第2話

いきますか、と意気込んで渡り廊下を進んで、第二校舎に入り、グレてみたかったけどグレきれませんでした、とでもいうような初等部の後輩集団にビシッと注意して、廊下の突き当りまで来たはいい。

そこで、文月先輩に教えてもらい、ついさっきまで復唱していた内容の中に意味不明なワードかあったことに今更気づき、目の前のその扉をノックできないでいた。

「ぬい部ってなに………」

こらえきれずに小さく呟く。

部活動の名前なんだろうか。いや、でもそんな部活聞いたことないし…?

中からはわいわいきゃいきゃい声が聞こえる。

だけど日中日の部活らしい「ガチらしさ」なんてものは微塵も感じれなくて、ここが本当に先輩のいっていた部屋なのか、正直なところ不安。不安でしかない。

そもそも第二校舎って中等部がほぼ管理してるから先輩が多いんだよね…。だから間違ってパーティーでもしているようなところに入っちゃったらどうしよう…!

そういうことが頭の中をぐるぐる回って、手をのばしてはノックするのをためらって下ろすのループ。

あぁ、早く戻らなきゃいけないんだし、文月先輩も待ってるはず。こんなことしててもきりないよって思って、七度目の正直。もし間違ってたらその時はその時だ!

えいっと手を伸ばした。

と、その時。

「はいはい、買ってくればいいんでしょ?」

そういう声がきこえて、戸がするするっと開いた。そして男子の、あきれ顔で綺麗な横顔が見える。一瞬見とれるけど、いやいやそんな場合じゃないってっ!

このままじゃこの手、男子にあたっちゃうよ!?

自分でとめることがないように少し勢いをつけ、かつノックの形になので中指の第二関節が立っている手はドアが開いた後も止まることを知らなかった。

「え、おおっ!?」

「わあああああ!」

慌てからか、バランスまでをも崩した私は体ごと部屋へなだれ込む!

どすっ

「いったぁぁぁ……」

ジーンとした痛みを感じて、うっすら目を開ける。

ひざを、見事にすりむいていた。あふれ出る血が少しグロテスクで目をそらす。

って私のことはどうでもいい!あの人はどうなった……!?

はっと下を見ると、胸のあたりを押さえて、カブトムシの幼虫よろしくうずくまってる男子がいた。

「痛てぇ…」

その一言でさっと青ざめた私。ぴょこんと立ち上がって、もう半泣きで頭を下げる。

「ごめんなさい、ごめんなさいっ本当にすみませんでしたっ」

空回りしてばっかり。ちゃんとしようって切り替えたはずなのに……

「くゆき……はきっとなんとかなるか。それよりそこの女の子。ひざ、すごく痛そうなんだけど。大丈夫?」

とんとんと肩をたたかれて、女子の優し気な先輩の顔がのぞく。わけのわからぬまま椅子に座らされて、ボブの髪を嬉しそうにゆらした先輩は、はいっと大きなぬいぐるみを渡してくれた。

本当に色々なことが一緒におこってて理解が全く追いつかないんだが?

そう思っていると、手に頭がポンッと乗り、わしゃわしゃかき混ぜられる。

「もう、後輩なかせてどーすんだよ。なにがあったかよくわかんないけど、周り見てないお前もお前じゃね?」

見上げると髪を銀に染めたピアスじゃらじゃらの校則違反の模範解答のような先輩が、にっと笑いを返してきた。

普段なら注意するとこだけど、そんな気力、今ないよ……

「あー、なーに、この可愛い子!きゃー!ほっぺもちもち!」

さっきまでスマホをいじってた先輩までもが、イヤホンは片耳に着けたまま私のほっぺたで遊びだす。

もうなにこれ……そもそも私はここに何をしに来たんだ……

ここが例の「ぬい部」であってるのかな……?

「あーもーうるせえ!俺の心配は一切なしかよっ!」

むくっと起き上がった男子の先輩。私が反射的に立って謝ろうとすると、「いーのいーの」と言って無理やり椅子に座れせられた。

「心配なしってわけじゃないけど……でもたいしてケガ、してないでしょ?」

「いやケガしてるっての!みぞおちに来たから!第二関節が!!」

「なー、桃羽。この子の手当てしなきゃいけねーじゃん。救護ボックスってどこだ?」

「おーい!人の話聞いてんのか!?」

な、なんかすごいことになってるんだけど…

ほんとにごめんなさい……

失礼なことしかしてないな、私。

そんなぽわっとした頭だったから、この展開に驚いていたからか、もう一問、質問が口からでた。

「あの、ここって「ぬい部」であってますか……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る