第148話 ラピストリ文明の力①
「醜い方のハーフ魔族ですか……。まったく想像もしていませんでしたが、よくここまで辿り着けたものですね」
エイブラムは振り向きながら言った。
ジャスティンではないのでホッとしているからだろうか。俺を見て驚いている様子はない。
「それで、他の方は来てないようですが、あなた一人で何の用です?」
「もちろんお前を捕まえにきた」
「あなたが私を……? 面白いことを言いますね。あなた一人でどうやって……、と言いたいところですが、私は勘違いしていたのでしょうか。あなた、もしかして上級魔族のハーフですか? そんな報告をだいぶ前に聞いた覚えがあります。それに、そうでないとあなた一人来た意味が理解できません」
「上級かどうかは分からないが、お前を捕まえることぐらいはできる」
「そうですか、なら丁度良かったかもしれませんね」
なんだ? 会話が嚙み合ってないぞ?
観念した様子でもなく、なぜか冷静なエイブラムの態度に違和感を覚えたが、俺は会話を続けた。
「降参するのか? 俺としてはお前を連れて帰るだけだから、それならそれでいいのだが」
「あなたは、禁呪と呼ばれているラピストリ文明の力は何だと思いますか?」
は? 何を言ってるんだ、こいつ。
エイブラムは俺を見もせず唐突な質問をしてきた。
無視してやりたいとこだが、話を合わせて反応を見てみるのも手かもしれない。
「俺には分からないな。ただの庶民なのでね」
「ラピストリ文明は神の力を目指していたと伝えられています。当時から存在していたか定かではありませんが勇者や魔王でも到達不可能な、レベル200を超える力。そんな子供の幻想のような話に、ラピストリ文明は真剣に取り組んだのです。あなたは、レベル200を超えられる存在なんてあると思いますか?」
「勇者や魔王が無理なら、無理なのでは?」
「そのとおりです! どんなに才能ある者が、どれほどの経験値を重ねようとも、レベル200を超えることは出来ません。この世界に生あるものでは、到達することは決して出来ないのです!」
なんだろう。なぜか良心が少し痛む。
「では、ラピストリ文明はどうしたと思います?」
「さあ? どうも出来なかったのでは?」
「そこがあの文明が我々と違っていたところ。彼らは、呪いの力を利用しようと考えたのです!」
「呪い? それが……生命力を犠牲にした……?」
「そう! そうなのです!!」
俺が思わず漏らした言葉に、エイブラムが強く反応した。
ラピストリ文明の禁呪は、生命力を犠牲にして大きな力を手に入れる魔法だとエイブラムが言っていた。
それはまさしく呪いなのではと、俺は感じていたのだ。
「あなた、無知そうな顔ですが馬鹿ではないようですね。ラピストリ文明とは、呪いの技術が極端に発展した文明だったようです。私はラピストリ文明を研究するにあたり、様々な呪いの実験を繰り返しました。小さな村を丸ごと呪いにかけてみたり、どこかの街に呪いによる疫病を流行らせたり」
おいおいおい、色々思い当たることがあるな。
この男、やはり見逃していい奴ではないようだ。
「そして、命を犠牲にすることで瞬間的にレベル100程度上昇可能な魔法や、複数の命を使って強力なゴーレムを召喚する魔法を解明しました。たとえ勇者や魔王でも、あれほどの魔法を使うことは不可能でしょう。それを、呪いの力を利用すれば私たちでも出来るのです!」
エイブラムが俺に視線を合わせてきた。
何だろう、まさか褒めてほしいのだろうか。
いくらなんでもこいつを持ち上げてやる義理はないので、俺は無視して黙っていると、エイブラムは更に話を続けた。
「理屈は分かっていただけましたかな? 犠牲にする生命力が大きければ大きいほど、手に入れる力も大きくなるのです! ヒィーーーヒッヒッヒッヒ!」
嬉しそうに説明するエイブラムに腹が立ってきた。
こんなところで俺なんかを相手に能書きをたれて、何の意味もない。ただ、話していて自分が気持ちいいだけなのだろう。これ以上付き合ってやる義理はない。
あれ? なにか引っ掛かる。
俺はエイブラムの話を遮ろうとしたが、何か違和感を覚えた。
魔導士や神官たちは、自分の生命力を使ってレベルを上昇させた。
古代ゴーレムは、何人もの魔導士の生命力を使って召喚された。
――――使ってない生命力がある?
「さて、あなたのような低能な生物では気づきもしないでしょうが、まだ使っていない生命力があります。何だと思いますか?」
そうだった。
途中で俺が破壊したため、あまり気にしていなかったが、エイブラムの説明通りなら何に使ったか分からない生命力があった。
彼女の様子を見る限り、あそこで奪われたのは間違いないはず。
大量のストーンゴーレムは、エイブラムの魔力によって召喚されただけ。禁呪ではなかった。
そうなると、エイブラムの言うように、まだ使っていないことになる。
勇者マリーから奪った生命力を。
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