第142話 神殿内部⑪

「ゴーレムだと!? エイブラム、貴様まだ抵抗するのか!」

 オリヴァーはエイブラムを睨んだ。


「抵抗も何も、私が有利なのは何も変わっていませんよ。それに、ラピストリ文明の力をあなた方にちゃんとお見せしないといけませんしね」


「愚か者が……。やはり貴様の狂気は何としても私が止める。この剣の誓いを果たすため、貴様を狂わせたその力をここで打ち砕いてみせる! 聖剣エバーディーンよ、私に力をぉぉっ!!」


 オリヴァーの持つ剣が白く輝きだすと、攻撃力と防御力が上昇した。


「オリヴァー、あなたこそ無駄な抵抗を……。騎士団長のあなたが惨めな姿を晒すのはさすがにしのびないですね。少しだけ手加減してさしあげましょう」


「エイブラム! 王国騎士の力を、あなどるなぁぁっ!!」

 オリヴァーは高く飛び上がると、剣を大きく振りかぶり、落下に合わせ古代ゴーレムへ渾身の力で斬りつけた。


「はあああぁぁぁぁっっ!!」


 ガチンと硬いもの同士が衝突する音が響く。


「まあ、その程度でしょうか」

 エイブラムは何の感慨もなく言う。


 古代ゴーレムは身動き一つせずオリヴァーの攻撃を受け、その剣は古代ゴーレムの首元に当たっていたが、傷つけた様子はない。

 減少したHPは、3だけだった。


「そん……な……」


「どうしました、オリヴァー? まさかあなたの攻撃が通用するとでも思っていましたか? 古代ゴーレムのレベルは125。全快した勇者でもなければ傷一つ付けることは叶いません。もちろん、勇者の回復を待つつもりはありませんが」


「メイベルちゃん! マリーの回復を!」


「やってる! けどレベルが高過ぎて時間がかかるぞ!」


 エルキュールの声に俺もメイベルを探すと、彼女はいつの間にかマリーの元へ駆け寄り、すでに回復を始めていた。


「回復を待つつもりはないと言いましたよね? さて、オリヴァー、そこをどいてもらえますか?」


 古代ゴーレムの前でオリヴァーが剣を構える。

 とても戦意があるようには見えないが、騎士の誇りが彼を立たせているのだろう。


「はあ……はあ……私では倒せぬなら、せめてマリー様の回復まで時間を……」


「――――オリヴァー、残念です。あなたほどの友人をここで失くすなんて。ですが理想のためには仕方ありません。あなたの屍を乗り越えていきましょう!」


 古代ゴーレムがオリヴァーへ大きな拳を振り下ろす。

 力の差は歴然。オリヴァーの命を守るため俺が割って入ろうとするが、先にメイベルが回復の手を止め防御魔法を唱えた。


「ぐはっ」


 それでも古代ゴーレムの攻撃はオリヴァーを殴り飛ばし、そのまま壁に叩きつけた。

 HPは一撃で八割は減っている。


「ふむ、邪魔が入りましたか。まあいいでしょう、オリヴァーは後回しです。まずは勇者の回復を止めさせてもらいます。ゴーレムよ、そのエセ聖女をやりなさい!」


 古代ゴーレムはエイブラムの声に反応し、メイベルとマリーの元へ向かおうとした。


 もう、俺が止めるしかない。

 先ほどの攻撃で分かった。メイベルでも古代ゴーレムの攻撃を完全に防ぐことは出来ない。

 俺には攻撃手段がないが、マリーの回復時間を稼ぐことはできるのだ。


「メイベル。マリーさんを連れて下がってください。ここは――――」


「ゲオのおっさん! 待つんだ!!」

 俺の言葉をジャスティンが遮った。


「ジャスティン?」


「おっさん、悪いがここは俺に任せてくれ。そのゴーレムは俺が倒す!」


「まぁたあなたですか、勇者の子よ。懲りない子供ですねえ。いい加減ウンザリしてきました」


「おい、魔法使いのおっさん! てめえもしかしてソルズ教収容所のゴーレムも、てめえの仕業なんじゃねえか?」


「ん? 収容所のゴーレム? どこの収容所の話か分かりませんが、どの収容所にも私のゴーレム達がいますよ!」


「やっぱりそうか、ありがてえぜ……。俺はそのゴーレムのせいで十年も閉じ込められ、みんなを助けることが出来なかった。エルキュールの兄ちゃんが倒さなければ、きっとまだあそこにいただろう。俺さえ強けりゃ、俺さえゴーレムを倒せりゃあ、もっと早く収容所を解放できたはずだ」


「おやおや、あなた、収容所にいましたか。どちらの収容所ですか? そこの方たちを褒めてあげないといけませんね」


「もう、俺が弱いせいで助けられねえのは嫌なんだ。俺の力が足りないのは我慢できねえんだ。あの悔しさを、そのゴーレムを倒すことで晴らしてやるぜ!!」

 ジャスティンは剣先を古代ゴーレムへ向けた。


「はあ? 何を言っているのです? あなた程度でどうにかなるものではありません!」


「だよな……。俺一人じゃ結局今でも勝てねえ。一人じゃ及ばねえのはさすがに分かるぜ。でもな、今の俺には頼れる仲間がいるんだ――――。マテウス、お前の剣を貸してくれ」


 ジャスティンはマテウスに近づくと、手を差し出した。


「唐突だな。ジャスティン、私の剣がどういうものか分かっているのか?」


「ああ、知ってるぜ、見てきたから分かる。お前にとって何よりも大事な剣だろ? 丈夫なだけが取り柄の俺の剣とは違い、硬えゴーレムだって斬れるはずだ」


「これは竜族に伝わる大事な剣。この剣にとってゴーレムごときは硬いうちに入らん。……お前に扱えるか見ていてやる」

 マテウスはジャスティンに剣を渡した。


「すまねえな。――――メイベル! お前のありったけの力もよこせ!」

 ジャスティンはメイベルに補助魔法を要求した。


 メイベルが戸惑うように俺を見る。

 マリーの回復の手を止めてまで補助魔法を使うべきか。そう悩んでいるのが分かったが、俺は首を縦に振った。

 今はジャスティンに応えるべきだ、そう感じたのだ。


 そしてジャスティンはそのままオリヴァーに近づいていった。

 かなりの重傷だが、壁に寄りかかり辛うじて意識はあるようだ。


「ジャスティン……」


「オリヴァーのおっさん、あんたの剣、俺に貸してくれ」

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