第3話
「あの、ここって「ぬい部」であってますか……?」
そんな質問をして、十秒がたった。だけどそのQに対するAは、いまだに返ってこないまま。向かい側の窓からさしていた太陽の光に雲が重なって、一気に部屋が暗くなる。これは……間違えたパターン?
「……あ、え、違いました、かね?」
とたんにこわばった、先輩たちの顔。なんか変なこと聞いちゃったのかな。
不安になって、さっき先輩がくれた、大きいくまのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた、その時。
「違わないよ?」
透き通るように綺麗なハイトーンの声が、それなのになぜか刺さるものを感じる声がした。
うつむいていた顔をばっと上げる。でも声の主は見当たらない。
違わないって、ここが「ぬい部」ってこと?じゃあ先輩たちはなんで黙ってたの?
先輩たちは、さっき私が倒れてきたドアの方を見ていた。
ドアの向こうに、誰か人がいるの……?
「くゆり……?」
ももは、先輩だったっけ。投げかけたのは、ドアの向こうの人の名前なのかな。
ももは先輩は目を少し開いて、さらにつぶやく。『どうして』と。
「一年生?名前は?」
まだ姿をあらわさない人からの質問。ちょっと怖かったけど、大丈夫。私は腐っても生徒会長。こういう人と話すのはさすがに慣れた。落ち着け、私。
「初等部六年です。初等部生徒会本部役員会長の三島佳穂と申します」
せいとかいちょう、とその場の人全員がつぶやいて、顔を曇らせるのが分かった。過去の経験からこういう時に名乗る場合、ちょっと大きめに言っといたほうがいいって思ってたんだけど、違った……?
「そう、三島さん。で?ここには何の用?」
唯一ハイトーンの人だけ、そこはガン無視。まあいいや。私は正当な理由でここに来てるわけだし。震える声を抑えて、息を吸う。
「中等部生徒会副会長の
……突如静まり返る部屋。やっぱりなにか間違えた?
その沈黙を破ったのは、ももは先輩だった。
「なーんだ、ふみきの用事かぁ!もー、先にいってよ~!」
ちょっと待ってと言い残し、棚にこれでもかというほど詰め込まれた書類をばんばん引き出し、あった!と声をあげる先輩。
はい、どーぞと数枚の写真を差し出される。先輩の明るい声と数秒の間に取っ散らかった部屋に思わず笑いがこみ上げて、少しふきだす。そしてありがとうございますっていって、写真を受け取った。
「僕、帰る」
緊張の糸が緩まったのがわかったのか、はたまたあきれたのか、もうここには用事はないとでもいうように去っていく、くゆりと呼ばれた人の足音。
あの人、いったい誰なんだ。
そしてあのシリアスな雰囲気はなんだったんだ。
他の先輩たちも我を取り戻したように、先輩の奇行に笑ったり、注意したりしてる。
そこに「おーい」って声が聞こえて、「大丈夫か?」って声をかけに来てくれたのは。
「文月先輩!」
「「文月!」」
何かトラブルでもあったのかなって思ってぬいぐるみを抱えたまま駆け寄ると、
「おー、無事だった」
って言われた。私があまりにも遅かったから様子を見に来てくれたみたい。
ももは先輩は「別に取って食ったりしないわっ」って言ってたけど、私のひざから流れる血と、私がぶつかっちゃってまだ床でうずくまっている先輩、そしてみごとに書類の海な部屋を見て、信用できないとでもいうように顔をしかめられて、慌ててこんんな状態になってしまった経緯を説明していた。
まだ全然よくわからないナゾなことや聞きたいことばっかりだけど、とりあえず文月先輩が来てくれてよかった、なんて思って、先輩たちの話、もとい弁解を聞いていました!
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