第3話 現れたのは・・・

ポカンとした表情を浮かべながら手のひらをグーパーと開きながら、


「俺が、やったのか?」


「俺にこんな力があったのか?」


等と漫画の主人公の様な台詞を口にする快兄を見て、私は


『リアルでこういう言葉を耳するとなんだか笑えるなぁ』


なんて考えながらも、それとは別に必至に頭を働かせていた。


なんだか、よくわからない異形はわたしの『力』で消え去った事は良い物の、アレが一体何だったかは謎のままだし、『力』の余波で誰かの所有物であろう、山は崩れている。


どうしよう・・・。


幸い?にして快兄は自分の中の眠れる力でこの場を切り抜けたと考えてくれている様だ。


・・・これは、このまま快兄に勘違いしておいてもらえば良いのでは?


私は平穏にこの『力』を隠して生活していきたい。


たとえ快兄であれ、私にこんな山をも抉る力があるとバレてしまえばどんな目で見られるだろうか。


きっと優しい快兄は気にせず優しいままの快兄でいてくれるとは思う。


それでも、もし何か変わってしまったら、とも思う。


私は怖いのだ。何かが変わってしまう事が。


「秋晴!大丈夫か!?怪我はないか?」


先程まで、ブツブツと中二っぽい言葉をつぶやいていた快兄が私の肩を掴み、私を見つめる。


「どうした!?アイツに何かされたか?」


つまらない事を考えていた私を労わるように、身体に怪我が残ってないか、何かされていないか、不安げな表情で体を見つめている。


根拠なんてないけれど、快兄はきっと変わらないままでいてくれるかも知れない。


あんな訳の分からない化け物に襲われたのにも関わらず、私の身を案じてくれる快兄を見て、少しだけ安心した私は


「大丈夫。何にもされてないよ。怪我もしていない。快兄助けてくれてありがとう」


と笑いながら返事を返すことが出来ていた。


「そうか、無事ならそれでいいんだ。」


と微笑み快兄は言葉を続けた。


「それにしても、アレは何だったんだ?殴ったら消えてるし、山は吹き飛んでる。秋晴お前も見てたよな?俺が殴ったら、アイツも山も消えちゃう所。」


「う、うん。アレが何かはよく分からないけど、快兄が殴りかかったら消えちゃってる様にみえた。」


「そうか・・・。やっぱり俺がやったのか?俺にこんな不思議な力が・・・。」


またまた拳を見つめながらブツブツとささやく快兄を見て、もうこれは快兄の力で助けてもらった事にしても良いのでは?


隠したい私と、隠された力があってなんだか嬉しそうな快兄。


win-winじゃないこれ?


この先隠された力は出てこないけど、今だけは隠れ蓑にさせてもらおうかなぁ。


と、私が少し酷い事を考えてる隣では快兄の口から、眠りし我が力、などと痛い台詞が聞こえる。


しばらくブツブツと何かを呟いていた快兄は、ハッと顔を上げてまた私を見つめた。


「すまん、秋晴。これが俺がやった事なら、多分あの化け物は俺を狙ってやってきたんだと思う。俺のせいで怖い思いをさせてしまったみたいだ。」


と申し訳なさそうに私を見つめる。


「俺も今まで気づかなかったんだが、どうやら俺には不思議な力があるみたいだ。秋晴も見ただろ?あの時、秋晴を守ろなきゃと思って化け物に殴りかかったんだ。」


「う、うん、快兄が駆けつけてくれて嬉しかったよ。」


「そう言ってもらえて良かった。で、気付けば、化け物は消えて、山は抉れてる。正直俺にも何がなんだか分からないけど、状況から考えて、俺がやったとしか思えないんだ。本当に今までこんな事なかったし、あの化け物がなんなのかも分からないけど、アイツが俺に眠っていた力を狙ってきたんだとしたら、秋晴を巻き込んで、怖い思いをさせてしまった。本当にごめん。」


いやいやいや!本当にやめてほしい!

罪悪感で居た堪れなくなる!


化け物も山も消しとばしのは私の『力』だし、逆に考えれば、私の『力』を狙って化け物は襲いかかってきたと言う事になる。


ごめんなさい!ごめんなさい!


「快兄のせいなんかじゃないよ!あの化け物がなんなのかは正直よく分からないけど、快兄が来てくれなきゃ私は助かってないし、快兄のせいだなんて私これっぽっちも思ってないから!自分を責める必要なんてないよ!」


なんだか、安っぽい何処かのヒロインみたいな言葉が口から出てしまったが、快兄には本当に気にしないでもらいたい。


悪い事なんて一つもしていないのだから!


「そうか、ありがとう。俺もお前を守れて良かったよ。」


と笑いながら私の頭を撫でた快兄は、次いで私の手を取り、


「とりあえず、一旦この場を離れよう。またあの化け物みたいなのが現れないとも限らないし。」


と辺りを見回しながら私に伝える。


確かに、ここにこのままいるのは良くない。


初めて目の当たりにするあの化け物に、殆どの力を使ってしまい、今日はもうあまり『力』は使えそうにない。


また同じ様なものが出てきても次はどうなるか分からないのだ。


快兄の言葉に頷き、その場から駆け出そうとする私達の頭上から、


「ここから逃げるのは賛成ですが、少しだけお待ちになって下さる?」


聞きなれない声がかかる。


ハッと頭上を見上げれば、金色の髪を縦に巻いたお嬢様のような髪型をし、それでいて口許をマスクで覆い、全身をピチピチな真っ黒な衣装で纏う、言うなれば忍者のような姿をした女が、木の上に立ちながら私達を見つめていた。


痴女だ。こんな格好まともな人ならしない!


「貴方達に聞きたいことがございますの。出来れば大人しく私に付いてきていただけると有難いのだけれど?」


言うと、木から音もなく私達の目の前に降りてきた彼女は私達が言葉を返す前に、矢継ぎ早に語りかけてくる。


「不思議な化け物が出ませんでしたこと?何故かここから見える山は吹き飛んでみえるけど貴方達気づいていまして?いえいえ、誤魔化しは通じませんわ。貴方が化け物に殴りかかる瞬間を、わたくし目にしておりますの。素直に全てを語っていただきたいですわ。」


面白そうに、目を細め兄を見つめるその女の姿は近くで見て見ても、やはり忍者のコスプレをした痴女にしか見えない。


「あの化け物が何かなんて知らないけど、多分アイツと山をやったのは俺だ。正直実感なんてないけど、殴りかかったら全部こうなっていたんだ。あんたは一体誰なんだ?アイツが何なのか知ってるのか?知ってるなら教えてくれ!」


守るように、私の手をギュッと力強く握る快兄を見上げれば、真剣な顔をしてその女を見つめていた。


視線を、たわわな胸に向けながら。

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