第12話
Cap011
止まない雨が無いならば、終わらない仕事も存在しない。
何でも手慣れてくると、次は、何処までいけるかを求め出す。グラウンドを掘り返し続けた僕は、いつしか、それに夢中になり、休憩も取らずにユンボの操作レバーを握り続けていた。
良い感じに作業を続けていく。
いい加減、用を足したいが『このスジの端まで』と我慢して作業する内に、尿意が影を潜めると、僕はまた、次のスジに取り掛かった。その繰り返しを何回か繰り返す。すると、先にユンボが燃料切れで根を上げてしまった。そんな根性のない機械に、僕は苛立ちを覚えるのである。
こいつの燃料補給のついでに、僕も出す物を出し、入れる物を入れようと小屋に戻った。すると、博士はアトムを地下から地上に連れ出し、何やら飛行訓練を開始している。
「はい、ステー!いいよ、ステー。」
アトムは博士の言葉に、必死で足のジェットを操り、ホバリングしている。
「遊んでないで、少しは手伝ってくださいよ」
「何が遊んどるじゃ…そのまま〜。いい感じだよ〜!いけるよ〜。狙えるよ〜」
博士は僕の言葉に何も興味を示さない。
まぁ、それは想定内である。
「何を狙うんですか?」
「オリンピックの栄光の架け橋は、お前の物だよ〜」
必死にホバリングするアトムの前で、博士は、まるでミスターマリックのようにハンドパワーを放つ。
「…床、燃えてますよ」
「えっ?うわぁ、消火器、消火器!」
「えっ、博士、どこ行くんですか!?博士!博士ったら!」
目の前の危機に、博士は慌てて、隣の部屋へと走り去った。
そして、そのドタバタに、とうとうアトムもバランスを完全に失って、もうそれは“炎を撒き散らすミラーボール”のように、クルクルと宙を舞い、小屋に茂る“モヤシの森”に飛び込んでいった。
“プシュ〜!”
「危ないじゃないか!」
「博士が、やったんでしょうが!」
「あれ、アトムは?」
急ぎ持って来た消火器で炎を消し止めた博士が、そう言うと、アトムは“モヤシの森”からヒョコっと顔を出す。
「はい、ここ!」
僕は、大声を出す。
「何じゃい!急に大声出しおって」
無事、生還したアトムと抱擁する博士は、この事に全く気が付いていない。
「どうにか気付きません?…もう一度」
Replay
“プーシュ!”
「危ないじゃないか!」
「あんたが、やったんでしょうが!」
「あれ、アトムは?」
急ぎ持って来た消火器で炎を消し止めた博士が、そう言うと、アトムは“モヤシの森”からヒョコっと顔を出す。
Replay終わり
「次は、もう少し全体的に出力を抑えて…」
「ちゃんと見んかい!」
「だから、何が言いたいんじゃい!」
「“モヤシの森”って、なんじゃい!」
「“どうぶつの森”の新作だろうよ!」
「そんなもん売れるか!」
相変わらずの喧嘩漫才で、僕と博士は、息を荒がせながら、取っ組みあった。
「博士!飛雄さんも、やめてください!」
アトムは、そう言うと僕たちを無理矢理に引き剥がす。
そして、その勢いで僕たちは、各々、小屋の端まで逆方向に吹っ飛んだ。
「痛てててて」
「…本日の成果。喧嘩を仲裁する。パワーの制御は、課題」
博士は、吹っ飛んだ先から、メモをとるのに夢中である。
「あっ、ごめんなさい!」
「いや、大丈夫、大丈夫。で、誰が天馬飛雄やねん」
きっと博士に吹き込まれたのだろう。
心配し走り寄ってきたアトムに罪はない。悪いのは全て博士である。僕は立ち上がり、“モヤシの森”の一本をへし折って、その絶対悪に歩み寄った。
「何で知らない間に、こんなにモヤシが自生してんですか?しかも、こんな長く、太いモヤシが!」
僕が差し出した“もやし”は、長さ1m、太さはバットほど。
「こいつを耕した所に植えて、育てようとワシが準備したんじゃないか!…まぁ、でも、ちょっと、漏れてるか…多少の漏れありっと」
「モヤシは、軟白栽培だろうが!!」
影ひとつ無いグランドで、無我夢中で作業に従事した僕の気持ちも、モヤシ同様にへし折れる。そんなGWの昼下がりである。
そして、何が“漏れてるか”については、次回のお話である。
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