1本目 隣人はオーディエンス

 ドッキリほどスリルに溢れるものはない。あのゴミ臭い街の悪ガキだった頃の癖が未だ抜けない。成長したのはどうやら自制心ではなく、ドッキリの規模だったようだ。とはいえ、僕はあの部屋が気に入っていたし、出来ることなら去りたくはなかった。どうせ去るならと、カクメイグンとやらの忠告を無視して部屋を丸ごと消してみた。正直後悔している。朝にピアノの練習をして怒ってこなかった隣人は初めてだったのに。

 なんたらテロ対策部に目をつけられて半年が経つ。革命軍がどーのこーの言ってきて半年が経つ。僕はテロリストでも軍人でもないと主張しても、彼らは都合の良いように僕を解釈する。ダルいダルい。

 とりあえず、新しい家を探さなければ。できれば防音室のあるといいんだけど、家賃が高いのは御免だ。マストになるのはセキュリティ。僕が住んでいるとバレないように偽名で登録するが、いっつも特定される。ストーカーは嫌だから絶対必要。

「いやー、お久しぶりー」

高校生の時の同級生だ。久しぶりに聞くその甲高い声はそのがっちりとした肉体には似合わない。

「アンディか、卒業から会ってないね。今何してんの?」

「それはこっちのセリフだ。3年A組のグループチャット、入ってないのお前だけだぞ。ジョージ何してんだろーってみんな言ってるからな」

アンディは彼のあだ名、本名は安藤大輝。ジョージは僕、北村丈二郎という偽名だったのでそんなあだ名がついた。

「生憎、文字でも騒がしいのは嫌いでねー」

半笑いで言ってみる。

「まあ無理にとは言わないけどさ。ところで今何してんの?」

「家が焼けてね、今新しい家探しているんだ」

全く、下手くそな嘘だ。

「そんなことある?え、てことは今ホームレス?」

「ホームレスて。まあ、だから即入居可の物件ないかなって」

「運がいいなーお前」

「?」

「俺、シェアハウス運営してるんだ。こっそり家賃半額にするから、住まない?」

シェアハウス、こんな手があったとは。ストーカーも防げるし、革命軍も近寄りづらくなる。しかもシェアハウスならピアノも許可取れば弾けるじゃないか。

「いいね。何処にあるかわからないけど、そこにするよ」

「、、、そっか。じゃあ案内するけど驚くなよ?嫌になったら言えよ?」

誘ってきたくせに突然消極的な喋りになる。

 ついて行くとそこは、馴染みのある街だった。あのゴミ臭い街から15分で行ける、僕がよく盗みに行った街。複雑な気持ちだが、故郷に帰るのもありだな、と思う。

「スラムが近いけど、、、」

「構わないよ。これからよろしくね、アンディ」

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