第139話 神殿内部⑧

「お、おっさんこそ、大丈夫なのか?」

「今の攻撃を正面から? ゲオさん……あなたは一体……?」


 ジャスティンとマテウスは驚いた表情で俺を見上げる。

 衝撃波で埃まみれだが、怪我はしてなさそうだ。


「ど、どうなっておるのだ……。エルキュール殿……彼はまさか魔王候補なのか?」

 シェミンガム国王がエルキュールに詰め寄った。


「いや、違いますよ。彼は単なるハーフ魔族。ボクの友人さ」


「し、しかし先ほどの攻撃は最上級魔族をもほうむる禁呪……。なぜ耐えられるのだ」


「ボクも驚いたけど、彼が言うように身体が頑丈に出来ているのでしょうね!」


「……」


 とても納得のできる説明ではないだろうに、エルキュールは俺の言葉をそのまま使った。

 エルキュールは俺に気をつかってのセリフだろう。俺もそれに乗っかり、何事もなかったかのように皆に声を掛けた。


「そんなことより皆さん、残っていた宮廷魔導士は全滅しました。今のうちにエイブラムを追いかけましょう!」


「お、おう、そうだな」

「あいつを逃すわけにはいかないな」

「すぐに我々も奥へ向かおう!」


 シェミンガム王国騎士とアルアダ王国戦士は、すぐに隊列を整え奥へと進みだした。

 整然と歩いているように見えるが、全員が俺を意識していると感じる。

 この世界に来たばかりだったあの頃の、あの空気を思い出した。


「ゲオっち」

 エルキュールが背中を叩いてきた。


「エルキュールさん……」


「助かったよ、お疲れ様!」

 笑顔で手を上げ、俺にねぎらいの言葉を掛けた。


「ゲオのおっさん! マジすげえじゃねえか!」

「ゲオさん、ホント助かりました。心から感謝します」

 ジャスティンとマテウスも笑顔を向けてくる。


「ま、ゲオなら当然だけどな」

 メイベルは尻を叩いてきた。


「ほほ、ゲオ殿は私の想像を遥かに超える、魔王様でさえ読み誤る存在でございますな」

 ディルクは俺に頭を下げる。


 皆、何も変わらなかった。

 当然のように俺との距離を変えるようなことはなかった。


 俺が何であろうと、何をしようと、彼らは変わるようなことはない。

 俺だってそうだ。彼らが何であろうと距離を置いたり態度を変えたりなんてしないのだ。

 俺は何を心配していたのだろうか。何だか急に恥ずかしくなってきた。


「ゲオっち! さあ、行こう!」


 エルキュールの掛け声が心地よい。

 皆の視線が俺の不安を和らげる。


 俺はこの世界に居てもいい。

 皆のおかげで、自分でそう思えるようになっていた。




 それから俺たちは、放置せざるを得ない宮廷魔導士の亡骸をそのままにして、更に神殿奥へと進んだ。

 王国騎士や戦士が相変わらず俺を意識していても、もう気にならない。

 俺は皆の盾になるつもりで、率先して先頭を歩いた。


「エイブラム達は近くにいそうかい?」


 俺はエルキュールの問いを確認するため地図を開いた。


「はい、エイブラム達はもう少し行ったところで留まっているようです。それ以上奥には誰もいないので、マリーさん達もそこかもしれません」


「母ちゃんもそこにいるんだな!?」

 ジャスティンから心配そうな表情がにじみ出る。


 ジャスティンの母マリーはこの世界の勇者。魔王と並び世界最強の存在。

 彼女の心配をするのはジャスティンぐらいしかいないだろう。やはり親子と言うべきだった。


「そうですね、いると思います」


 地図には名前が表示されるわけではないが、先ほどから動いていない青い点が二つあるエリア。

 エイブラムが言っていたのもあるし、もう神殿内に青い点は見当たらないので、マリーと第三王子はそこにいると確信していた。


「あいつら、母ちゃんに何かしたらぜってえ許さねえぜ!」

 ジャスティンは拳を強く握り、前方を睨みつける。


 いつの間にかマテウスがジャスティンの横に並んで歩いている。

 その反対にメイベルも並ぶ。


 何の言葉も交わさずとも、絆で結ばれた彼らはジャスティンの力になろうとしている。それが伝わってきて嬉しかった。

 メイベルは俺にとって娘、いや孫みたいなもの。その成長が見られて感慨深いものがあった。


「着いたみたいだね」

 一緒に歩いていたエルキュールが言った。


 通路を抜け、地図上で青い点が固まっていたエリアに出ると、大きな広間になっていた。

 奥には巨大な石像がある。その前に祭壇のようなものが設置されているので、石像はソルズ教が祭る神なのかもしれない。


 エイブラム達は祭壇付近に集まっている。

 だが俺たちは、それよりも広間の中心にいる二人の姿に目を奪われた。


「母ちゃん!!?」


「ジャス……ティン……逃げ……なさい……」

 石でできたつるのようなものにマリーと第三王子が拘束されていた。


「てめえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 ジャスティンは剣を抜き駆け出していた。

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