第1話
床と壁と屋根が抜けている廃神社。
つまり、廃神社の究極系。
元東京都内中心近くの自然豊かな高台に位置するこの神社は、元は白蛇を祀っていたらしい。
あまり大きくなく、近くには狐を祀っていた神社があったらしいが、今はぺしゃんこに潰れている。
この神社を見つけてきた
「捌緋。そんなのことはどうでもいいんです、大切なのは今この場所が、捌緋にとって居心地が良ければそれでいいんです。」
と、閉じた目でニンマリと笑う。
笑われてしまう。
物語は、過去のことなら何でも知っている。
逆に「過去しか知らない。」と彼は言うが、自分の過去さえ全く知らない捌緋にとって、今現在唯一信頼し尊敬できる人間だった。
捌緋には、崩壊より前の記憶が一切無い。
すなわち、神様として生きることになるより前の出来事を覚えていないのだ。
自分が何故、どのように神様となったのか、捌緋は思い出せずにいる。
捌緋自身はその記憶の欠落によって今まで別に困ったことはなかったし、過去に積み重ねてきた情報(とそれ以上の知識)は全て物語が教えてくれる。
だから別に、違和感は感じていない。
ただ、自分の神様としての出自について物語から聞こうとすると、彼は少し悲しそうな顔をして
「いずれ知ることになるんです。
僕からはまだ伝えることはできないけれど、今を生きる捌緋はまだ思い出してはいけないのです。
これからきっと、少しずつ知ることになるから...」
と、消え入りそうに小さな声で呟く。
捌緋は基本的に物語に恩を感じているし尊敬しているし信頼しているが、
その時だけはどうしても気持ちが絡まって、少し暗い気分になってしまう。
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