第2話

 先程、物語に「過去のことなら何でも知っている」と話したが、それは揺るぎない事実であり、彼の確固たる能力である。


 だが、そういった彼の人ならざる能力は、彼の「職業」に由来している。


 彼の仕事は、「歴史編纂者」だ。

 まだ政府があった頃(大体3〜4年程前まで)、彼は「国家機密級政府指定最重要呪的特殊事務職こっかきみつきゅうせいふしていさいじゅうようじゅてきとくしゅじむしょく」という名目で、ずっと日本の歴史を纏めていたらしい。


 だから当然、ずっと昔の過去の記憶も、データとして、仕事道具として引き継がれる。

 それ故に「過去のことなら何でも知っている」、だ。


 そんな物語本人は、今日も廃神社の拝殿のど真ん中に、色々なディスプレイ(どれも古き良き鏡である)を様々な角度で配置して、気だるげにディスプレイ(鏡)に映ったものを書き綴って行く。もちろん手書きだ。

 たまに、AI(情報保存用小型式神)を利用して膨大なデータを打ち込む。


 そんな体に悪そうな事務職を、彼は毎日続けていた。


 そもそも、世界が崩壊して生活さえままならないまま、タダ働きで熱心に部屋に篭もりきりなのも、これ又彼の可笑しい所であり軽薄な部分でもある。結局は律儀な奴だ。


 現在の捌緋は、そんな物語の「助手」を務めている。

 無収入の役人に助手がついているという、なんともおかしな話だ。

 しかも、捌緋はれっきとした神様でもある。

 今の所、信仰も少ないため力が弱く、その上制約により車椅子生活(今の捌緋は足が不自由で動けない)を強いられているが、一応由緒正しき神様だ。


 捌緋は別に気にしてはいないが、神様を必要以上に酷使している物語は、そろそろ天罰が降るころかもしれない...。

 捌緋は、物語の頭てっぺんに雷を落とす怒った自分を想像した。

 だが、全撃、のらりくらりと避けられてしまったので、想像の中の物語に酷く腹を立てた。ムカついた。


 そんな思考ゲームを崩れた神社の屋根の上で繰り広げていた捌緋の元へ、なんだか楽しそうな物語が、口笛を吹きながら寄ってくる。


 正直捌緋は何だか逃げ出したかったが、上司に対してそんなことが出来なかった。


 そして、楽しそうな上司は口を開く。


「捌緋、を頼んでもいいですか??」



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