第136話 神殿内部⑤
「ヒィーーーヒッヒッヒッヒ! 久しぶりですな、オリヴァー。両陛下もお揃いで、どうなされましたか?」
エイブラムのとぼけた態度にオリヴァーが剣に手を掛けたが、シェミンガム国王はそれを制止するように前へ出てきた。
「エイブラムよ、おぬしこそこんなところで何をしておる。ソルズ教徒にでもなったのか?」
「そうですね、それも悪くないですね。ヒィーーーヒッヒッヒッヒ!」
「……。わしらはソルズ教の大主教とやらに用があるのだが、知っておるなら話を通してもらえんかの?」
「大主教ですか。まあ、知らないこともないですが」
「陛下に対して何だその態度はぁぁっ!!」
オリヴァーが堪えきれず剣を抜いた。
「おっと。騎士団長オリヴァーともあろうものが、剣を抜くなんて軽率ですね。ここは神聖なる神殿内ですよ?」
「散々神官たちに襲撃させておいて何が神聖だ!」
「よい、オリヴァーよ」
再度シェミンガム国王はオリヴァーを抑え、
「では話を変えよう。エイブラム、おぬしは何故アルアダ王国第三王子を襲ったのが魔族と嘘をついた? 襲ったのは『赤蜘蛛』と知っておったのだろ?」
「そりゃあ、知っていました。『赤蜘蛛』に第三王子を
「なんだと!?」
アルアダ国王が強く反応し、それに呼応するようにアルアダ王国の戦士たちは剣に手を掛けた。
「それは最初から魔族と戦争をさせるために仕組んだのか?」
シェミンガム国王は片腕を横に上げ、全員を制止するような動作をしながら言った。
「んーー、それももちろんありますが、どちらかというと試したかったからですかね」
「試したかった?」
「ええ、私の研究している禁呪が、魔族相手にどこまで通じるか」
「なんと……おぬしは……たったそれだけのために攫ったと言うのか?」
シェミンガム国王は感情を何とか抑え込んでいるのが伝わってくる。
「たった? 何をおっしゃってるんですか! 禁呪を試すにはそれなりの強い相手でなければ意味がありません! おかげで最上級魔族を倒すことが出来ました。良い事ばかりだったではないですか! ヒィーーーヒッヒッヒッヒ!」
「エイブラム……まさかここまでおかしくなっているとはの……。それでアルアダの第三王子はどこじゃ? もうおぬしには用がないはずだが」
「たしかに用済みでしたが……、王都アルレッタでの魔王候補の登場で話が変わってきました。あいつには私の禁呪が効きません。そもそも禁呪の研究目的は、魔族を滅ぼすため、とくに魔王を倒すためにやっているのです。魔王候補に通じないのでしたら、もっと研究を進める必要が出てきました」
「それと第三王子と何の関係が?」
「なぜか勇者があれを『赤蜘蛛』による襲撃と突き止めたので、彼らの壊滅はもう逃れられません。となると第三王子をソルズ教が連れ去っていることが発覚するのも時間の問題。なら第三王子の存在をこのまま利用して勇者をここへおびき出すことにしたのです」
「勇者だって!? なんでそこで母ちゃんが出てくるんだ!!」
ジャスティンが声を上げた。
「あなたはハーフ魔族のジャスティン。そうですか、勇者の子でしたか。魔族の血が流れる勇者の子……いけ好かない子ですね。最初からあなたは気に食わない子でした。ハーフ魔族の分際で人間の国に入り込み、しまいには勲章を授かる始末。目障りで仕方ありませんでした」
「そんなのいいから! なんで母ちゃんが話に出てくるんだ!!」
「無知で愚かなあなたには理解できないでしょうが、私が研究している禁呪は、生命力を犠牲にして力を一時的に手に入れる魔法。その犠牲が大きければ大きいほど、手に入れる力が大きくなるのです!」
「は? それがどうした!」
「お馬鹿な子ですね。つまり勇者の生命力があれば、いまだかつてないほど強大な力が手に入るのですよ! ヒィーーーヒッヒッヒッヒ!!」
「ま、待てよ……。てめえ、母ちゃんをどうした? 母ちゃんに何しやがった!!」
「話はここまでです。勇者も第三王子もこの奥ですが、あなた達はこれ以上進めません。ただ、もし来られるようなら使ってあげてもいいですが……。さあ皆さん、お相手して差し上げてください」
エイブラムが俺たちに背を向けながらそう言うと、宮廷魔導士団の半数ぐらいが立ち塞がるように前へ出てきた。
「あ、そうそう」
エイブラムは顔を半分向け、
「お探しの大主教ですが、私こそがソルズ教の最高位、大主教エイブラムです。魔王を倒し、人間以外の種族を滅ぼし、世界を浄化する神の使いです。ここで死ぬあなた達にはもう関係ありませんがね」
と残りの宮廷魔導士を連れ、奥へと進んでいった。
「待てよ、てめえ! 行かせるわけねえだろ!!」
ジャスティンは剣を抜きエイブラムを追いかけようとする。
しかし俺は、彼が動く前に大声で止めた。
「待ってください、ジャスティン!」
宮廷魔導士が禁呪を唱え始めていたのだ。
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