくしのこだわりが詰まっていますの。」


と自慢気に語った後、行きましょう。と車のエンジンを掛けようとする。


「ちょっと待って。車は走らせないで。まだ貴方の事を信用した訳じゃないし、このまま何処に連れて行かれるか分からない。車の鍵はこちらに預けて下さい。」


私のその言葉に少し思案したように目を瞑り、暫くして、いいでしょう。と鍵をこちらに預けながら


「ただし、信用できそうだと思ったら鍵を返してくださる?長時間車を停めて、警察でも来たらわたくしこの格好では捕まりそうですもの。」


という女に、やばい格好の自覚あったのか、という驚きとともに私は頷いた。



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