第146話 神殿内部⑮

「今さらこんなゴーレム出しても無駄だぜ!」

 ジャスティンはストーンゴーレムの一体を、簡単に薙ぎ払った。


「まさか……どうして……。もう…………どうすれば…………」

 エイブラムは俺にしか聞き取れない小声で、ブツブツと嘆き続けている。


 召喚されたストーンゴーレムは、この大きな広間を埋め尽くすほどの数だが、勝敗は確認するまでもなかった。

 飛躍的に能力が上昇しているジャスティンや勇者マリーはストーンゴーレム一体を一撃で倒し、他の者たちもしっかりと対処している。

 そんな悪あがきが通じるメンバーではなかったのだ。


「もう、てめえには大した力は残ってねえようだな。この場で叩き斬ってやりてえとこだが、ぶん殴るだけで勘弁してやる。あとは王様やオリヴァーのおっさん達に任せるぜ」

 ジャスティンは周囲のストーンゴーレムを蹴散らしながら、少しずつエイブラムへ近づいて行った。


「クソクソクソクソクソォォォッ! こんな子供に邪魔されるなんて!!」

 突然、エイブラムは気がふれたかのように大声を出すと、壁に頭を打ちつけた。


「おいおい、自害するんじゃねえだろうな? 俺はそれでもいいけど、オリヴァーのおっさん達が困るだろうが」


「こんな子供のために……しかし…………仕方ありません。魔王の時はまた考えて、まずはこの子と勇者を確実に……」


「ったく面倒くせえおっさんだな! いい加減黙って捕まれよ! もうてめえの相手は飽きてんだ!!」


「無礼な……。やはり……このままは許せませんね。こうなったら……」

 エイブラムが壁を触ると、石像の台座の下が扉のように開いた。


「お、おい? てめえ逃げる気か!?」

 ジャスティンが慌てて駆け寄ろうとする。


 エイブラムはそれより一瞬早く、ジャスティンを一瞥すると扉の中へ入っていった。


「まっ、待てよ!?」

 ジャスティンがエイブラムを掴もうとするが、扉の閉じる方が早かった。


「チッ、何だよこれ! このっ!!」

 ジャスティンは扉を壊そうと殴りつけた。

「なんだ!?」


 が、扉はビクともせず、ガンと鳴った音は石材とは違う響きをだす。

 ジャスティンの能力は上昇したまま。今の彼が殴って壊れないなら、普通の扉ではなさそうだ。


「逃がしては駄目よ! 武器を使いなさい!」

 その様子を見ていたマリーが声を上げた。


「母ちゃん? よし、任せろ! はああぁぁぁぁっ!!」


 ジャスティンが金色と紅い光に再び包まれた。

 そして、古代ゴーレムさえ倒す一撃を扉に加えるが、結果は先ほどと変わらない。武器を弾き、傷一つ付いてないようだ。


「どういうこと? なら私が!」


 マリーは途中のストーンゴーレムを無視し、高速でジャスティンの元まで移動した。


「母ちゃん。身体は大丈夫なのか?」


「ええ、あの子の回復魔法は大したものだわ。それより、どいてなさい。私がやるわ!」

 マリーは息子を横に追いやると、扉を全力で殴った。

「なに? どういうこと?」


 武器は持っていないが、この世界で最強の存在である勇者マリー。

 彼女が殴っても結果はジャスティンと同じ。勇者ですら壊せない扉のようだった。


「ゲオっち、あれもナントカ文明の力かもしれないね。行ってみよう!」

 ストーンゴーレムとの戦闘を一旦止め、エルキュールが俺に声を掛けてきた。


 俺が殴れば壊せると思うが、扉だけでなく神殿ごと消し飛んでしまうかもしれない。

 さすがに今度は交代しますと言えないが、様子を見るため俺はエルキュールに付いて行った。


「マリー、キミでも無理そうかい?」


「エルキュール殿……。魔力的なものは感じないのですが、何か別の力にはばまれている感じですね。ラピストリ文明は我々の使う魔法とは根本的に違うものかもしれません」


「そっか……。そうなると一度神殿を出て回り込むしかないかもしれないけど、この抜け道がどこに繋がっているか分からないし」


「ちょっと待ってくれよ兄ちゃん! そんなことしたらあいつに逃げられちまうぜ! こんなの俺と母ちゃん二人でやれば何とかなるさ!!」


「無駄よ、ジャスティン。あんたも攻撃してみて分かったでしょ? 私たちでどうにかなるものではないわ」


「でもよ、母ちゃん……。壊せねえなら、通り抜けるしか……………………あっ!」


 ジャスティンの「あっ!」という声と共に、俺も一つ思い出した。

 俺は把握できないほど未使用のスキルを大量に持っているが、何度か使用経験のあるスキルも、そういえばあったのだ。

 最後に使ったのはたしか、収容所でジャスティンと初めて会った時だ。


「ゲオのおっさん!」


 ジャスティンが目を輝かせて俺を見ている。

 まさか同じことを思い出したのだろうか。


「おっさんってさ、壁抜け出来たよな?!」


 同じだったようだ。


「え? ゲオっち、壁抜けできるの?」


「はい、まあ。使えるスキルの数少ない一つですね」

 他は何が起こるか見当もつかないので。


「そっか、さすがはゲオっちだね」


「だろ? おっさんがいて助かったぜ! おっさん、悪いけどさっきの奴を捕まえてきてくれねえか? ここ通り抜けて」


 随分簡単に言ってくれる。

 だいたい勇者が壊せない壁を、壁抜けのスキルで通り抜けられるとは思えない。


 ただ、特別仕様の俺のスキルなら出来るだろう。

 俺はそう確信していた。

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