第145話 神殿内部⑭

「あなた、まだ立ち上がるというのですか!?」

 エイブラムが戸惑いを見せた。


「ああ……俺は……何度でも立ち上がるぜ。てめえが……人間以外を認めないと言うかぎりな」


「認めるわけがありません! 人間以外の血は、この私が全てってみせます!」


「ふざけるな! 俺とおっさんは魔族のハーフだ! 兄ちゃんはエルフの血が混ざってる。マテウスは竜族、ディーナは獣人の血が。けど人間と違うとこなんて何一つねえんだ! 人間だろうがなかろうが何の関係もなく楽しく平和に生きてんだ! 見ろ! ディルクのじいさんだって種族関係なくアラン達と仲良くなれたんだ! てめえなんかに――――邪魔させるかぁ!!」


「ひっ、ひぃぃぃ!?」

 ジャスティンが掴みかかろうとすると、エイブラムは悲鳴をあげながら下がっていった。


「逃げるんじゃねえ!」


「こ、このケダモノが! 古代ゴーレムよ! 彼を叩き潰してしまいなさい!!」


 エイブラムの声に古代ゴーレムが再び動き出した。


「俺は負けねえ……。母ちゃんにも、みんなにも、ぜってえ手を出させねえ……。そんな人形なんかによ、負けてたまるかぁぁぁ!!!」


 二本の剣を構えたジャスティンが、聖剣エバーディーンの輝きとは違う二色の光に包まれた。


金色こんじきあかい光!?」

 エルキュールが光の色に反応し、マリーへ向いた。


「金の光……。あの子まさか……称号を引き継がれもせずに勇者の力を……?」

 マリーが息子の状況を確認するため、重そうに二、三歩前へ出てきた。


 そしてもう一人、ジャスティンの様子に大きく反応している者がいた。


「おおぉぉ……、あの紅い光は……まさしく魔王様の……」

 魔族のディルクが涙を流しながら膝を着いた。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ズシンと古代ゴーレムの重そうな腕が床に落ちた。

 ジャスティンが斬り落としたのだ。


「なっ!? なっ!? 私の古代ゴーレムが?!」


「もう片方もだぁぁぁ!!」

 ジャスティンは残った腕も斬り落とした。


 先ほどまでと変わり古代ゴーレムを圧倒している。

 雰囲気だけではなく、ジャスティンのステータスも明らかに変わっていた。


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 名前 魔王と勇者の子ジャスティン

 レベル 50

 種族 ハーフ魔族

 HP 5232/6966(ブースト)

 MP 3233/4410(ブースト)

 攻撃力 9576(ブースト)

 防御力 8145(ブースト)

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 魔王と勇者の血に目覚めたとでもいうのだろうか。


「そんなバカな……。私の古代ゴーレムが敗れるなんてありえません! 何かの間違いです! さあ、古代ゴーレムよ、すぐに回復し、さっさと彼を倒してしまいなさい!!」


 ステータスを見るとHPが回復していくのが分かる。

 しかし今度はたった二回の攻撃でHPが半減しているのだ。簡単に回復することはない。


「へっ、魔法使いのおっさんよ。俺の勝ちみてえだな。その人形もてめえも、もう終わりなんだよっ!!」


「そんなわけありません! 古代ゴーレムがあなたなんかに負けることはありません! 勝つんです勝つんです勝つんです!!」


「いい加減諦めろよ。勝つのはてめえでも人形でもねえ。この俺だぁぁぁ!!」


 ジャスティンが二本の剣でクロスに斬り裂くと、古代ゴーレムのHPはゼロになり消滅していった。


「見たかおっさん! あとはてめえだ!!」

 勝利の雄叫びをあげながら、エイブラムへ剣先を向ける。


「そん……な……。私の古代ゴーレムが……。ラピストリ文明の力が……」

 エイブラムはじりじりと後退あとずさりしていく。


 もう広間には宮廷魔導士もおらず、エイブラムに味方するものはない。

 エイブラム自身はレベル47で世界トップクラスと言える魔導士だが、俺たちには同クラスやそれ以上がゴロゴロいる。


 さらにメイベルのおかげで勇者のマリーがだいぶ動けるようにもなっている。

 奴がなにかしらの禁呪を使おうと、もうどうにでもなりそうだ。


 俺たちの勝ちだ。


「認めません……認めません……認めません……。古代ゴーレムが……魔族の血の混じった子に敗れるなんて……」


 エイブラムはいつのまにか広間の奥の石像前まで下がっていた。


「おいおい、どこ行きやがる! 逃げ場なんてもうねえぜ!」 


「なぜ……こんなことに……。勇者の力は奪いました……。古代ゴーレムの召喚にも……成功しました……。なのになぜ……こんなことになっているのでしょうか……?」


「ゴチャゴチャうるせえんだよ、おっさん! てめえは負けたんだよ! 観念しやがれ!!」


「私は負けていません……、負けてなどいないのです……。負けてなどいないのですが……」

 エイブラムは怯えた表情で俺たちを見回した。


 自分から投降する様子はない。最後まで力づくで抑え込むしかなさそうだ。

 ジャスティンも同じように思ったのか、痺れを切らしエイブラムへ近づいて行った。


「わりいけど、これ以上は相手してられねえわ。さっさと終わらせてもらうぜ!」


「まだです! まだ終わったりしません! ゴーレムたちよ、現れなさい!!」


 エイブラムが召喚魔法を唱えると、大量のゴーレムが出現した。

 それは古代ゴーレムではなく、ただのストーンゴーレム。


 彼の、最後の悪あがきのようだった。

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