第149話 ラピストリ文明の力②

「あなたなんかに説明しても仕方ないのですが――――」

 エイブラムは俺の答えを待たずに話を続けた。

「幸運にもあなたはこれから歴史の証人となります。長い年月をかけ様々な人々から頂いた生命力に、とうとう勇者の力も加えることができました! これで、私の求めてきた最高の力を、お見せすることができるのです! ヒィーーーヒッヒッヒッヒ!」

 腹を抱え嬉しそうに笑う。


 エイブラムは禁呪を使おうとしているのだろう。それも今までのものとは違う、とびっきり危険なやつだ。

 止めた方がいいのか迷うが、マリーから奪った生命力を使わせた方がよい。俺のいないところで使われるよりは、今使わせた方が遥かに安全だ。

 まあ、一応どんなものかは確認しておいたほうが無難だろう。


「それで、どんな禁呪を使うんだ?」


「おや? 興味が出てきましたか? 自分に呪いをかけるようなものなので少し躊躇しますが、それは単純にして最高の魔法です! 見ていれば分かります。この最高の舞台を、あなたのような者が唯一の観客というのはいささか物足りませんが、――――――私自らがお見せしましょう!」


 エイブラムがブツブツと禁呪を唱え始めた。

 すると床の模様が光りだし、今まで感じたものと比較にならない嫌悪感に包まれた。この感覚がエイブラムの言う呪いの力なのだろう。神殿内に残っているメイベルが不快な表情をしていそうだ。


 それから徐々に、何かが床からエイブラムへ流れ込んでいくのを感じた。

 生命力そのものというより、呪いによって変換された力のようだ。禍々しい力の流れを視覚的にも確認できる。


「ぅぅぅぅぅぅううううううあああああああああ!!!」

 エイブラムが悶え苦しむように声を上げた。


 呪いというだけあって、心地いいわけではないのだろう。

 そこまでして力を手に入れたいとは、見下げ果てた奴ではあるが、ある意味尊敬もできる。

 俺なんて何の努力もせず今の力を手に入れたわけだしな。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

 エイブラムの声がさらに大きくなった。


 いつの間にか奴の見た目が変わりだしている。

 身体は少し大きくなり、肌の色が変色していた。背中の方から何かが生えてきているようにも見える。

 かなりの苦痛を伴っているだろうと、はたから見ていても分かった。


 やはりレベルか……。


 エイブラムのステータスを見ると、レベルが上昇しだしていた。

 それに呼応するように苦痛も増しているように見える。魔法が完成する前に死んでしまうのではないかとさえ思えるほどだ。


 だが、それを確認する間もなく、最後の追い込みのように流れ込んでいく力が急激に増加した。

 そして、エイブラムが激しく光ると共に、奴を中心に爆発的な衝撃波が辺りに広まった。


 耐えきれずに破裂した?


 そう感じた。魔法が失敗したなら、それはそれでもいいだろう。できれば生きたまま捕まえたかったのだが、これでも自業自得で悪くない終わり方だ。

 周りは今の衝撃で埃が舞い視界が遮られているため、奴の状況をすぐには確認できない。


 俺は耳に意識を集中し、エイブラムの存在を探した。

 するとパラパラと小石が落ちる無機質な音の中に、空気が大きく動くような音も混ざっていた。


「すばらしい! これこそ私が求めた神の力だ! アァーーーハッハッハッハ!!」


 視界が少し開けると、エイブラムと思われるものが、翼を羽ばたかせ舞い降りてきた。


「見たまえ、この姿を! さあ、跪くのだ! 私は神になったのだぁ!!」

 エイブラムは両手を広げると同時に、黒い翼も広げた。


 その姿は神というより黒い天使だった。

 同じ黒でもコウモリのような魔族の羽とは違い、鳥類のような翼を持っている。

 肌はどす黒く、眼は黒目と白目が逆になっていて、もう人間ではなくなっているのが一目で分かる。


 ただ、奴が言うように神には近づいたようだった。


 --------------------------------------------

 名前 エイブラム

 レベル 201

 種族 亜神

 HP  29260/29260

 MP  37021/38257

 攻撃力 23459

 防御力 23523

 --------------------------------------------


「レベル200を超える力か……」


 エイブラムを見ると、達成感に満ちた表情をしている。

 たった1超えて、何を大騒ぎしているのやら。


「貴様には分かるまいが」

 呆れた思いでいると、エイブラムがこちらに向かって歩いてきた。

「今の私はレベル201! 到達不可能な神の領域に存在しているのだ! たった1と思ったのではなかろうな? レベルは高くなれば高くなるほど、1レベルの差も大きくなる! レベル200と201では、天と地の差があるのだ!!」


 ご高説どうも。

 亜神ともなると俺の気持ちでも読み取れるのだろうか。必死に話してくれて悪いが、俺からすれば大して変わらないのだ。


「どうも貴様は理解が出来ていないようだ……。まあ良い、どうせここで消滅するのだ。同じ魔法でも、人間だったころの私より数百倍も威力が上がっている、こいつで殺されることを有り難く思うのだな」


 エイブラムは手のひらを空に向けると、魔法を唱えた。


「サンダーブラスト!!」


 巨大な雷が俺の身体を貫いた。


 --------------------------------------------

 エイブラムはあなたに攻撃をした。

 あなたはスキル「魔法攻撃ダメージ軽減」を自動発動させた。

 あなたはスキル「風属性ダメージ軽減」を自動発動させた。

 あなたは0ダメージを受けた。

 --------------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る