第140話 神殿内部⑨
「ぐあっ」
石の
「ヒィーーーヒッヒッヒッヒ! やっぱりあなたはお馬鹿な子ですねえ。勇者が引き千切れない蔓を斬れるわけがありません!」
エイブラムが歪んだ顔で笑う。
「う、うるせえ。母ちゃんを――――離しやがれぇ!!」
ジャスティンはもう一度斬りつけるがまたも弾き飛ばされた。
「無駄な努力を。何度やっても同じことです」
「く、くそぉ。てめえ、母ちゃんに何をしたぁ!」
「まったく、先ほどの話の何を聞いていたのです。頂いたのですよ、勇者の生命力を! ヒィーーーヒッヒッヒッヒ!」
「ふざけんな! てめえみてえな奴が母ちゃんを捕まえられるわけねえだろう!!」
「ふん、まあ、三十年前の勇者とはいえ力は衰えていない様子。取り押さえるどころか、まともに戦闘も成立しないほど圧倒的な強さですね」
「じゃあどうやって!」
「それはですね」
エイブラムは髭の無い顎を触りながら、まるで英雄譚でも語るように悠然と話を始めた。
「この世界の勇者はたしかに最強。あの究極の生物である古代竜をも超え、魔王と並ぶ世界の頂点。勇者と戦えるものは魔王のみ。魔王と戦えるものは勇者のみ。歴史上、この双璧を崩す力は何一つ存在しないのです」
「は? 説明になってねえじゃねえか!」
「ヒィーーーヒッヒッヒッヒ! 話は最後まで聞きなさい。勇者はたしかに最強。この世界の限界と言われているレベル200に限りなく近づける存在。どんな攻撃も、どんな魔法も通用しません。ですが、それは我々が知る歴史の話!」
「回りくどいんだよ。てめえ、何が言いてえ!」
自分に酔いしれるエイブラムに、ジャスティンは怒りが頂点へ達しているのを必死で堪えている様子だ。
「あるのですよ! 勇者や魔王を超える力が! それがこれ、遥か古代に栄えた、ラピストリ文明なのです!!」
エイブラムが両手を広げて叫んだ。
「皆さん、逃げてください!」
俺は今まででもっとも強烈な禁呪の違和感を覚え、声を上げた。
しかしそれは一歩遅く、広間全体に広がるほど大きな魔法陣が浮かび上がった。
「うわあぁぁぁぁぁーーー!?」
ジャスティンの身体を電気のような光が貫いた。
ジャスティンだけじゃない。周りを見ると全員がその光に貫かれている。
俺は何ともないが、皆が苦悶の表情を浮かべていた。
「ヒィーーーヒッヒッヒッヒ! 見なさい、これがラピストリ文明の使っていた古代魔法! あなたたちが禁呪と呼ぶ、勇者を超える力の一端です!!」
「て……てめえ……」
「おや、さすが勇者の血を引く者。この状況で意識を保つとは驚きました。他の者は声を出すことさえできずにいるというのに。ヒィーーーヒッヒッヒッヒ!」
「クソが……てめえは……俺がぶっ倒す……」
ジャスティンはもがき苦しみながらエイブラムへ向かって進もうとする。
「……ここまでくると、あなたに敬意さえ感じますね。しかし、あなたがどう頑張ろうとどうにもなりません。そもそも、ここがどういう場所かご存知ですか?」
ジャスティンは何も答えずエイブラムを睨み続ける。
「せっかくの機会だから教えてさしあげましょう。ここは、私が見つけた遺跡。古代魔法の力が宿るラピストリ文明の魔法研究所なのです!」
「……」
「ん~、どうも理解していないようですね。ラピストリ文明の魔法は現代から禁呪と呼ばれるほどの強大な力を持っていました。その力を追い求め、日々研究を続けてきた私は、とうとう大いなる英知が眠るこの魔法遺跡の場所を突き止めました。そしてソルズ教を乗っ取り、ここをソルズ教神殿とすることで、誰にも邪魔されずに遺跡を研究することができたのです!」
「ぶっ……た斬ってやる……」
エイブラムはもがくジャスティンを見ながら目を細め、不機嫌そうな表情をする。
「まったくあなたは……。つまりですね、ここは古代魔法の魔法陣が刻まれた部屋。勇者ですらその拘束から逃れられることはできません。そして、それは勇者ですら抗えない生贄の魔法陣! あなた達も――――私の糧となりなさい!!」
エイブラムの言葉と共に、床からいくつもの石の蔓が飛び出してきた。
勇者マリーに絡みついているものと同じものだ。それらは俺たち全員に絡みつく。
「ヒィーーーヒッヒッヒッヒ! 勇者に比べてあなた達なんて微々たるものですが、英雄エルキュール、勇者の子ジャスティンなら少しは足しになるかもしれませんね! さあ、古代ラピストリ文明よ、力を奪うのです!!」
エイブラムの鬼気迫る顔を横目に、俺は眼前にある、見たこともないウィンドウを凝視していた。
それは先ほどから表示されていた。生贄の魔法陣とやら浮かび上がってからずっとだ。
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ラピストリ文明の罠があなたに呪いを掛けようとしています。
あなたはスキル「破呪」により抵抗可能です。
罠を破壊しますか?
Yes/No
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俺は「Yes」をタップした。
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