第150話 ラピストリを超えるもの①

「アァーーーハッハッハッハ!! これほどの威力とは想像以上だ! 勝てる、勝てるぞ! これなら勇者や魔王相手でも!!」


「喜んでるところ悪いが、捕まえてしまっていいか?」


「!!!???」


 エイブラムは唐突に声を掛けられ、時間停止スキルでも使ったのかと思うほど固まった。そしてすぐに狼狽した表情に変化する。


「はっ……はっ……外れたとでも言うのか!? いや、そんなはずは……」


 さて、どうしたものか。

 エイブラムの思考が停止している間に捕まえてやりたいが、紐で縛ったところで引き千切られるだろうし、そういえば俺は奴の拘束手段を思いつかない。


「やっぱり降参してくれないか? お前の魔法は成功したんだし、もう満足だろ?」


「ふ、ふざけているのか? ま、まあいい……。一発外したところで、この程度の上級魔法、今の私なら何発でも撃てる。もう一度、喰らえぇ!!」


 エイブラムはそう言うと、先ほどと同じ雷撃系の魔法を5回連続で唱えた。


 俺は一歩も動いてないので、もちろん外れてなどいない。

 轟音とともに大きな雷が、すべて俺の身体に直撃した。


「ど、どうだ! これならさすがに外れないだろう! 塵一つ残ってないかもしれないがな!」


「それ、飽きたら降参してくれるか?」


「なっ!?? どういう……ことだ……? まさか風属性の無効アイテムでも持っているのか……? ええい、面倒な奴め! これならどうだ!!」


 エイブラムはやけくそ気味に、火属性、水属性、風属性、地属性と順番に魔法を唱えた。

 いつものように、ゼロダメージのログが流れる。


「……」

 エイブラムは先ほどのように得意げに騒ぐこともなく、自分の魔法の結果を黙って待っている。


「何度やっても同じだ」


「!? どうなっている……? 全属性の無効アイテムなど聞いたことないが……」


 エイブラムは明らかに錯乱状態。

 長年の研究成果により、奴の言う神の力を手に入れたにも関わらず、目の前の相手に通用しないのだ。それは仕方ないだろう。


 ただ、同情する余地は何一つない。

 別に俺は正義の味方になるつもりなどないが、俺の大事な生活を脅かす存在がいるのなら、それを排除するだけ。

 エイブラムは俺にとって邪魔なのだ。


「いったい貴様らは何なんだ……何度も何度も……。ハーフ魔族が何故こうも……」


 エイブラムにとっては俺たちが邪魔でしょうがないようだ。


「魔族にどれだけ恨みがあるか知らないけど、お前の目論見は失敗だ。俺の身体は頑丈に出来ていてな、その力は通用しない」


「そんな訳の分からない話……いったいどんなカラクリがあるというのだ……。もしかして……私の魔法に何か問題が…………? なら!!」


 エイブラムが、親の仇でも見るような目で俺を睨みつけた。

 まだ諦めていないようだ。


「こういう野蛮な攻撃は好きではないが、魔法が効かぬなら、貴様の身体に直接風穴を開けてやるわ!!」


 エイブラムが拳を握り、殴り掛かってきた。

 さすがはレベル201の亜神。その速度も威力も、この世界の最高峰を超えると言っていいだろう。勇者や魔王も超える力だ。――――――――だが。


 エイブラムの攻撃が俺に当たると、その衝撃は、ここを震源とした地震のように大地へ拡がっていった。

 まるで大自然そのものの力。人の力を遥かに凌駕している。


 それでも、亜神エイブラムが相手をしているのは、この世界のことわりの外側にいるゲオールギーナタンデリオンだった。


「なん……だ……? 私はいったい……何を殴ったのだ……??」


 直接攻撃をしたことで、エイブラムは自分の攻撃が効かないことを感じとったようだ。


「そんな…………、効かぬはずがない…………効かぬはずがない…………効かぬはずが、ないのだぁぁぁぁぁぁっ!!」


 エイブラムは繰りかえし繰りかえし俺の身体へ攻撃する。

 その攻撃一発一発は、拳一つで街ごと破壊できる威力を持っている。


 ただの人間がこれほどの力を手に入れたのは、賞賛してもいいことだろう。

 しかし、可哀そうだが俺には効かないのだ。


「何……なのだ……? 何なのだ…………? 何なのだ、何なのだ、貴様はいったい何なのだぁ!!」

 エイブラムは両手で頭を抱えながら叫んだ。


 俺は何も答えない。

 俺だって何なのか分からない。ただ、『神様』と名乗るジジイの気まぐれに創られた存在でしかない。


 そんな俺が、この世界にどこまで影響を与えていいのか、ずっと悩んできた。

 それは今でも答えが出ていないのだ。


「貴様の存在は…………私にはまったく理解できない。なぜ貴様のようなものが存在する……。まさか貴様も……勇者か魔王の子だとでも言うのか?!」


 俺は黙って首を横に振った。


「そうであろうな……。ならば貴様の問題ではなく、私が手に入れたこの力が、神の力ではなかったのだろうか……」


 同情する余地もないはずだが、エイブラムを見ているとだんだん不憫に思えてきた。

 存在していいはずもない俺さえいなければ、結果は全く変わっていた。それが正しいかどうかは別として、こいつはきっと何かを成しえていたに違いない。

 俺は、そんな思いから無意識に言葉が出た。


「お前の力は呪いによるものなんだろ? そんなものが神の力なわけがない。だが、レベルはちゃんと201だ」


「……? どういう意味だ……?」


「だから、お前は手に入れた力を信じていないようだが、求めていたようにレベル200を越え、ちゃんと亜神になれたと言っている」


「貴様……まさか他人のステータスが見えるのか?」

 エイブラムの表情が変わった。

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