第138話 神殿内部⑦

「おっさん……何言ってんだよ」

 ジャスティンは困惑した表情でこちらを見るが、少し目を合わせただけで俺は歩みを進める。


「ま、待ってゲオっち! まさかキミが犠牲になるとでも言うのかい?」

 エルキュールも慌てて止めにきた。


「犠牲になんてなりません。俺は最初から頑丈に出来てるので大丈夫です。だからここは、俺が引き受けます」


「最初から? いや、頑丈でどうなるレベルじゃないよ! あれは危険すぎる!」


 そりゃあエルキュールが心配するのも無理はない。

 禁呪は最上級魔族をも倒す、この世界で耐えられる者は数えるほどしかいない攻撃。

 だからこそ今までは攻撃を受けたくなかったのだが、今は俺が受けるべきなのだ。


「まあ、見ていてください」

 エルキュールの肩をポンと叩くと、俺はまた歩き出した。


 宮廷魔導士たちは距離を置いたままこちらの様子を窺っている。

 積極的に攻撃してくる感じはなく、近づこうとすると仕掛けてくるのだろう。

 一人一回しか攻撃できないのだ、向こうは向こうなりに慎重なのかもしれない。


「俺はハーフ魔族のゲオールギーナタンデリオン! 本当はあなた達が禁呪を発動させる前に防ぎたいのですが、その手段が分かりません! なので今は俺が攻撃を受け止めます!」

 両手を左右に伸ばし、ゆっくりと近づいて行く。


 やはり宮廷魔導士は会話が成立する様子もなく、感情のなさそうな表情でこちらを注視している。

 エルキュールやジャスティン達も身動き一つせず、息をひそめて成り行きを見守っているのを感じる。


 これからの俺の姿を見てどう思うのだろうか。

 得体の知れない存在と怖がり、離れていってしまうだろうか。


 ふとそんな考えもよぎったが、俺の決意が鈍るようなことはなかった。


「ぐぎい゛い゛い゛い゛ぃぃぃぃーーーーっ!!」

 ついに宮廷魔導士の一人が禁呪を唱え、俺に斬りかかってきた。


「ゲオっち!」

「おっさん!!」

「ゲオさん!?」


 皆の声が聞こえたと同時に、宮廷魔導士の攻撃が俺に届く。

 当然ダメージは0。

 剣と俺の身体が衝突した衝撃波が広がり、攻撃した本人が吹き飛んだ。


「……!?」

 彼は地面に叩きつけられる前に絶命した。


「ゲ、ゲオっちぃ!!」


 エルキュールの声が聞こえた。

 先ほどの衝撃で辺りは砂や塵が巻き上げられ見えなくなっている。

 俺は構わず進むと、その気配に気づき次々で宮廷魔導士は禁呪を唱えだした。


「ぬ゛お゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉーーーーっ!!」

「があ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁーーーーっ!!」

「う゛う゛う゛う゛ぅぅぅぅーーーーっ!!」


 部屋の中を衝撃波が何度も伝わる。


 --------------------------------------------

 あなたは0ダメージを受けた。

 あなたは0ダメージを受けた。

 あなたは0ダメージを受けた。

 あなたは0ダメージを受けた。

 あなたは0ダメージを受けた。

 …………

 ……

 --------------------------------------------


 一つの攻撃で一つの命が失われていく。

 とても恐ろしい光景が続くのだが、俺に出来ることはない。

 この身で彼らの全てをただ受け止めるだけだった。



「クッソ、なんだこの衝撃!? これ全部おっさんが受けてんのか?」

 ジャスティンは腕を前に出し、衝撃を防ぎながら言った。


「ジャスティン! いくらゲオさんでもこの衝撃は危険だ。私たちだけでも援護に行こう!」

 マテウスが衝撃波に逆らうようにジャスティンに近づいて来た。


「ああ、おまえの言う通りだな! 俺ら二人だけでも助けに行くぜ!」


「待つんだ二人とも!」

 エルキュールが声を上げた。


「な、何だよ兄ちゃん! いくらおっさんでもこれはやべえ! 助けに行かねえと!」


「だめだ、ジャスティン! 二人が行ったところで、いやボクも行ったところで役に立ちそうにない。むしろ邪魔になるよ。ここはゲオっちに任せよう! ゲオっちのことだ、何かあるのかもしれない」


「そ、そうかもしれねえけどさ……」


 ジャスティン達が俺を心配してくれているのが見える。

 エルキュールが言うような何かあるわけではなく、ただ正面から受けているだけなのがきまりが悪いが、信頼されている感じがして嬉しかった。


 気付けば周りは宮廷魔導士の遺体が散乱し、残り一人になっていた。

 あれが禁呪を使えばここは終わりだ。すぐにエイブラムを追いかけよう。


 いくらなんでもレベル198の勇者マリーは無事に決まっている。

 とはいえさっきのエイブラムの言いようも気になる。

 ジャスティンも落ち着かないようだし、早めにマリーと合流した方が良さそうだ。


「ぎぃえ゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇーーーーっ!!」


 最後の一人も禁呪を唱えたようだ。

 俺は一瞬気を抜いたが、そいつは俺とは違う方向へ飛び掛かっていった。


 ジャスティン!? マテウス!?


 俺には攻撃が通じないと悟ったのか。最後の宮廷魔導士は二人に攻撃を仕掛けていた。


「なんだ?! こっちに来たぜ!」

「し、しまった!」


 警戒していなかった二人は、成すすべもなく佇んでいる。

 完全に身体が反応できていない。


 させるかよ!!


 --------------------------------------------

 あなたは0ダメージを受けた。

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 間一髪、俺はジャスティンとマテウスの前に回り込み、その攻撃を受けることができた。


「二人とも、大丈夫ですか?」

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